
ネット通販の普及で低下するオフプライスストアの存在価値
2024年10月29日 ネット通販 0
衣料品販売店で何年間か販売員をやった経験で言うと、実店舗で顧客情報を集めることはかなりやりにくい。30年くらい前の初期のPOSレジを使った経験で言うと、レジを打つ際に自分で男女か子供という属性と、見た目の年代層をボタンで押すようになっていた。例えば男性なら1を、10代なら4を押すという具合である。
ただし、このやり方だと男女と子供は正確だが、年代層は極めて不正確である。18歳と21歳なんてあまり見分けがつかない。さらにいえば58歳と62歳なんて全く区別ができない。58歳だけど60代に見える人は珍しくないし、63歳だけど50代後半に見える人も珍しくない。
ハッキリといえば、かなり適当にボタンを押して入力していた。
一方、ネット通販の場合は訪問客、購入客の情報がかなり正確にトレースできる。ただ、このトレース方法も技術が必要で通り一遍のサポートなら分からないことも多いが、かなり正確にできる技術を持った人は数少ないが存在する。また、カートに商品を入れたが購入しなかったとか、どのサイトから飛んできてどれを経由してどれを買ったかなんてこともトレースできる。
そんなわけで、ネット通販登場前と登場後では購入客の意識だけでなく、販売側のデータ取得精度も大きく変わっているという部分がある。
さて、こんな興味深いコラムがあった。
《めてみみ》H&Mの「アファウンド」撤退を考える | 繊研新聞 (senken.co.jp)
短いコラムなので、全文を引用する。
H&MがオフプライスのECモール事業「アファウンド」を今秋で終了すると発表した。自社だけでなく他社のブランドも含めた余剰在庫をオフプライスで販売する業態として18年にスタートした。
当時、売れ残った服の廃棄が世界的に問題視されるようになっていた。行き場を失った在庫をセールで販売するオープンプラットフォームを作り、業界共通の課題解決を目指すには絶好のタイミングだった。
実際、事業を立ち上げて早々に、17年12月に閉店したパリの「コレット」で扱っていた商品の最終セールを実施して話題を振りまくと、欧州各市場に進出。母国のスウェーデンやオランダにも実店舗を構えるなど最初は勢いがあった。
だがその後、まず実店舗が姿を消し、今年8月にはECからも撤退することを決めた。「顧客の信頼を維持するためには自社商品の値引き販売は自社の責任で行ったほうが良いと考えるブランドが増え、サービスを必要とする企業が想定より増えなかった」とH&Mは説明する。
アファウンドに委ねれば、自社の一存で値引き幅は決められず、どこの誰が買ったかなど詳細な販売データも同業の手に渡ることになる。アイデア自体は悪くなかったが、世界第2位のファッション小売りが競合他社の在庫販売を請け負うというビジネスモデルに無理があったのかもしれない。
とのことである。
多分スタート当初はそれなりに報道されたのだろうが、頭の悪い当方の記憶には残っていない。まずネットでオフプライスモールを立ち上げ、その後実店舗も開設したが、実店舗は数年で閉店。そしてネットも今年閉鎖になったというわけである。実店舗の閉鎖は恐らくはコロナ禍が大きな理由の1つではないかと思われるが、それでも売れ行きに手応えがあれば23年とか24年から再開することもできたはずである。それをしなかったということは売れ行きがイマイチだったのだろう。
あと、このコラムにあるように仕入れ先となる同業他社からあまり支持されていなかった様子なので、もしかすると売れ行きもさることながら、同業他社からの仕入れにも苦戦していたのではないかとも考えられる。
だがそれ以外にもネット通販が存在しなかった頃と比較すると「在庫処分店の重要性」が低下している可能性を個人的には感じる。
というのも売れ残り品の処分というのはどの企業でも頭を悩ませるものだが、ネット通販の普及によってコラム中のもあるように自社で手軽に行えるようになった。
当方はアンドエスティ(ドットエスティから名前が変わった)やアーバンリサーチのネットストア、たまにベイクルーズストア、リーボックストアで買うが、値下がり品ばかりである。
その中でもアーバンリサーチとベイクルーズには「アウトレット」というコーナーがあって、そこで常に型落ち品を値下げ販売している。アンドエスティは別コーナーは設けていないが「セール品」が常に存在している。アンドエスティなんてかれこれ6年以上見続けて買っているが、2~3年間ずっと値下げされたまま並べられている商品は珍しくない。アーバンリサーチ、ベイクルーズ、リーボックも同様である。
こうなると、これらが「わざわざ他社のオフプライス実店舗やオフプライス通販に商品を並べて売ってもらう必要がない」のである。何せ自社サイトで何年間もかけて売り減らすことができるのである。なぜ他社に卸して利益額を下げねばならないのか。
これは国内業者だが、恐らくは海外でも同様だろう。むしろネット通販比率が日本より高い国なら尚更その傾向は強いのではないだろうか。
何よりも自社サイトで不良在庫を値下げ販売すれば、コラムにもあるように「価格設定も自社で決められるし、何よりも顧客情報が直に入手できる」のだから、他社に卸す必要がさらに低下する。
同様にネット通販が普及すればオフプライス実店舗の必要性も下がる。消費者側とすれば実店舗で買う必要性が低下するからし、ブランド側も自社サイトで値引き処分販売できてしまうからだ。
オフプライスストアという業態はアメリカで大きく育っているが、それはネット通販が普及する以前のことだったのではないか。普及以前だとすると各ブランドや各小売店は自社だけでは不良在庫はさばききれないから卸す先を必要とする。また消費者もそういう実店舗を必要だと感じる。
ところがネット通販が普及すれば、ブランドのファンはブランドのサイトで売れ残り品を処分価格で買えば良いのである。
我が国にも2010年代後半からオフプライスストアの立ち上げが活発化したが、コロナ禍があって停滞したものの、コロナ明けもさほど各社ともに店舗数は増えてはいない。最大業者のラックラックですら21店舗くらいである。
国内では今後は各社ともにさらに利益率を追求するだろうから、大手の有力企業であればあるほど自社サイト内で値下げ販売して消化することが主流になるだろう。一方、自社サイトの販売力が強くない企業とか販売サイトが無い小規模業者はオフプライスストアを必要とするだろうし、ネット通販を使えないという消費者もいるからオフプライスストアという業態がゼロになることはないだろう。
ただ、かつてのアメリカでのような伸長は実現しないだろうし、国内に導入された当初に一部から期待されたような規模に成長することはないだろうと見ている。
アメリカで流行っているものが何でもかんでも他国で流行るとは限らないという話である。