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南充浩 オフィシャルブログ

「ジーンズ人気復活」と言われるが「ジーンズの特殊性」は消えたという話

2025年3月31日 トレンド 0

以前にも書いたが、2022年ごろからジーンズを穿く若者が増えたと感じる。

街頭をざっくりと眺めた印象だが、22年以降は年々その比率が高まっていると感じる。当然のことながら、業界メディアでも「デニムトレンド復活」とか「デニム人気復活」と報道されているが、当方が知っている「昔のデニム人気」とは何かが大きく異なるように思える。

先日、掲載されたこの記事を読んでいて、指摘されている部分は当たっているのではないかと思えた。

ギャップとジーンズカジュアルの「復活」は本物か【小島健輔リポート】 – WWDJAPAN

アバクロに続いてギャップの復活も注目されているが、復活の勢いも手法も全く異なり、高収益で知られるバックルも頭打ちを脱せないでいる。収まらぬインフレ下でのトレーディングダウン(格下げ消費)で米国カジュアルチェーンには総じて追い風が吹いているがジーンズカジュアルの復活とは言えず、わが国ジーンズカジュアルチェーンの先行きも不透明なままだ。

とある。

このアバクロ復活・ギャップ復活というのはアメリカ市場の話なので、我が国のギャップが復活したという話ではない。我が国のギャップ店舗は店頭を見ている限りにおいては、目覚ましい復活はしていないと思われる。

アメリカ市場でギャップが復活したのは、インフレが高止まりしていて、今まで買っていたブランドよりもワンランク安い商品を買いたいという人が増えたからではないのか、という指摘分析である。消極的理由でギャップが選ばれたということになるが、ギャップの主力商品は相も変わらずジーンズなので必然的にジーンズが売れたとも考えられる。もちろん、ジーンズ人気(知る限りにおいてアメリカ人には日本人よりもジーンズの底堅い需要があるが)だから値ごろなギャップが選ばれたとも考えられる。

 

 

さて、日本の「ジーンズ人気復活」を見てみると、「昔のジーンズ人気」と大きく異なる点は、「アイコン的なブランドが無い」と感じられることである。

古くはレーヨン混ソフトジーンズのころは「ボブソン」だったし、ビンテージジーンズブームのころは「エヴィス」「シュガーケーン」などの新興のビンテージレプリカブランド群だった。もちろん、それらに追随する形で他のジーンズブランドも同類商品を発売して、それが大きな市場となったのだが。

2000年代半ばの高額インポートジーンズブームのころは「セブン」や「シチズンオブヒューマニティ―」「ヤヌーク」「トゥルーレリジョン」などなどがブームを象徴する「アイコン的存在」だった。

 

 

しかし、現在の「ジーンズ人気復活」はどうか。往年ほどには「アイコン的存在ブランド」が無いと当方の目には映る。

また、人気が集中しているデザインもイマイチ不明である。以前から書いているように「多様化」している。ワイドシルエットもあればブーツカットフレアもある。またタックの入ったスラックスタイプもある。

こうなると、様々なブランドが様々な「ジーンズ」というよりは「デニム製パンツ類」を提案しているという形になる。ジーンズ人気復活というよりは、デニム生地製のパンツが人気といえる。

 

 

一時期に比べてリーバイスの人気は日米ともに回復していると伝えられているが、それ以外のかつての我が国のジーンズ専業メーカー各社の存在感は薄れたままだ。

かと言って、ビンテージジーンズブームのころのように「新興の専業ブランド群」が大きく注目されているかというとそうでもない。

逆にフルアイテム揃えるトータルブランドやトータルコーディネイトショップの方が、現在のジーンズ人気の恩恵にあずかっているのではないかと思える。

要はマス層は、着回しの一環として「デニム生地製のパンツ類」を求めているわけだから、その他の総合的なアイテムが揃うブランドやショップの方が選ばれやすいだろう。

 

 

以前なら「あんな安物」として愛好家から批判されていた低価格ブランドのデニム生地パンツ類も、現在のマス層にとっては選択肢の一つとなっている。ジーユー、ユニクロ、ハニーズなどなどだ。

街頭でデニムパンツ着用者を眺めていても、以前ほどには着用ブランドを判別しにくくなった。エドウイン、リーバイスなどのいわゆるナショナルブランドと呼ばれていた大手専業ブランドは、必ず尻ポケットにブランド独特のステッチを縫っていたが、今のデニムパンツ類のほとんどは尻ポケットにステッチが無い。(リーバイスとエドウインは今も尻ポケットにステッチはあるが)

またパッと見た瞬間に特徴的な色合いや表面感のあるデニム生地も見当たらないため、どれもさほど大差無いように見える。

そうなると、買う側もブランド名にこだわる必要が無いということになりやすい。

 

この「ブランドにこだわらない」という動きはスキニージーンズのころと同じで、スキニージーンズが登場した当初こそ、一部では「〇〇ブランドガー」というこだわりの声も聞こえてきたが、拡大期に入るとそのような声はほとんど聞こえなくなり、ユニクロやジーユーのスキニージーンズも「普通」に買われるようになっていった。

現在の「デニムパンツ人気の復活」もデザインの一極集中が無いだけで、あとはスキニージーンズブームのころと変わらないといえる。

 

 

このような動きだと、ジーンズ専業ブランドは恩恵を受けにくいし、ジーンズ専業ブランドが復活する契機にもなりにくい。

そして、昔なら「トレンド変化に関係なくジーンズを穿き続ける」みたいな人が一定数いたが、そういう「こだわり派」もめっきり少なくなった。

デニム生地もデニム製パンツも「トレンドの一環」として需要が増減するというアイテムに完全になってしまったということだろう。今回の「復活」も単なるマストレンド変化の一つだし、いずれトレンドが変化すれば、またジーンズ着用人口は激減するということになるだろう。「デニム生地の特殊性」は完全に失われたといえるのではないか。

 

 

 

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