ワークマンが商品を細分特化することは強みを自ら捨てる可能性が高いという話
2024年7月31日 企業研究 1
それこそ多様性だが、夏のメンズ服は本当にあまり興味がわかない。
理由は、バリエーションが少なく、暑くて重ね着もできず着こなしも変わり映えしないからだ。
トップスはTシャツか半袖シャツかポロシャツ、ボトムスは普通の長ズボンか半ズボンというくらいしかない。春・秋・冬なら「シャツの上にセーターを重ねてその上からブルゾン」と言った具合に重ね着で工夫できるし、さらにその重ねる服の色・柄でも工夫が凝らせる。全く同じシャツ+セーター+ブルゾンでもシャツとセーターの色・柄を変えると組み合わせバリエーションが増える。
そして、暑がりの汗っかきなので、夏に扱いのめんどくさい素材服は着たくないから、上下ともに吸水速乾素材服ばかりになる。「夏は麻が云々」とかいう決まり文句を聞くことがあるが、試してみた結果、個人的には麻よりもはるかに吸水速乾服の方がマシである。おまけにシワくちゃにもなりにくい。
そんなわけで当方はメンズの夏服への関心が著しく低いのだが、同じ夏服でもレディースはデザインやアイテム数が多彩である。
ただ、仮に当方が同じ体質のまま女性になったとしても、汗っかきなのであんな服を着用できないとは思うが、あの多彩さを見ると、ある意味でメンズ服とレディース服は全く別物で、商品企画やマーチャンダイジングも全く異なるノウハウが必要なのだろうと強く認識させられる。
メンズ服のノウハウしかないブランドや企業が安易にレディース服に進出してもほとんど勝ち目が無いということである。特に短期的には全く勝てない。勝ちたければ中長期的な取り組みが必要不可欠になる。
先日、こんな記事が掲載された。
キャンプブーム終焉 ワークマンは「男子」に回帰 – 日本経済新聞 (nikkei.com)
キャンプブームが終焉したということを論じたいのではない。それはまたいつか別途やってみる。キャンプブーム、ゴルフブームは個人的には「安定期に入った」と思っている。コロナ自粛が全面に終わった今、両分野ともに消費者が爆発的に新規流入することは考えにくい。理由は、様々なレジャーが復活したため、キャンプやゴルフを選ぶ必要が無くなったからだ。今後は両分野ともにいかに固定客を作るかというところが焦点になるだろう。
それはさておき。
ワークマンは成長ドライバーとして位置付けていた女性向けの商品展開を見直し、「原点回帰」で男性向けカジュアル衣料の開発を始めた。
(中略)
ワークマンは作業服領域から「カジュアル化」に踏み出すなかで、女性向け衣料品店「#ワークマン女子」の積極出店を進めてきた。6月末時点では全国に54店舗を展開する。アウトドアブームを追い風に、ワークマン女子が売上高をけん引してきた。
(中略)
ただアウトドアブームが陰るなかで女性向けの売上高は低迷。3月末時点で25店あるワークマン女子の既存店売上高は前の期比11.1%減と前年を下回った。
このためワークマンは女性を意識してきた商品戦略を見直し男性へ回帰する。ワークマン女子の男性向け商品は作業服店「ワークマン」など他業態と重複していたが、今秋から男性向けの専売品約30点を投入する。ニットやカーディガンなど普段使いの商品を中心とする。
とあり、当方はここに注目した。
ワークマンの成長率の鈍化、2期連続の減益の理由の1つはレディース服があまり上手くないのにレディース服を強化したという点が挙げられるだろう。もちろん、個々の商品については良い物もあるが店頭を見ていると、他社レディース店舗と比べるとどうしても見劣りする。
ワークマンは元々が作業服業界出身で今でも作業服がメインの商材である。作業服業界の顧客層はほとんどが男性であるため、男性向けのノウハウは蓄積されているが女性向けのノウハウは社内に蓄積されていない。機能性と低価格だけでは女性服は勝ち抜けない。当方の目から見ると、ワークマンの女性服はどうしても男性向け目線の機能性と低価格のみに頼り過ぎているように映る。
もちろん、ワークマンも努力はしていて、何人かの女性のアンバサダーと契約していることは当方とて知っている。しかし、その女性アンバサダーはアウトドアだったりバイクだったりそういう専門なので、いわゆる「レディースファッション」「レディースカジュアル服」の専門ではない。畢竟、彼女らが求めるレディース服の優先順位は恐らく、機能性が1位になり、デザインや色・柄、レディース服としてのファッション性などは二の次になりやすいと考えられる。
そうなると、1度目は物珍しさで買った女性客もいるだろうが、リピーターにはなりにくい。特に「ファッション用途」「カジュアル服用途」としてワークマン女子が選ばれることは少なくなる。作業用やアウトドア用の機能性服の需要はあるだろうが、年がら年中、毎週作業服やアウトドア服ばかりを買う女性はそんなにいない。ファッション用途、カジュアル服用途の女性客は必然的に同価格帯ならユニクロやジーユー、しまむら、その他低価格ブランドに流れることになる。
ワークマン女子を強化するには中長期的な取り組みが必要だろうし、レディース服の専門チームも必要だろう。またファッション性にフォーカスした「ワークマンカラーズ」も立ち上がっているが、こちらも短期的な成功はおさめにくいだろう。同様に中長期的な取り組みが求められる。
そして気になったのが
「これまでは商品を(他業態と)共通化してごまかしてきた。出店を進める上で商品も本格的に作る」(ワークマンの土屋哲雄専務)。来春には男性と女性が併存する新型店舗の展開も計画する。
という箇所である。
個人的にはこの方針は恐らく逆効果になるだろうと予想する。今まで不良在庫が急増せず、長い販売期間で売り切ることができたのは「他業態と共通化した商品だったから」こそである。逆に男性向け、女性向け、男性カジュアル向け、女性カジュアル向けとして細分化すればするほど売れ残った時の処分ができにくくなる。共通化していれば「ファッション用途としては売れなかったが、作業服用途なら売れた」ということもできるが、特化してしまえばその用途で売れなかった服は他用途としては売れないので、投げ売りするしかない。
商品企画の精度とマーチャンダイジングの精度をとてつもなく高めることが求められる。これは当方の邪推かもしれないが、この一文を読んでいると、その危険性を全く認識されていないのではないかと思えてくる。(ちがってたらごめん)
細分化することはワークマンの本来の強みを自ら捨て、その他一般のアパレルと同じ土俵に立つことになる。相当に中長期的な展望と、痛みに耐える覚悟がなければ成功せず、却って業績を悪化させることになりやすい。
個人的には「悪手」を打ったようと感じるが、今後どのように推移するか、外野から観察してみたい。
ワークマン女子をカジュアル衣料未経験の個人オーナーがFC運営するのは無理ゲーに近く、経験者でも難易度が高いと思います。
ワークマンプラスの一部として女性用アイテムを置くのであれば、オーナーの負担も少なめでちょうど良かったんじゃないかと。
ハニーズあたりの大きな企業にワークマン女子を共同運営してもらい、女性向け衣料のノウハウも教えて貰えば良いんじゃないでしょうか