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南充浩 オフィシャルブログ

ファッション業界における模倣

2015年8月26日 未分類 0

 ファッション業界においては模倣(完全コピーではない)は必要悪みたいなところがある。

昨日も少し書いたが、ファッショントレンドなんていうのは模倣によって広まるわけである。
例えば、あるブランドがスキニージーンズを作ったところ、非常にファッショントレンド先端層から注目を集めたとする。これが先端層の人気のみで終わる場合もあるが、フォロワー層、大衆層もその商品を欲しがり始めるようになることもある。

これがいわゆる「ファッショントレンド品」である。

先端層は「ファッション変態」みたいな人が多いから、彼らの注目することがすべて大衆層に受け入れられるわけではない。変態の嗜好なんて大衆には理解できないことの方が多い。
それでも何回かに1回はそれが大衆にも支持される。

スキニーがトレンドになったとき、開発元のAブランドだけでは、到底需要は賄いきれない。
競合他社はビジネスチャンスを感じて製造を開始する。フォロワー層や大衆層もそれを求めている。
需要と供給が一致するわけである。

もちろん、本家のAブランドとは微妙に各ブランドはディテールを変えている。
リベットの色を変えてみたり、ヒップポケットに入れるステッチの形を変えてみたり。

本家Aブランドと何から何まで同じようにしてしまうとこれはパクリである。
タグネームまで同じ物を付けるとこれは偽造品である。

偽造品は完全に犯罪である。
パクリも先般のスナイデルコピー事件を見ると今後は完全にアウトとなる。

ただし、スナイデルが毎回常に完全にオリジナルの商品ばかりを発売していたかどうかは疑問だ。
スナイデルも偽造と完全コピーとは無関係だが、模倣することはあっただろう。

スナイデルの商品を完全模倣(コピー)して「Gio」社長、塚原大輝容疑者(36歳)が逮捕されたことは記憶に新しい。
塚原容疑者はスナイデルコピー事件を起こす前には、裏原宿ブランドを偽造した罪で一度逮捕されている。

イリーガルな偽造で逮捕され、ややリーガルになって今度は完全コピーで逮捕されたということになる。
次はさらにリーガルになって模倣品のビジネスを始めるのかもしれないと勝手に想像している。

ビジネス実績だけを見ると塚原容疑者はやり手といえる。
年商数十億円以上売っていたと報道されているし、その前の偽造品でも年商30億円内外あったと報道されている。
その営業手腕はかなりのものではないか。

それはさておき。

今回の東京オリンピックのエンブレムにおいて筆者は佐野氏をまったく支持しない。
しかし、デザインに携わる人の中には支持派もいるし、佐野氏周辺のお友達は完全擁護体制を敷いている。

佐野氏周辺の情緒的擁護論はどうでも良いとして、支持者の中には「ファッション業界なんてパクリばかり」という声もある。
まあ、これはご指摘の通りであるが、ファッション業界でパクリを完全否定することは業界全体を破壊してしまう可能性が高い。

理由は先に挙げた通りである。

偽造や完全コピーは追放するとして、模倣まで追放してしまうと、トレンド市場は形成されなくなる。

スキニージーンズの例に戻ると、本家Aブランドしか供給できなくなるとすると、Aブランドの売上高は飛躍的に伸びる。しかし、同時に供給能力も高めなくてはならない。
自社縫製工場をブランドが構えることはないだろうが、協力工場は確保せねばならない。自社でやらなくても振り屋とかOEM業者を使うこともできる。
しかし、一朝一夕に多くの協力工場を増やすことは不可能である。
相応の時間がかかる。

また多くを作ろうと思うと、それだけ製造費も多くなる。
この製造費を賄わねばならない。

協力工場を増やせずにいる間にスキニー人気は終わってしまうかもしれない。
そうなると市場は形成できない。

そうなるとファッション産業自体が成り立たなくなり、いわゆる家内制手工業的にならざるを得ないのではないか。最早産業とは呼べなくなるのではないか。そう思う。

5ポケットのジーンズは作れなくなるし、トレンチコートも作れなくなる。ボタンダウンシャツも作れなくなる。
ジーンズに各種の洗い加工だって施せなくなる。

そういう意味では模倣はファッション業界において必要悪ではないかと思う。
悪ですらないかもしれない。

そのため、ファッション業界においては、定番品とされている商品の模倣はOKだと考えられてきた。

しかし、先日、アメリカでコンバースが他ブランドを訴えた。
同ブランドの定番スニーカーであるオールスターを模倣したという理由である。

http://t-f-n.blogspot.jp/2015/01/blog-post_29.html

そして訴えられたラルフローレンなどはその類似商品を取り下げている。
コンバース側の勝訴である。

米国の社会事情はまったくわからないが、これは日本人にとっては衝撃的だろう。
なにせ、コンバースのオールスターは「定番品」という扱いだったからだ。

これが著作権を言い始めると完全アウトになる日本ブランドは山のようにある。
今のところ日本国内での訴訟は起こされていないが、アメリカで起きたのだから、今後日本でも起こされる可能性はゼロではない。

先日、オスクレンというブラジルブランドの店頭を取材した。

洋服もさることながら、同ブランド内での定番スニーカーの需要が高いという。
とくにブラジルでは売り上げ構成比の4割がスニーカーだという。

定番スニーカーはどんな形かというと、つま先部分に3つ並んで穴が開いている。
いわゆる鳩目という奴だ。

機能的にはまったく意味がないと思う。
デザイン的な意味合いで付けられているのだろうと思う。

写真77

この意匠を模倣するとするとこれは完全にパクリなのではないかと感じる。
なぜなら、オスクレンというブランドはそれほど知名度が高くないし、展開開始からそれほど時間も経過していないからだ。

明らかに意図的にパクったということになる。

しかし、もう何十年と多くの人に愛用されてきたコンバースオールスターの場合、これは定番であるとの認識が強かった。筆者もそうだし、ラルフローレン側もおそらくそうだったのではないかと思う。

その定番意識が米国で覆されたのだから、これはかなり衝撃的だといえる。

今後はさらに難しいことになるのではないかという気もする。
どこまでをコピーとして、どこからをリーガルな模倣とするのかは、グラフィック業界のみならずファッション業界でも頭を悩ませることになるのではないか。

ただ、業界人が「ファッション業界もパクリばかり」を過度に言い過ぎるとかえって自分たちの首を絞めるようなことにもなりかねない。
そのあたりのことには気が付いているのだろうか。




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