
衣料品のEC売上高とEC化率が鈍化し続けるのは当たり前という話
2024年9月20日 ネット通販 0
以前から何度もこのブログでは書いてきたことの繰り返しになるが、ネット通販も実店舗と同様に売上高総額が大きく伸びるようなことはなくなるだろう。好調店と不調店の格差が激しくなり、一部の好調店、それに次ぐ堅調店、それ以外の不調な有象無象という形が近年明確化してきたように見える。
アパレル関連の上場企業は決算発表を行っているが、それら上場企業でもEC売上高は前年割れというのが珍しくなくなっている。
アパレル単独ブランドとしては国内最大のEC売上高を誇るユニクロも2024年8月期第二四半期決算では、EC売上高は前年比6・3%減と減少に転じている。
ファーストリテイリング、2023年9月-2024年2月期 ユニクロECは減収 ジーユーは大幅増収に | 日本流通産業新聞オンライン (bci.co.jp)
ユニクロのEC売上高は前年同期比6.3%減の743億円だった。
2000年頃からネット通販が倍々ゲームで伸びてきたのは、それまでの売上高も出店者数も分母が小さかったからに過ぎない。
出店者数も利用者数も少なかったため、利用者数が増え、出店者数が増えると当たり前だがネット通販の売上高総額は増える。それゆえに過剰に「成長分野」と持ち上げられてきたという背景がある。
そして、2020年春のコロナ禍による実店舗の一斉長期休業によって、店で買えないからネットで買うという消費行動によって、ネット通販の売上高は一気に急増した。
店が閉まってるならネットで買うしかない。それだけのことである。
ネット通販の固定客になり得る新規顧客はこの2020年春の時点でほとんど獲得し尽くしてしまったのではないかと考えられる。
実際、21年以降はネット通販全体の売上高の伸び率は鈍化し続けている。今、ネット通販を利用していない人は今後もよほど差し迫った事情が起きない限り(急に足腰が不自由になってしまった、近場の店が閉店撤退してしまったなど)すぐには利用しないだろう。
衣料品のネット通販も同様で、全体の伸び率は鈍化しており、個々の企業を見ると好不調がまだら模様である。それを裏付けるのがこの統計記事だろう。
23年度ファッションEC 市場規模は推定1兆8900億円 EC比率は20.3% | 繊研新聞 (senken.co.jp)
繊研新聞社が推定したファッション商品の23年度消費者向けEC市場規模は約1兆8900億円、EC比率(国内ファッション市場に占めるネット販売比率)はほぼ前年並みの20.3%になった。コロナ禍が沈静化した22年度に続き成長の鈍化が顕著だ。
伸び率は22年度推計値1兆7800億円と比べ6.1%増。調査を始めた15年度以降で22年度は初めて伸び率が7.1%増と1ケタ台だったが、23年度はさらに鈍化した。昨年5月の新型コロナウイルス感染症の5類への移行を受けて店頭回帰が一層進んだほか、競争が激化しサイト訪問者数の伸びが鈍っている。
とあるが、個人的な肌感覚で言っても実情に近いのではないかと思う。今後、ファッションECの総売上高の伸び率はもっと鈍化して行くと当方は考えている。
自分自身の生活を振り返ってみると、衣料品以外も含めてECで買う商品が決まってきたし、数量も決まってきた。衣料品ECで考えると、買うサイトは2~4に固定されていてそこに新たなサイトを加えるつもりがない。となると、当方自身の生活から見てもEC購買率が増える要素が見当たらない。何なら無駄なサブスクを廃止し、EC利用率は下がる可能性の方が高い。
一つにこれは当方の新規商品開拓欲がほとんど無いという理由がある。これ以上「新しい何か」を強く欲しいとは全く思えない。そして、マス層でもこれに近いという人が相当数いるのではないかと思っている。
次に、ECサイトが増えすぎて、新しいサイトで調べ尽くして買うのがめんどくさいということも挙げられる。それなら、今利用しているサイトで固定した方が、時間も労力も節約できる。
当方の場合だと、ヨドバシカメラ、Amazon、楽天、ユニクロ、ジーユ―、ドットエスティ、アーバンリサーチ、プレミアムバンダイ、リーボックくらいだろうか。これ以上に購買サイトのラインナップを増やすつもりは毛頭ない。
ということは、あまたある通販サイトに当方が新規流入する可能性は限りなくゼロに近いということで、当方同様に使用サイトが固定化している消費者層というのは相当多いのではないかと考えられる。
上の記事の次の一節がそれを証明しているのではないだろうか。
アンケート回答では年間ユニークユーザー数の合計値の伸びが4.2%増にとどまった。また、実店舗の伸びを受けEC比率の伸びは6割で前年を下回った。
そのためEC比率は22年度比でわずか0.1ポイント増の20.3%となった。
買う物、買う個数も買うサイトも決まっているから、EC化率は前年トントンで落ち着いているといえるし、EC化率が前年割れした売り先は6割もあるということになる。さらにいえば、サイトの訪問者数が伸び悩やんでいるということにもつながる。
ただ、今回のこの統計調査は繊研新聞社の独自の手法がとられており、実数よりもまだ上振れしている可能性すらある。
日本百貨店協会の「全国百貨店売上高概況」、日本チェーンストア協会の「販売統計」、本社の小売業業績ランキングから算出した22年度国内衣料品消費市場規模8兆8847億円をベースに、各種統計から実店舗売り上げの回復度合いやECの伸びを勘案。23年度は前期比5~6%増になるとの推定を元に割り出した。
推定値はアンケートに数値回答のない複数の大手モールのファッション事業売上高の推計値を一部加えており、アンケート回答のみで割り出したEC比率18.5%より高く出ている。
とその手法まできちんと明示されており、信頼性が高い。アンケートのみのEC化率算出では20%割れの18・5%しかなく、もしかするとこちらの方が実態に近い数字という可能性すらある。
コロナ禍による経験から各社ともネット通販を装備することは必須となったが、新規参入店舗がやすやすと売上高を拡大できる状況ではなくなっている。2015年までのような「ネット通販なら売れる」というような甘い認識では損益分岐点に到達することさえ難しいだろう。