
世界的にも国内市場にも何の影響も及ぼさないベネトンの日本撤退というニュース
2024年10月25日 企業研究 3
昨日、ベネトンの日本撤退が大々的に報道され大いに話題となった。
大いに話題となったものの、この撤退が世界経済に与える影響、国内の衣料品市場に与える影響はほぼ皆無である。
世界的に見てもベネトンの売上高は縮小を続ける一方だし、日本市場においては2010年代後半には実店舗が完全に無くなりネット通販のみで存続していたので、売上高は極小だったと考えられる。はっきり言ってあっても無くても構わない存在として数年間、いわば名前だけ残っていたようなもので、撤退するのは当然のことである。
そんなわけで各報道も「撤退しました」という内容しか書かれていない。またベネトン本国のビジネスも語られていない。要は国内外でそれほどにベネトンというブランドが存在感を失っていたということになる。
この話題がSNS上で盛り上がったのは中高年に限られており、若年層にはピンと来ていないばかりか「ベネトンなんて聞いたことも無いようなブランドで大騒ぎするな」(意訳)というような意味の書き込みまで散見された。ただ、いくら若かろうが「聞いたことも無い」というのはいただけない。ベネトンは80年代・90年代のブランドビジネスやマーケティング史においては欠かすことができない存在でもある。それは単に自身の不勉強さを表明しているに過ぎない。
さて、ベネトンの近年の日本市場での足跡を追うのはなかなか難しい。ほとんど報道されていないからである。なぜ報道されていないかというと目立った動きが無かったからである。
例えばこの繊研新聞の記事。
ベネトン、日本市場から撤退 | 繊研新聞 (senken.co.jp)
ベネトンは日本市場からの撤退をインスタグラムで発表した。10月23日深夜に2回に分けて「日本市場から撤退します」「今後はベネトングローバルアカウントをフォローしてください」とのメッセージを投稿した。
ベネトンのジャパン社は85年に設立した。12年には35の実店舗を持ち、13年からECも開始した。現在、実店舗はなく、10月24日時点で企業サイトに表示されているゾゾタウン、マガシーク、dファッション、楽天ファッションでもすでに扱いは中止されている。
インスタグラムの投稿に添えたテキストには「ベネトン公式サイトは日本市場から撤退します。長年にわたるご愛顧を心から感謝申し上げます。今後はグローバルアカウントをご覧ください」とあった。
たったこれだけの文字数である。
他のWWD、ファッションスナップなどもほぼ同様の短い記事である。それほどにベネトンの近年の事績が乏しいということを証明している。
今回の報道、SNS上ではあまり触れられていないが、ベネトンの世界的業績はどうかというと苦戦傾向にあるが、直近ではこの記事がまとまっている。2024年5月の記事である。
同社の22年度の決算は、売上高が前期比19%増の10億400万ユーロ(約1768億円)、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)は同70%増の1億300万ユーロ(約175億円)、純損失は8100万ユーロ(約137億円)だった。23年度の決算は取締役会の承認を得ており、6月18日の株主総会で発表するが、売上高は11億ユーロ(約1870億円)、純損失は2億3000万ユーロ(約391億円)程度と見込まれる。なお、14年の売上高は16億2000万ユーロ(約2754億円)、16年は13億7000万ユーロ(約2329億円)だった。
とあり、22年度は増収しているとはいえ、14年度と比べるとコロナ禍があったことを勘案しても全世界で1000億円以上減収しているから、8年間ですさまじい縮小だといえる。
2015年に上場を廃止し、この記事にあるように社長を交代させ、創業者は退任してしまっているから、今のベネトンは全盛期のベネトンとは別物だといえるだろう。
また、こんな記事もある。
コンドームさえもファッションアイテムにしてしまった「ベネトン」が日本から撤退
「ユナイテッド カラーズ オブ ベネトン」は現在、全世界で3200店舗以上を展開しているが、2023年度の売上高は8億9800万ユーロ(約1472億円)とピーク時の半分以下の規模にまで縮小している。一方で、ベネトングループはすでにアパレルが中心的ビジネスではなく、金融と投資事業が中核になっている。これも時代の流れであろうか。
とある。コロナ禍が世界的にも明けた23年度が、22年度よりも1億ユーロ以上減収しているのは相当に厳しい業績だといえる。また、全世界に3200店舗以上ありながら、売上高が1472億円しかないということは一店舗あたりの平均売上高は4000万円弱ということになり、相当に売れない店ばかりだということになる。
現在は洋服よりも金融と投資が中核になっているようで、日本のマルイと同じ感じだろう。
80年代~2000年にかけてベネトンはイタリアらしいカラフルな色の柄物衣料品で一世を風靡した。ただ、日本だけでなく世界的にも売上高が減少し続けたのは、世界的なファッショントレンドの潮流から完全に外れてしまったということになる。
日本市場でいうと、世界的に全盛期だった当時はベネトンの店舗は本国やジャパン社直営ではなく、販売代行業者が運営していた。90年代後半の新店オープン時に内覧会に出席したが、その時に名刺交換をした店舗運営担当の会社は販売代行業者だったことを記憶している。
その後、ジャパン社の直営体制に変わったが、正直なところ時すでに遅しだった。世界的にもそうだったのかもしれないが、日本国内もすでに直営SPA型店舗のチェーン網の整備が進んでいる状況だったのに、ベネトンはその知名度の高さに反して、店舗数が遅々として増えなかった。
だから、当時は有名な割にはどこで買えば良いのかわからないというブランドの一つでもあった。繊研新聞が伝えているように2012年でも35店舗しかなく、ピーク時はもう少し多かったのだろう(心斎橋店は11年に閉店している)が、それでも50店舗を越えることはなかったと推測される。
これは上陸後発組みのZARA、H&Mと比べて極めて出店数が少なく出店ペースが遅いといえる。
2000年代前半から半ばにかけてベネトンは大型路面店「メガストア」出店計画を立ち上げて進めることになる。関西でいうと、神戸元町、梅田、心斎橋に出店されたが、10年もたたずに全て閉店してしまうことになる。心斎橋店の閉店は2011年に閉店しているし、梅田店も時期がはっきりしないのだが2012年か13年くらいには閉店している。梅田店の跡地はABCマートとH&Mになっている。その後、梅田店はヨドバシカメラ内に移転して30坪くらいの店で存続していたがいつのまにか消えた。東京の表参道店も14年に閉店している。
2010年代後半にはベネトンは日本国内に実店舗が無くなり、ネット通販のみとなってしまっているから、少なく見積もっても5年、長ければ10年近くになる。これほどに露出と存在感が無くなれば今の若い人がベネトンを知らないのも無理はない。
同じカラフルな色調で80年代を風靡したブランド「エスプリ」が世界的に苦戦し、少しテイストは違うがベネトンも世界的に苦戦しているのは、この手のファッションが世界的にもマス層に支持されにくくなっているということが分かる。また日本国内においては、テイストや色遣いは少し異なるが、値段帯はほぼ同じであるZARAがあればベネトンは要らないということになる。
結局のところ、ベネトンは2000年以降の世界的な潮流の変化に対応することができずに業績を低下させ続け、存在感と影響力を無くしていったわけである。
今の状態なら日本から撤退したところで一部の関係者以外は誰も困らないだろうし、例え日本でバブル景気が今でも続いていたとしてもベネトンの服が売れ続けたことはなかっただろう。
とりあえず、50代以上の世代の人にとってはびっくりはするが何の実害もないというのがベネトン日本撤退というニュースでる。
comment
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ミナミミツヒロ的けち生活者 より: 2024/10/25(金) 12:54 PM
エスプリもそうでしたが
色だしには定評がありましたねぇ当時はモロ天然繊維の時代
ユニクロ以降を基準にすると
濃くて深めの色調が多かったものの
あの彩度がある色だしは他ではマネ出来なかった色どりを売りにするブランドなら
低価格路線は避けるべきでした92年ごろ買ったポロシャツをまだ持っています
ウォッシュ系の深いグレーで
ラルフローレンにもフレッドペリーにも
ない色味でしたねもちろんイタリア製で綿100です
そして30年後の今、ほぼ同じ色だしの物が
オール化繊で800円で売っています最近業務用の衣類をよく着ますが
スーパーの服と同じで
キテレツな色味・スタイルの服が
ほぼ無くなりましたといってもオリジナルデザインや
アーカイブのガッチャマンでもないこの色味は・このスタイルは
むか~し流行ったあのブランドのうつしだよな
という事が多いです -
カラフルなファッションに憧れました より: 2024/10/25(金) 6:11 PM
昔はカラフルで綺麗な服はベネトンみたいな高いお店にしかなかったのに、最近はネット通販でとても安く買える時代になりました。最近、原色の服を着ている人が減って、ベネトン風のコーディネートは派手すぎるように考える人が大半だと思います。お金が無くて、ベネトンの服は買えませんでしたが、私はベネトンのカラーコーディネートが大好きでInstagram毎日見てたのでとても残念です。
ファッション興味なかった私なんかだと、ベネトンと言ったらF1しか思い浮かばないっすw
80~90年代はF1チームでもトップクラスで、ナニーニとかピケとかシューマッハとか一流どころが在籍していて、コンストラクーズチャンピオンも取ったりしてましたが2000年ごろにルノーが買収してベネトンの名前はなくなっちゃってましたね。
ベネトンの名前は知っていても、アパレルだと知ったのはだいぶ後でしたし、買おうとも思わなかったですがw