
民事再生法を申請した大賀のこれまでを振り返ってみた
2024年7月29日 経営破綻 7
老舗スーツメーカーの大賀が26日、民事再生法を申請した。
正直なところ、失礼を承知の上で言うと、2024年現在の衣料品業界において大賀の経営破綻はそんなに大きな影響力は無い。
今回は、オッサンが個人的に過去を懐かしむだけの内容である。
紳士スーツを主体に扱い、全国の百貨店を中心に専門店に販路を形成、ピークとなる1992/7期には年商334億8356万円を計上していた。
しかし、その後は景気低迷やスーツ量販店との競合などから業績は落ち込み、社有不動産の売却をはじめリストラを進めて建て直しを図っていたが、減収に歯止めをかけられず、収益面も赤字が慢性化、厳しい経営が続いていた。
近時はコロナ禍によって売上は20億円台にまで低下、生産コスト増もあって経営状況がさらに悪化していたところ、今回の措置となった模様。
負債は、2023/7期B/Sによると大賀㈱が39億2424万円、宮﨑クロージング㈱が約7211万円、2社合計39億9635万円。
とのことである。
大賀が業績のピークだった92年7月期は当方はやっと社会人になったばかりくらいなので、大賀のピーク時の雄姿を知らない。
97年に業界紙記者になった時にはすでに盛時よりは業績は下降していたが、まだまだ百貨店紳士服売り場や一部のファッションビルにはそれなりに影響力があった。
他の報道ではほとんどが必ず見出しに「キングタイガーの」と付いているが、ハッキリ言って、97年に当方が業界紙記者になったときには「キングタイガー」はもう消えていた。もしかしたらまだ一部に存続していたのかもしれないが、取材でも話題になるようなことはなかったから、消えていたと言っても問題ないだろう。
当方が今年54歳だから、54歳の当方ですら知らない「キングタイガー」なんて見出しにつけられたところで、当方より下の年代にはさっぱりわからないだろう。キングタイガーと聞いて真っ先に思い浮かべるのは戦車ではないか。
90年代後半以降、大賀の看板だったブランドはライセンス契約していた「キャサリン・ハムネット・ロンドン」だろう。ただ、この当時の大阪・谷町筋にあった大賀本社には「キングタイガー」の看板がかかっていたことを今でも鮮明に覚えている。ちなみに、先輩記者に「キングタイガーって何ですか?」と尋ねたら「大賀が昔、売っていたスーツブランド名」だと教えてくれた。
何でも、大賀を音読みで読むと「タイガ」となるので、キングタイガーというブランド名にしたんだとか。
さて、「キャサリン・ハムネット・ロンドン」だが、これは百貨店、一部ファッションビルでもそれなりに売り場があった。価格帯はスーツで8万円くらいだったと記憶している。
定価では買えないので、当方は谷町筋の本社で行われるファミリーセールに行って買っていて、だいたいキャサリンのスーツが3万円くらいにまで値下がりしていた。
何着か買って着ていたが、さすがに20年以上前のスーツなので現在着ることはない。ただ、すごく高級なウール素材が使われていてもったいないので捨てるに捨てられず、まだ残している。
20年前に大賀のファミリーセールで買ったキャサリン・ハムネット・ロンドンのウールジャケット
90年代後半になると例のユニクロブームが起きて、キャサリンだけでは高すぎるということになり、もう少し安い価格帯(とは言ってもユニクロほど安くはない)のブランドもファッションビル向けに導入するようになり、モルガンとかキャサリンのセカンドライン「ハムネット」なんていうのも展開するようになった。
2003年に業界紙を退職してからは疎遠になっていたが、2010年くらいに再び接触するようになったが、この間に大阪本社を谷町筋から枚方に移転していたようだ。
大阪本社を手放して、郊外へ移転させるということはすでに家賃などのランニングコストを維持できない状態になっていたと見るべきで、業績の低下が顕著になっていたのだろうと推測される。
2010年代半ばごろには看板だった「キャサリン・ハムネット」のライセンス契約が終了し、ほぼ同時期にモルガンの契約も終了していたと記憶している。
こうなると、ある程度のマス層に向けたブランドが全て無くなるということで、よほどの代替ブランドを用意するか、自社オリジナルブランドを大きく育てるほかないが、傍から見ているとそれは上手く行かなかったといえる。
現在の大賀の看板ブランドは、恐らく「コルネリアーニ」と「ティモシー・エベレスト」ではないかと思うが、このどちらも、ショップが全国に百貨店内4店舗ずつしかない。これでは業績は到底回復しないし、マス層に認知されるはずもない。
そうは言っても、実店舗網を整備するには資金力の豊富さも求められるから、業績が低下し続けた大賀にとってそれは実現不可能だったといえる。
直近の23年7月期の売上高はわずか27億8000万円にまで低下しており、ピーク時だった92年7月期の10分の1未満にまで縮小している。これでは盛り返すことも難しかっただろう。
今回の報道があり、元大賀の社員に久しぶりに連絡をしてみると「引継ぎ先はすぐに見つかりそうです」という見通しだったので、その点については安心している。
民事再生法というと、スポンサーが見つかると経営陣は総退陣するので、スポンサーが見つかった場合は現在の創業家である大賀家は大賀から去ることになるだろう。
それにしても、かつてはメンズスーツの集積地だった大阪の谷町筋界隈もほぼ壊滅してしまった。ロンナーは2020年に廃業し、メルボも経営破綻後に青山商事に併合された。大賀はすでに大阪本社を枚方に移していたが、今回経営破綻した。トレンザは健在だが以前に一度経営破綻しているし、ある程度堅調なのはジョイックスだけだが、ここもすでに伊藤忠商事の子会社である。
そんなわけで、谷町筋アパレルが今や夢の跡である。
comment
-
-
ミナミミツヒロ的節約主義者 より: 2024/07/29(月) 5:34 PM
紳士服・重衣料の谷町か・・・
古くは「表地・芯地・裏地」の構造を持つ服
ということでしょうが、コートを含め、広い面積で
芯が入った服を着ている人は、今やほぼゼロだと思います十分な設備と人はあるから、規模を数分のいちにして
オーダーベースでほそぼそと、と思いきや
ド田舎の支店工場は全員解雇・設備は産廃で
完全閉鎖というケースが少なくありません関西の工場も、大きい所が完全になくなる可能性が
あると思います今となってはスーツなんてコスプレ扱いですからね・・・
大賀はどちらかといえばコートがうまかったな
-
ミナミミツヒロ的けち生活者 より: 2024/07/30(火) 6:14 PM
重衣料・紳士服の世界の縫製工場の仕事が
ここ21世紀になってから、パートを含めると
500人分は無くなったと思います最低賃金の深追いをして
北海道・九州に工場を作るのが流行ったのが50年前大賀のさよならで中堅どこは全て消えましたから
大きいところで残るは上流直系の1社のみあとはご本尊様の子分と弱者連合
以上合わせて、国内で高級紳士服を作る縫製工場
それも独自技術を持つところは5社程度に集約されました最後は上流直系が残ると思います
-
キムゴンウ より: 2024/07/31(水) 10:05 AM
以前鹿児島・宮崎の高校を相手に仕事をしていましたが
そちら方面には 縫製の仕事は細々とあったようでしたが
今はどうなってるんでしょうね?淡路島にもワールドの工場があったように記憶していますが、あちらは婦人物でしょうかね
スーツ1着つくるにも 裁断や縫製、まとめ作業、ボタンホールや最終のシワになりにくい加工までありますから、スーツを縫っている人以外にもすそ野は広いですよね
だれも彼も スーツにリュックが普通になり あぁスーツが泣いてるな なんて思うのは
メンズEXなりで スーツ姿に憧憬を持った古い世代しかいませんかね
それでも昨日見たショート動画では「就活をスーツ量販店のスーツでする奴」として、青山のセレクトショップや銀座のデパートでスーツを買い求めた学生からの、上から目線の動画がありましたから、就活生はそれなりのスーツを着用しているのでしょうか? -
ミナミミツヒロ的節約主義者 より: 2024/07/31(水) 11:40 AM
キム氏>就活生のスーツ事情は?
スーツの社会的需要は、若い順に
1.就活 2.入社式 3.結婚式 4.(裁判所)5.葬式
でしょうが、1~3のラインに乗れる若年層が
大きく減ってしまいました大賀の売上の減り方同様、人数ベースで勘定すると
バブル期の1/10になっていると思いますちなみに私服でJKTといっても、1年のうち8か月は
JKT不要なのが21世紀の日本の気候です外的な要因での需要がほぼゼロになった
にもかかわらず、需要がアホみたいにあった時代に
極端な分業化とIT化を進めたのが
今では足かせになっています「縫ってプレスするだけ」では、恐ろしい着数を
こなさないと従業員に給料が払えませんパターンはもちろん裁断すら分業化に成功したのは
すさまじい需要あってゆえ大量生産と品質を両立できるカンバン方式な服作りが
もてはやされたのは今や昔今では大量生産しようにも、大量に需要がありませんw
で、需要を1本化して上流直系とご本尊様の手下に
すべてが集約されて・ジエンドですという話を世紀末にいろんな人にした記憶があるけど
相手はもちろん覚えちゃいないでしょう
今となってはアワワワ状態でしょうが・・サテ、10月いや11月になったらひさしぶりに
手縫いのJKTをタンスから出そうかな・・・でも着用できるのは11月と3月のわずか2か月ww
こんな気候の日本に誰がしたwww -
キム ゴンウ より: 2024/07/31(水) 11:51 AM
節約主義者様
確かに この暑さは本当に敵ですよね
私も汗でベトベトするのがいやで
リネンのJKTを着用していましたが
今や そんなもの着られません
パナマ帽子で日差しをカットできた時代よさようなら~ですよね
伊達の薄着であり この暑いのに ストールを巻くような
酔狂な人は もはや気温的に無理ですね -
ななしさん より: 2024/08/02(金) 3:24 AM
いい加減冠婚葬祭の礼服新調しないと、なんて話を知り合いにしたら
そのあたりはもうレンタルで良いやってなったよと言われ、そんなサービスがあることを知りました。
何回使うかわからんものを、保管場所や手入れにも金かけて自前で所持する理由が薄いのもわかってしまうのも。
なんだかんだでひとりひとつはもってるよね、すらもう過去の認識になるのか…
大賀には子会社に「互洋」があり、大賀の近所にありましたね。
扱うブランドは「SONIA RYKIEL」でした。
ファミリーセールで覗いた程度の知識ですが
5万円くらいはしていたような気がします。スーツです。
もっとも宣伝方法も悪く、ターゲットに合わない「プレジデント」に出稿してましたね
間抜けな話です
その当時の社長は森脇健二氏のお父さんでした
余談ですが、森脇健二氏よりイケメンでした
幹部社員がスクーターで事故死したとかも聞きました
紳士服の中心地・谷町から 枚方の縫製団地で倒産
人間の一生のように浮沈のありすぎる「生涯」ですね
まぁ 藤四郎の背伸びしたコメントをお許し下さい
※キングターガーって 生駒山の麓の制服会社のブランドもそうではなかったでしょうか?