MENU

南充浩 オフィシャルブログ

百貨店層でも気温の高低で衣料品の売れ行きが大きく左右されるという現実

2025年1月8日 天候・気候 0

各種の天気予報でご存知の方も多いだろうが、昨年は秋口から「ラニーニャ傾向」が生じた結果、11月18日からいきなり気温が下がり始めた。

そのため、12月、1月の長期予報は「平年並み」や「寒冷」にシフトした。

 

異常高温の10月と、11月17日までは秋冬物衣料品の販売が苦戦した。理由は「暑すぎて着られないから」である。いくらデザインがかっこよかろうと、素敵な色・柄であろうと、暑すぎて着られない服をわざわざ買う人は少ない。

ところが、急に気温が低下した11月18日以降は一部を除いた各社は秋冬物が活発に動いて好調な業績をたたき出している。ちなみにその中でも前年2桁割れを続けるライトオンは相当に危うい。

今のところ、業界は総じて「寒波様様」と言ったところだろう。

 

 

寒冷になると言われたものの、年末年始の気温を振り返ってみると、ちょくちょくと暖かい日もあった。大阪基準で言うなら、12月28日・29日は強風を伴った寒波でかなり寒かったが、29日夕方には強風は凪いで30日からは気温が上がり、31日は久しぶりに暖かかった。

1月1日、2日、3日も引き続き暖かく、4日・5日は少し気温が下がった程度だった。1月6日に久しぶりの長時間降雨があり、1月7日からは強風を伴った寒波が襲来している。

東京だと年末の気温は大阪よりも暖かく、12月31日は最高気温が15~17度もあった。

これを見ると寒冷な冬と言っても、ベースは高気温であり、そこに寒波が来るかどうかの違いではないかと思われる。

 

 

それを踏まえて業界メディアでは様々な報道がなされている。

 

百貨店、12月に冬服本格稼働 実需シフトより鮮明に

主要百貨店4社の2024年12月度売り上げ速報が出そろい、各社の業績はおしなべて1割程度の増収だった。11月下旬から12月にかけてぐっと冷え込んだことで冬物衣料の需要が高まり、コートなど高単価な重衣料が動いたことで業績を押し上げた。従来は冬物衣料の販売は10〜11月が最盛期だったが、暖冬により実需シフトの傾向がより鮮明になっている。

各社の12月度売上高は、三越伊勢丹が前年同月比8.1%増、高島屋が同8.4%増、大丸松坂屋百貨店が同7.8%増、阪急阪神百貨店が同8.7%増。

 

とのことである。

 

この記事から言えることは、高感度・高価格という触れ込みがまかり通る百貨店という販路でさえ、洋服類の売れ行きは体感温度で大きく左右されるということである。

いくら、ブランドステイタスが高かろうが、いくらセレブが愛用していようが、暑くて着られない服を買う人は決してマジョリティーではないということを物語っている。逆に寒かったら防寒着を買うのである。

 

 

百貨店、量販店、カジュアルチェーン店を問わず、防寒着類の立ち上げは長らく10月20日周辺とされてきており、その慣行は今でも根強く残っている。

もちろん、徐々にはその慣行も崩れつつあり、例えばユニクロのように通年で軽量ダウンを店頭に並べる(倉庫代わりに)店もある。

とはいえ、だいたいの店やブランドは今でも10月下旬から11月上旬にかけて防寒アウターを店頭投入して、そのまま売り切り御免を狙っている。

逆にいうと、12月のプレセールやクリスマスセール、正月バーゲンもあってプロパー販売できる期間は11月しかないから、その慣行は大きくは崩れないのだろう。

 

 

記事では「暖冬により実需シフトの傾向がより鮮明になっている」と原因を指摘しているが、当方は違うと思っている。記事というのはある程度字数制限もある上に、現実の事象は一つの原因で割り切れるほど単純な物ではないから、編集の都合上でこのような原因指摘になっている可能性は考慮する必要がある。

今冬、11月下旬以降、百貨店に限らず一部を除く各社が軒並み好調な業績に転じているのは、単純に気温が下がったからで、暖冬傾向によって気温が低下する時期が後ろにズレているということは言える。しかし、2023年冬や2019年冬のように暖冬で終始すると、防寒衣料の動きは鈍いまま終わる。

理由は気温が高いからで、暑くて着られない服を買わないという人がマジョリティー化しているからである。

 

2000年代半ばごろまでは「先物買い」「季節らしい服を買わねばならない」という風潮がまだ残っていたが、その風潮がマイノリティー化したことが原因だろう。

暑ければ11月でも半袖を着るし、寒ければ9月でもダウンジャケットを着るという人が現在のマジョリティーである。「オシャレは我慢だ」という人も今でもおられるが、当方を含めたマス層はそんなことのために我慢をする気なんてさらさら無いと考えるべきだろう。

 

これまでは、低価格層にそういう実需傾向が強いとされてきたが、今回の百貨店実績を見ても元来は「高感度・高価格」で消費性向は異なると言われてきた百貨店層でさえ、気温の高低によって衣料品の消費動向は如実に変化するようになったということが分かる。

その傾向は今後、ますます強まることはあっても弱まることは無いと当方は見ている。

デザイン、色、柄の工夫やトレンド対応だけでは、衣料品は高価格層も含めた全般的に売れにくくなってきており、気温・気候で大きく左右されると捉えるべきではないか。洋服の原点は体毛を持たない人間という脆弱な哺乳生物が暑さ寒さを凌ぐためのものだということを再認識すべきだろう。

アパレル各社も小売店各社も天候・気温情報の入手と分析にもっと力を入れる必要があるのではないかと思う。

 

この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ