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南充浩 オフィシャルブログ

依頼されたショートレポートを書くためにアクリル繊維のリサイクルが難しい理由を調べたという話

2024年12月13日 素材 1

このところ、2週間の間にたて続けに繊維素材や衣料品製造についてのショートレポートを合計3本も依頼された。

文字数は1000文字ずつ程度という制限なので、書くという作業そのものはさほど苦ではないが、繊維素材や衣料品製造に関する疑問というのは、川上・川中の人たちが思っているよりも実は存在していて、レクチャーを欲している人は多いのではないかと感じさせられた。

その中の2本は、今流行りの「リサイクル素材」に関することだった。

1つはリサイクル繊維に関する全般的なこと、

もう1つは、アクリル繊維のリサイクルに関すること、

だった。

 

当方も合繊の知見はさほど深いわけではなく、知らないことも多々あるから、ショートレポートを書くにあたっては、業界紙をいろいろと調べてみた。

たしかにリサイクルポリエステルの話は掃いて捨てるほどの報道があるが、リサイクルアクリル繊維の話は聞いたことがない。聞いたことが無いということは、それが実現しない相応の理由があるのだろうと考えられる。調べてみると、現在は日本エクスラン工業の「アクリケア」くらいしか報道が存在しない。

日本エクスラン工業、100%リサイクルのアクリル繊維「アクリケア」を開発 | 繊研新聞

東洋紡グループの日本エクスラン工業は、100%リサイクルのアクリル繊維「アクリケア」を開発した。アクリル繊維のリサイクルタイプはこれまでほとんどなく、サステイナブル(持続可能な)対応品として注目されそうだ。

とある。

 

当方の浅い知識だけでなく、実際に「ほとんどない」ということがわかる。

記事を続けて読むと

アクリケアは、製造工程で発生する重合かすやロス糸といった、これまで廃棄していたものを再び重合し、溶媒に溶かして紡糸したリサイクル繊維。

とある。

要するにアクリル繊維の製造過程で出た廃棄物を再度アクリル繊維としてリサイクルすることに成功したというわけである。

 

 

なるほど、これなら普通に考えてリサイクルしやすいのは納得できる。製造工程で出た廃棄物なのだからそれを集めて再加工すればアクリル繊維になりやすいということは理解できる。

今回のショートレポートでは「衣料品からのリサイクルアクリル製造の可能性」についても質問をされていたのだが、こちらの方はどうやら現状では実現不可能と考えられるだろう。

ではなぜ、リサイクルアクリルが業界でほとんど存在しないかというと、業界紙の記事を調べた結果

 

1、化学組成的に難しい

2、アクリル100%使いの製品が少ない

 

という2点が挙げられていた。

 

化学組成の話は当方は専門外なので、また専門家の解説を待ちたいところである。

100%使いの製品が少ないという点に関しては、アクリルは衣料品としてはウールの代替品として使用されるケースが多く、近年はウール原料の高騰でアクリル使いの衣料品は増えた。しかし、アクリル100%というと低価格のセーター類くらいしかなく、ほとんどはアクリル・綿混やアクリル・ウール混など他の繊維と混ぜて使用される。

複合素材を分解してそれぞれの各種繊維に戻すということは難しい。恐らく現状の技術では不可能ではないかと思われる。実際にそれが成功した事例を当方は聞いたことが無い。

各種繊維に分解できれば、アクリル糸だけを集めて再加工するということは不可能ではなくなるのだろうが、分解できない以上再加工することは不可能である。そしてこれはポリエステルもナイロンも同様ではないかと思われる。100%使いの物は再加工できるだろうが、ポリエステル混複合素材やナイロン混複合素材をリサイクルポリエステルやリサイクルナイロンに再加工することは不可能だろう。

 

 

よって、当方の結論は、製品を回収してリサイクルアクリルを製造するためには、複合素材からアクリルを抽出する技術を確立することが先決であるということになる。

前提となる技術が無いのに、いくら理想を追求しても無駄であるから、もし、衣料品を回収してリサイクルアクリルを製造することをビジネスとしてプランニングされておられるのなら、まず、衣料品からアクリルだけを正確に抽出する技術を確立するために投資すべきである。

 

 

もちろん、理想無くして進歩はないから理想を持つことは必要だが、このアクリルに限らずリサイクル系ビジネスは現状の技術を把握していない夢想家みたいな新規参入者が多すぎるのではないかと常々感じている。

何事においても、現状として存在していないのは、できない相応の理由がある。

 

 

先日と言ってももう何か月も前のことである。グンゼのリサイクル関係の現場担当者と雑談をする機会があった。グンゼはペットボトルのリサイクルなどの取り組みを地道に続けているのだが、その担当者ですら「ペットボトルはポリエステル糸に再加工するよりもペットボトルへと再加工するとか、ペットボトルに貼り付けるラベル素材へ再加工するとかの方がずっと効率的」と話している。

繊維、特に衣料品向けの糸にすると、硬さとか無色にならないとか、そういうデメリットが生じる。現在はソフトで無色な再生ポリエステル糸の開発に成功したという記事もチラホラと見かけるようになったが、普及はまだこれからの話で、硬さも色もほとんど重要視されないペットボトルやペットボトルのラベル素材に再加工した方が、製造加工業者も消費者もハッピーになるのが現状といえる。最もリサイクルが進んでいるポリエステル糸ですらこれが現状である。

 

 

飲食業と並んで消費者向けアパレルビジネスは新規参入者が多く参入障壁が低い。しかしながら、生地や糸の分野に限らず、パターン(型紙)や縫製に関しても専門知識が不可欠である。新規参入者には参入後からゆるゆるとでもその辺りの基本的な知識を学んでいかれることをお勧めしたい。

それにしても、たて続けのショートレポート依頼があったので、意外とこの手の内容の質問先を探しておられるという人も多いのではないかと感じた次第だ。

 

 

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 comment
  • anonymous より: 2024/12/13(金) 10:15 PM

    「業界紙の生地」

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