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南充浩 オフィシャルブログ

新鮮味のない今春のジーンズ復調

2015年5月15日 未分類 0

 今春夏は久しぶりにブルージーンズに動きがある。
取材をしている体感では、絶好調というよりは下げ止まって微増に転じたという印象である。

ここ2~3年、つねに「今春夏こそジーンズ復活」「今秋はジーンズに注目」なんてことが、ファッション雑誌でもぶち上げられ、ブランドやメーカー側も期待感を表していたが、ようやく今春夏にそれが実績に結び付いた形である。

しかし、ジーンズのある程度の復調の要因はファッション雑誌や国内ブランドのキャンペーンによるものではなく、昨年秋の海外有名メゾンブランドコレクションでこぞって採りあげたからだったのではないかと見ている。

さて、先日、某ブランドの展示会にお邪魔したが、その際、デザイナーがこんなことを言った。

「今春のジーンズ復調ですが、これまでとは様子が違うように思います。これまでのジーンズブームは、カギとなる『形』やブランドがありましたが、今回はそれがない。取り立てて新しいデザインやシルエットが出ているわけではないし、大人気のブランドがあるわけでもない。強いて挙げればクラッシュ加工やリペア加工がありますが、それもマス商品ではない。ブランドに関係なく、デニム生地で作ったパンツが業界通じてまんべんなく売れているという印象です」

と。

この感想には筆者も同感である。

これまでのジーンズブームにはポイントとなる形やシルエット、ブランドがあった。

90年代前半から振り返ってみる。

94年ごろの大ヒット商品は、レーヨンやテンセルを使ったソフトジーンズだった。
大ヒットブランドは「ボブソン」であり、その「04ジーンズ」だった。
他のナショナルブランドもこれに追随したが、その後、新素材テンセルを使った大森企画が登場して、高級ソフトジーンズを打ち出した。

その直後の96年ごろからビンテージジーンズブームが始まった。

ソフトジーンズブームの反動とも言うべき動きで、硬くて重い綿100%の14オンスデニム生地を使ったジーンズが注目を集めた。
50年代・60年代のジーンズを再現した「レプリカモデル」が人気で、その当時のムラ糸を使った凹凸感のあるデニム生地までを再現しようという動きが業界全体に広がった。
現在のデニム生地の主流はこの当時からのものが継続している。

硬くて重い生地を使っているので、当然、ジーンズのシルエットは太目となる。
若い方々は驚くかもしれないが、この当時にまだストレッチ素材はほとんどない。
一部では使われていたかもしれないが、アパレル業界を通じてストレッチ素材はほとんど使用されていない。

そして、ビンテージジーンズブームが終わった直後の98年ごろから、ローライズジーンズブームが来る。
これは一転してシルエットは細身になり、何よりも変わったのは股上が浅くなったことである。
この当時、「股上は浅ければ浅いほど良い」みたいな風潮があり、どんどん股上が浅くなるものだから、少ししゃがんだくらいでお尻の割れ目が丸出しになる。そんな女性が街中にも業界にも多かった。
図らずも随分とたくさんの女性のお尻の割れ目を見てしてしまった。(笑)

ここからパンツの股上が全般的に浅めになり、それは現在まで継続している。
だから現在、ハイウエストパンツが「目新しい」と言われるわけである。
逆にいえば、2000年手前くらいまではパンツの股上はすべからく深かったわけである。

ローライズが定着するとジーンズ市場は落ち着きを取り戻し、少し停滞気味になる。
その間はカラーパンツやなんかの小さなヒット商品が人気だった。
ちなみにローライズブームは細身のブーツカットが主役だったが、この時もストレッチ素材は広まっていない。今から思うと綿100%デニムで細身のブーツカットなんて拷問具にも等しいのだが、この当時はそれが普通だった。

またこのローライズブームは女性が牽引しており、男性が牽引したソフトジーンズ、ビンテージジーンズとは大きく異なる。そして、この後、男性が牽引するジーンズブームは登場しなくなる。

ローライズ・細身ブーツカットが主流となったジーンズ業界に高額インポートジーンズブームが訪れる。
これが2004年後半から2007年半ばまで続く。
シルエットはローライズ・細身ブーツカットだが、このころからストレッチ素材が徐々に広まり始めた。

2007年末でインポートジーンズブームが終わり、2008年からスキニージーンズブームが来る。
スキニージーンズは定番化し、それが現在も続いているという状況であり、このスキニージーンズブームも女性が牽引している。

こう見てくると、男くさいジーンズというアイテムも2000年ごろからブームは女性が牽引する形に変わっていることがわかる。

今回のジーンズ復調とそれまでのジーンズブームの違いは、「新しい点があるかないか」である。

綿100%ジーンズへのアンチとしてソフトジーンズが生まれた。
ソフトジーンズへの反動としてビンテージジーンズである。

男性向けの武骨なビンテージジーンズの反動として、女性に向けたローライズジーンズであり、そのあとは、貼り付くような細身のスキニージーンズである。

今回にそのような「新しい点」があるだろうか。
シルエットは細身ストレートで新鮮味はない。
クラッシュ・リペア加工があるがこれだって「見たこともない」ほど新鮮なものではない。
ビンテージジーンズブーム末期には登場していた。
今回のはそれの焼き直しにすぎないし、それがマスには広がっていない。

となると、新鮮味が何もない中でのジーンズ復調だといえるのではないか。

新鮮味が何もないから、デニム生地を使ったパンツが全ブランドでまんべんなく売れるという事態になっているのではないだろうか。
そしてこの売れ行きはどこまで続くのかは極めて不透明だと感じる。
今春夏だけで終わるかもしれないし、ダラダラと何年か続くかもしれないというのが筆者の印象である。

では、現時点で新鮮味のあるジーンズの切り口はなんだろう。

少し長くなってきたので、次回で考えてみたい。




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