
好調なユナイテッドアローズといえども気温によって商況は左右されるという話
2025年5月9日 月次速報 0
最新の2週間予報や1か月予報を見る限りにおいて、5月12日、13日ごろからにわかに高気温に転じるのはほぼ確定のようで、来週は各社で半袖アイテムの動きが急激に活発化されると予想される。
4月は前半に夏日になる日もあったものの、4月13日以降は低気温の日が続いた。5月の連休もここ数年に比べて冷涼な気温で終始した。
そのために前回も言及したように、各社ともに4月度の販売実績は一部を除いてやや低調に終わった。
再度、別記事を引用する。
気温上がらず各社低調、ユナイテッドアローズは16ヶ月連続前年超え 国内アパレル関連大手25年4月度
国内アパレル関連大手各社が、2025年4月度の既存店売上高を発表した。平年と比べて高気温だった3月から打って変わって、4月は気温が低く推移し、ファーストリテイリングの国内ユニクロ事業や良品計画の衣類・雑貨カテゴリー、アダストリアなどは減収。一方、ユナイテッドアローズは業績を伸ばし、16ヶ月連続の前年超えとなった。
とのことで、ユナイテッドアローズだけが大きく前年実績を越えているというのは他の記事でも言及されている通りである。
ユナイテッドアローズの前年実績越えは16か月連続ということなので1年4か月も続いており、この業績は非常に素晴らしいといえる。
ユナイテッドアローズの要因について記事では
衣類で見ると減収およびほぼ横ばいの企業が多いなか、ユナイテッドアローズは同7.7%増と売り上げを伸ばした。前年同月と比べて平均気温が低く、初夏物カジュアル軽衣料の動きが鈍かったものの、メンズではジャケットとスーツ、ウィメンズではジャケットとパンツが好調に推移。買上客数は前年を下回ったが、価格帯の低い軽衣料の動きが弱かったため、相対的に客単価が上昇したとしている。
とのことで、「価格帯の低い軽衣料の動きが弱かったため」とある。これは低気温のために、半袖Tシャツ類や長袖Tシャツ類、シャツ・ブラウス類の動きが鈍く、代わりにメンズ・レディースともにジャケットが好調だったため、客単価が上がったということになるだろう。そのほか、メンズではスーツ、レディースはパンツが好調だったともあるから、客単価はなお上がりやすい。
好調なユナイテッドアローズといえども低気温によって売れ行きは左右されているものの、低気温対策としてジャケットがメンズ・レディースで動いたと考えられる。このほか、メンズスーツも好調であるため、男女のジャケットと合わせてオケージョン需要もあったとも考えられるだろう。
ユナイテッドアローズの事例を見ると、低気温の春でも気温には左右されるものの、売り上げを稼ぐ方法はあるということがわかる。また、1年4か月もの間、前年実績をクリアしているので、暑い秋にも売上高を稼げているということもわかる。
当方のSNSは一応は業界関係者とのつながりがそこそこある。そのつながり内での反応を見ると「気温に左右されない売り方はある」という手放しの賞賛の声が上がっていて、正直なところ少し危険を感じてしまう。
まず、ユナイテッドアローズの発表内容から見ても、やはり「低気温に売れ行きは左右されている」と読むことができる。軽衣料(カットソー類、シャツブラウス類など)が動かず、ジャケット類が売れたということは低気温が理由の1つだと考えるべきだろう。そしてもう一つはメンズスーツと合わせて「オケージョン対応」という可能性が高い。レディースのパンツも単品パンツではなく、ジャケットと合わせてのパンツスーツ、パンツセットアップではないかとも考えられるので、これも「オケージョン対応」の可能性があると言えるのではないか。
ユナイテッドアローズの強みは、ジャケットを含む重衣料需要やオケージョン需要をガッチリと取り込めているところにあり、それはとりもなおさず、ユナイテッドアローズのブランドステイタスの高さ、ブランドイメージの高さということになるだろう。
実際、業界人の評価や書き込みから見ても、そういう「キチっとした服」はユナイテッドアローズで買いたいという場合が多い。特にメンズにおいては。
うるさ型の業界人でも、完全に納得はしていなくても、ユナイテッドアローズならまあ良しとするかという風潮が強いと外野から見ていて感じる。
これはユナイテッドアローズが長年積み上げてきたものに拠るところが大きい。
そこで話を戻して「気温に左右されないユナイテッドアローズを見習え」という提案について、適切であるように見えるが業界内の多くにとっては実現不可能だと個人的には見ている。
というのも、以前から書いているように、気温に左右されずに先物買いをする人というのは確実に減っている。ユナイテッドアローズといえども気温によって売れる物は左右されている。
ユナイテッドアローズの強みは、「キチっとした服需要」を取り込めている点にあるだろう。ではそういうキチっとしていてそこそこ高い服という需要はどれほどあるかというと、その需要は減少し続けており、恐らく業界内の多くの企業やブランドを潤すほどの大きさではない。
極端に言うと、その手の需要のほとんど(全てではないが)をユナイテッドアローズが囲い込んでしまっている、と考えた方が適正ではないかというのが個人的な意見である。
そういう「キチっと需要」はユナイテッドアローズとその他のいくつかのブランドを支える程度しか残っていないのではないだろうか。だから、いくら「見習え」と言っても見習えないし、見習ったところで早期に結果はついてこないので、よほど資本力のある企業以外は単に経営を悪化させるだけではないかと思う。
なお、今回のまとめ記事では各社の客数増減も記されているが、客数で前年実績を上回ったのは無印良品、しまむらの2社しかない。好調ユナイテッドアローズといえども客数は約5%減に終わっている。
客数5%減から見ても「キチっと服需要」や「ファッション需要」はどちらかといえば減少傾向にあるといえるだろう。
そんなわけで、ユナイテッドアローズ並みのステイタス性の高さがあると自任(錯覚している場合もある)している企業以外は、気温対応に注力した方が失敗する確率は低下するだろう。