
「低価格ブランドの男性買い物難民」という顧客設定は無理があるのではないか?
2025年2月25日 企業研究 0
2月20日、ワークマンがワークマンカラーズについて発表した。
ワークマンはある意味で公平な会社なので、当方にもご案内をいただいたが、東京開催だったので欠席をした。常にお知らせを送っていただいていることは感謝である。
注目のワークマンということで、メディアの報道も数多くあったのだが、この会見について最も詳細に記事化しているのはファッションスナップドットコムだろう。
省略している部分はあるが、発言のほとんどを文字化しているのではないかと思われる。それほどの大ボリュームである。
男性の買い物難民を救うポジションに、ワークマンが新生「Workman Colors」披露
土屋 専務取締役は「低価格帯ブランドは女性の需要に偏りがちだが、Workman Colorsでは男性向けの商品を増やすことで買い物難民を救うようなポジションを目指したい」とコメント。初動では商品比率をウィメンズ45%、メンズ42%、ユニセックス5%、キッズ8%で展開し、今後はキッズの割合を10%に引き上げていく予定だ。
とある。
個人的に疑問を感じるのが「低価格ブランドは女性需要に偏りがちで、男性の買い物難民がいる」という認識についてだが、人は自分の生活圏内のことしか認知できない生き物なので、当方と発言者の認識が異なることは当たり前であるということは前提にある。しかし、低価格帯で生活している当方からすると「低価格需要は女性に偏ったものではないし、低価格帯における買い物難民なんていう存在は数少ないのではないか」と思えてならない。
衣料品にすごく興味のある層とそうでない層というのがどの価格帯にも存在する。もちろんそこそこ興味はあるがすごくあるわけでもないという中間層も存在する。
この3つについて考えてみた場合、当方はどの層にとっても「男性向け低価格ブランドがすごく少ない」という状態ではないと考える。
受け皿としてはジーユーが挙げられる。いまだに「ジーユーは若者向け」という固定概念を持っている人がいるかもしれないが、大都心ターミナル店はどうだかしらないが、少し大都心から離れた店舗では老人客が増えている。理由は低価格、それとオーバーサイズである。
大都心とは言わないが、そこそこの都心である大阪市内の天王寺のジーユー2店舗も中高年男女の来店が増えていると感じる。
次に「ユニクロ」がある。
「ユニクロは高い」という声も聞こえてくるが、そういう人がユニクロよりも高いZARAで買い物をしているのを見ると、算数ができないのではないかと思う。
ユニクロは今でも中高年男女が自動レジに行列を作っている。
恐らく「衣料品にあまり興味の無い層」「そこそこ関心はあるが熱心ではない層(中間層)」にとっては、ジーユーとユニクロでほぼ事足りるのではないかと思う。この2ブランド以外にも最近参入してきた「ファウンドグッド」もあるし、中高生向けなら「ウィゴー」もある。さらに舶来物が好きな層には「H&M」もある。これらよりは少し高くなると「グローバルワーク」「センスオブプレイス」あたりもある。
どう考えても「低価格ブランドの買い物難民男性」というのはほとんど存在しないといえる。
一方、すごく衣料品に関心があるという層について考えてみる。
すごく衣料品に関心があるという人が低価格ブランドをわざわざ選ぶというのは珍しいので、この層は低価格ブランド客層にはほとんどいないのではないかと思う。いたとしても少数派だろう。
また、この層だとネット通販やフリマアプリで低価格品を探すことにもたけているだろうし、ZOZOにひしめきあっている低価格ブランド群(モノマートとか)から買うことも手慣れているだろうから「買い物難民」たり得ないのではないかと思う。
以上のことから考えると、低価格ブランドの男性需要はあるが「低価格帯での男性の買い物難民」という顧客設定は成立しにくいのではないだろうか。
ワークマンカラーズはトレンドカジュアルを志しているようで、
トレンド性を強調して売り場鮮度を保つために短納期で製品化できる生産体系を確立。既存アイテムの生産も依頼する中国上海の工場に委託し、マーケットリサーチの内容をすぐに反映できるようにしたという。土屋 専務取締役は「トレンドを外さずに短納期をするシステムについては、中国のシーインから学びました。シーインは7日で生産するそうですが、そこまでは短くできない。ただ、マーケットリサーチをなるべく早く反映するために2025年春夏で展開する新商品は1ヶ月で生産しました。今後はここまで短くしないかもしれませんが、それによって自信はつきました」と説明。
とあるが、生産リードタイムが1か月ということについていえば、多くのタイミングで追加生産は難しいということになる。初回に作り置いて売り減らすという手法がメインにならざるを得ない。例えば、3月半ばに投入される商品があったとする。これを2週間後に追加生産に取り掛かるとすると、最短での店頭納品は4月下旬になる。
3月半ばと4月下旬では気温が全く異なり、東名阪の主要地域では例年の気温推移だと半袖を着用し始める。となると販売するタイミングを逃している。
最近の生産リードタイムの長期化(某OEM会社だと平均45日)から考えると1か月という期間は短いが、最新トレンドに柔軟に対応できるほどのスピード感は無い。
ついでに言うと、ベトナム、アメリカ、EUで規制が強化され始めているシーインに対して「学んだ」というのはどうかと思われる。それとシーインは決してすべての商品を7日で製造しているわけではなく、以前に起こしたデザイナー盗作問題品は同じ商品がアリババでも売られていたという指摘もあり、それを鑑みると、中国の広州市場に流れている低価格品を仕入れているという可能性も濃厚にある。恐らくは自社企画と広州市場流れ品のミックスがシーインの商品調達ではないかと当方は考えている。
以前から書いているように作業服での売上規模拡大が限界に達してきたワークマンとしては、次なる成長分野としてカジュアルファッションを選ぶというのは、これまでのワーキングユニフォーム業界の常套手段だったから驚くことは無い。ただ、これまでの国内ワークキングユニフォーム業界のカジュアル進出は100%に近い確率で失敗してきている。理由は、やっぱり「トレンド」というものの解釈だったり、過剰な期待だったりするのではないかと思う。個人も法人も出身業界や出身企業のやり方を色濃く受け継いでいる。全く違う分野や業界に飛び込んでも身に沁みついたやり方やテイストを完全に塗り替えるには時間がかかる。
ワークマンのこれまでの動きややり方、体制はワーキングユニフォーム業界そのものなので、「トレンドファッション」への解釈や商品テイストは明らかに沿っていない。逆にそれこそがワークマンの面白味だったが、トレンドカジュアルに取り組むということで却って面白味が消えてしまうだろう。そのため、短期間での成功というのは難しいと思われる。成功を目指すのなら腰を据えた中長期的取り組みが必要不可欠だろう。即効性のある成功を求めると高確率で失敗に終わるだろうと当方は見ている。