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南充浩 オフィシャルブログ

デジタル化一辺倒は却って不便だと感じた話

2024年6月19日 トレンド 1

世の中、というか自分のフェイスブックグループにも50代半ばから後半、60代前半くらいの男女が相当数いるのだが、彼・彼女らのほとんどが「人生はこれからだ」みたいなことを書いていて、同年代か少し年下になる当方はいつも「本気で言ってるんかな?こいつら」と疑問しか感じていない。

まだヨボヨボにはなっていないし、それなりに気を付けてランニング、軽度筋トレ、軽いストレッチなどを欠かさないようにはしているが、やはり若い頃に比べると疲労度合が全く違う。さらに精神的にも意欲が今一つ無くなっていることを強く自覚しており、とてもではないが「人生はこれから」とは感じられず「もう人生は終わりに近づいている」としか感じられない。ゆっくりとではあるが終活を開始し始めたところである。

 

 

終活を始めたときに真っ先に気になったのが、膨大な量のデジタル登録の処理である。

SNSのアカウント、ネット通販のアカウント、複数持っているメールアドレスなどなどである。これら一つ一つにアカウントやIDがあり、パスワードがある。2010年ごろからSNSをやり始めたが、その当時の当方のデジタル登録情報というのは数量がしれていた。

どうだろうか。開始したばかりのSNSを合わせても10個も無かったのではないかと記憶している。

しかし、2024年現在では銀行口座も合わせると30個くらいはあるのではないかと思う。もしかしたらもっと増えているかもしれない。

これを一つずつ、ID、アカウント名、パスワードを記憶することはもう無理である。そこで当方は、逐一、スマホ内のアプリやメモに書き込んで保存しているが、ハッキリ言ってこの作業がめんどくさくてたまらない。

 

 

2020年7月に父が亡くなって、弟が死に、妻にも去られていた当方は1人きりで死後の処理を何とか完遂した。役所やら年金事務所やら銀行やらの手続きはめんどくさかったものの、所定の書類とハンコを用意すれば時間はかかるが終わらせることができた。特に亡父は当方と似ていてめんどくさがりだったことが幸いして、デジタル登録はゼロだった。携帯電話のメールすら打てない(覚える気がなかった)人間である。これはこれで生前は不便だったが、死後は便利だった。何せパスワードがわからんとかそういうことが皆無なのである。すべて書類を提出してハンコさえ押せば完了した。

この経験から、父世代でデジタルをほとんど使わない人の死後処理はけっこう楽だが、今の70代前半から下の世代の死後のデジタル処理はかなりめんどくさいことになると感じている。

2010年頃まではデジタルへの登録数も少ない人(10個程度)が多かったが2020年代に入って各人のデジタル登録数は格段に増加している。

パスワードやIDを記録して残していない人も相当数いるだろうから、今後幽霊アカウント、幽霊IDは増加の一途をたどることになるだろう。

 

 

 

当方の終活としては息子たちにデジタル登録のID、パスワードを記録したもののありかを伝えることが最重要課題になるだろう。

それ以外の従来通りの手続きは役場や税理士や司法書士に相談すれば済む。

そんなわけで、最近当方はデジタル登録を極力避けたいという気持ちが高まっている。先日、新たなビジネスチームに参加したのだが、これが新しい連絡用アプリの導入とNFTの導入が求められており、気持ちが萎え萎えである。連絡用アプリまではまあ我慢するとして、NFT?の導入はもう勘弁してもらいたい。

これ以上不必要にIDもパスワードも増やしたくない。もう気持ち的にデジタルは飽和状態にある。

 

 

 

先日、少し年配の業界の先輩とデジタル話になった。

その人も仕事柄ある程度はデジタル対応していて、メールはもちろん、SNSや画像修正なんかも使いこなすが、最近の「何でもデジタルで便利になる」という風説の流布には疑問を呈されていた。

当方も同感である。管理するID名とパスワードが増え続けるだけで便利というよりわずらわしさが際立っている。ちなみに当方はキャッシュレスアプリも使ってないし、ナンタラPAYも使っていない。今後ずっと使うつもりもない。

 

そんな中、終活に関していえば、今後相当数混乱が増えそうなのが、銀行の紙の通帳廃止である。当方にも「デジタル通帳にしませんか?」というお知らせが来ているが、絶対に紙の通帳は廃止しない。

亡父や亡母のようにガンで余命半年とかそういう死に方で、なおかつしっかりとIDとパスワードを記録保管しているならデジタル通帳にしていても問題はない。余命のある間に子供たちに伝達すればそれで済む。

だが、急死・突然死した場合どうか。

IDもわからん、パスワードもわからんという話になる。何のかんのやれば口座の処理は最終的には可能だろうが、今までの書類提出とハンコで済ませていた処理に比べると膨大な手間と時間が必要になるだろう。

その先輩も急死・突然死する可能性を考慮して紙の通帳は絶対に使い続けると言っておられた。紙の通帳の便利なところは、急死してもそれさえあれば遺族が銀行と支店名、口座番号、残っている預金額が簡単に把握できる点にある。

 

デジタル化は便利な部分もあるがすべてにおいて便利なわけでもないし、行き過ぎたデジタル化は人間が急死・突然死する可能性が無いという極めて楽観的な仮定のもとに作られており、甚だ脆弱なシステムだといえる。

何事においても一本足打法は危険なのである。狡兎三窟である。

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 comment
  • 読者 より: 2024/06/20(木) 12:22 AM

    これは南さんならではの記事でアパレル分野関係なく秀逸な話だと思った。
    自分も今週一人暮らし73歳の親戚が倒れて救急隊から連絡あって対応したが、
    孤独死未遂の状態で酷いものだった。
    脳梗塞で倒れ当人はもう家には戻れないだろうと看護師は言っていた。
    ゴミ屋敷の中で保険証を探したが部外者には発見不可能だった。
    家財の掃除片付けや処分はだれがやるのか?
    母方で他の家なので自分には関係ないのだがおそらく誰も処理せず将来は相続放棄され
    土地や建物が廃墟化し近所の家が困るのだと思った。

    当事者の兄弟姉妹の無責任ぶりが酷い。70代にもなって恥ずかしい大人達だと思ったが、
    今はこういうの普通だとケアマネージャーの方が言っていて寒い時代だと思った。
    高齢化社会はこういうことがありえる社会で南さんのように備えることが大切。
    まあ大半は子供が世話すると思うけど、子なしだとこうなるリスク高い。

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