
特定の店が好調でも全般的には「季節先取り」需要が増えることはないだろう
2025年3月10日 トレンド 0
2月は近年ないほどに寒い日が続いた。
立春寒波が去った後でまた寒波が来たことは事前の予報を大きく外すこととなった。そのため、各報道にもあるように春物衣料品は全般的に動きが鈍かった。一方、防寒物は好調だった。
年々、体感気温に則した衣料品の売れ方が多くなり、「季節先取り」で買う人は減っているといえる。以前から書いているように当方も体感気温に則した買い方をしており、季節先取りで買うとすると、昨年物を安値で買って着られる気温になるまで寝かせておくくらいである。
これは夏も同様で、暑ければ秋冬物は動きにくく、2025年の夏が長いのか短く終わるのかは今から業界の関心事ではないかと思う。
そんな中にあっても「季節先取り」で売れている店もある。
例えばこの記事。
ご存知のように2024年は11月18日まで猛暑が続いており、軒並み10月と11月半ばまでは各社苦戦していた。11月度は18日以降に持ち直したという形になっている。
10月は軒並み苦戦だった。
そんな中にあって、ルミネは10%オフという打ち出しも手伝って2024年下半期も好調だったという記事である。
これを受けて「暑くても季節先取りで買う人がいる」ことは理解できる。ただ、ルミネ以外の商業施設や専門店が同様に売れるのかというと当方は疑問である。
「季節先取りで買う人」はたしかにゼロではないし、今後もゼロにはならないだろう。どんな需要もゼロにはならない。ただ、その数が増えるかどうかというとよほど供給体制が変化しないと増えることはないだろうと思っている。
いわゆる「先端層」とか「イシキタカイ系」とか「愛好家」とかそういうスタンスの客層に支持されているやり方をそうではないブランドや店が取り入れたところで効果はほとんど無いことが多い。
極端に言うと、ルミネが売れたからと言ってあなたの店が売れるとは限らないのである。
そしてこういうことは当方の知る限り、90年代後半からずっと続いている。「先端層向けの店で〇〇が売れた」と言ってそれを真似した店が必ず売れるかというとそうでもない。マス層に近くなればなるほど効果が出ないことが多くあった。
季節商材に関していうと25年前よりももっと先物が売れにくいのではないかと思う。
多分、これはブランドや店頭の販促キャンペーン程度では覆らないと当方は見ている。そういう先物買いをする人のほとんどをルミネが押さえてしまっていると考えた方が適切だろう。
それを好む客層が何人くらいいるのか、そしてそれを大幅に拡大させることができるのか?ということを予測・推測する精度を高める必要がある。
これを読み誤ると業績を大きく崩すことになる。
その典型が「高級食パン」というジャンルだろう。一時期は話題となって店舗数がやたらと増えたが、飽和点に達すると店舗が減少し始め、今では数えるほどしか残っていない。
店舗数が短期間で激減したことで「高級食パン」という商材そのものにも悪いイメージが定着してしまった。これを覆すことは中期的にも無理だろう。
ただ、店舗数はゼロにはなっていないから、少ないながらも需要自体はあるといえる。現実的な着地点を考えると、この少ない需要に見合った店舗数だけが残るということになる。需要に見合った店舗数になるまで減少し続けるわけである。
当方も親戚から何かの返礼として高級食パンを2回いただいたことがある。生まれながらのケチな当方は自腹を切って買おうとは全く思わなかったが、いただけるのであれば病気と負債以外はありがたくいただいておいた。
食べてみた感想を言うと、たしかに甘くておいしい。だが、これを毎日食べたいかと問われると要らないと答える。ましてやあの価格である。
それなら、スーパー万代で100円くらいに値下げされたヤマザキパンの「ロイヤルブレッド」を買ってジャムかハチミツを塗って食べている方がよほどコスパに優れている。
恐らく、当方同様に考える人の方が多かったのだろう。最初の数回は新規性もあって「試しに」買ってみた人が多かったが毎日の食事として利用しにくいと感じた人が多くて、リピートにはつながらなかったということになるだろう。
また、需要を拡大するような啓蒙キャンペーンも不発に終わった結果、今の凋落につながった。今後もゼロにはならないが、少ない店舗が残るだけになるだろう。
結局、需要総数とその拡大の可能性を読み間違えた結果といえる。
話しを戻すと、ルミネが10%オフとはいえ、暑い中で季節先取り品が売れたとはいえ、多くの店やブランドが追随しても先取り需要は広がりにくく、当方はむしろさらに体感購買が増えるのではないかと考えている。
これを一変させる可能性があるとすると供給体制が変わって「大幅な品不足」になったときだけではないか。そうなると「とりあえず今買っておこう」ということになる。
なかなか事例は少ないが、2020年からのガンプラ市場がまさにそれで、今まで家電量販店で山積みになったガンプラが品薄になってもう5年である。一時期よりは少しマシになったが、いまだに新製品は開店前に並ばないと買えない。転売ヤーの影響もあると言われていたが、だいぶと排除されつつあるとも聞く。最も可能性が高いのが、当方のように「品薄だから」今のうちに買っておこうかという需要が激増したことではないかと思う。
こういう「品薄」が常態になると、衣料品の先物買いも復活するかもしれない。
現在は数量ベースで98%の衣料品が海外生産品だから、今後、新たなパンデミックや戦争が起きることで、生産や輸送が滞って供給が激減する可能性はゼロではない。そのときは「先物買い」が復活するだろうが、それ以外での復活は考えにくいというのが当方の結論である。
繰り返すが、需要総数とその拡大の可能性を見極めることが重要だと思う。