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南充浩 オフィシャルブログ

1800年代後半のデニム生地を実際に触った人ってどれくらい存在するの?

2014年11月28日 未分類 0

 筆者自身にはまったく興味がなかったが、先日こんな記事が各メディアで発表された。

ここは繊研プラスから引用したい。

コートジボワール綿ジーンズ発売
http://www.senken.co.jp/news/ivory-coast-jeans/

ジャパンブルー(岡山県倉敷市)は19日、メンズ「ジャパンブルージーンズ」で、コートジボワール産の手摘み綿花を使ったコートジボワールコットンジーンズを26日から世界同時発売すると発表した。

 コートジボワールコットンは「国内では初めての採用」になる。体になじみやすい風合い、自然な色落ちが特徴だ。売り上げの1%はコートジボワール大使館を通じて公共施設の建設などに寄付する。初年度は5000本の販売目標。

とのことである。

業界外の人には耳慣れないジャパンブルーという社名だが、

同社は11月1日、デニムを中心とした生地卸販売のコレクトと、ジーンズ製造卸の藍布屋が経営統合して新会社として発足した。15年2月期売上高は37億円の見込み。「桃太郎ジーンズ」を主力ブランドに国内外で販売するが、ジャパンブルージーンズも今回の提案などで成長させる。製品事業を強化し、19年2月期に売上高を50億円とする中期計画を立てている。

という背景で成り立っている企業である。

アフリカの新興国との結びつきを強めることは、国益から照らし合わせてみても妥当であり、筆者は商品自体にはさっぱり興味はないが取り組み自体は発展することを願わずにはいられない。

さて、この試みに対して、与党の某議員がこんなツイートをしている。

「ジーンズでコートジボワールを支援。デニム生地・ジーンズ製造販売の倉敷市児島の「ジャパンブルー」。アフリカは綿の原産地。コートジボワールの綿はデニム生地にすると、1800年代後半の米国のジーンズに似た風合い、肌触りとか。アフリカ議連会長の私としては、本当に嬉しい。買いますよ」

これに対して、多数の賛成の声があるのだが、個人的には疑問を感じる。
こういう見方が一般的になればなるほど、生地製造も含めた日本のジーンズ製造業は競争力を失うのではないか。

まず、「1800年代後半の風合い・肌触り」という部分なのだが、現在のジーンズ業界で1800年代後半のデニム生地の風合いや肌触りを明確にイメージできる人間が何人存在するのだろうか?
1800年代後半というのはジーンズという作業ズボンが初めて製造された頃である。
その当時のジーンズというのはほとんど残っておらず、たまたま発見された物がリーバイスで保管されている程度だ。

120~130年前のジーンズなんてそんなに残っていないから、一部の生地製造業や老舗メーカーにはその当時のデニム生地を触ったことがある人が幾人か存在するかもしれないが、大多数は触ったことも実物を見たこともないだろう。むろん、筆者もその一人である。

さらにいうなら綿の繊維長の長短で生地の風合いは左右される部分はあるが、それだけではない。
製造する糸の太さによっても大きく左右されるし、糸の撚り合わせ方(撚糸)によっても、生地の織り方、生地の経糸と緯糸の密度の高低でも生地の風合いは変わる。

要するに綿花そのもののみで生地の風合い・肌触りがすべて決まるわけではない。

生地が織り上がったあとの整理加工によってもまた風合い・肌触りは変化する。

こういう見方が一般的になり、「伝統を受け継ぐ日本のデニム生地」という風潮がさらに蔓延すると、ただでさえ「匠」化しがちな国内デニム産業がさらに伝統工芸化してしまうのではないかとの危惧を抱いてしまう。
筆者は正直現在でもそういう風潮には辟易している。

以前にも書いたことがあるが、現在のファッション市場において、ビンテージ感覚あふれる凹凸感があって肉厚なヘビーオンスデニムは求められていない。

現在のファッション市場で求められているデニムは、ストレッチ性があるとか、肉厚だけど軽量だとか、肌触りがソフトだとかいう一部に合繊を混紡・交織した機能性デニムである。
これは国内だけではなく、欧米市場でも変わらない。

ファッションのトレンドなんて未来永劫続くことはなく、どこかで大転換期が訪れるのだが、そのまま昔に戻ることはない。
それこそ、パルグループの井上英隆会長ではないが、「一旦少し戻ってまた進むという『螺旋状』に進む」というのが実情に沿っているだろう。
例えば、ツイード生地だが、いくらツイードがトレンドだと言われても、昔のような重くて硬いツイード生地で作ったジャケットやコートを欲しがる人が世の中にどれほど存在しているだろうか。
そういうマニアも存在するがそれはニッチな市場であり、大多数は現代風にアレンジされた軽量・ソフト・ストレッチ性のあるツイード生地を求める。

一旦快適な機能性を持つ衣服を着用すれば、その機能を外したものをわざわざ着たいとは思わなくなる。

デニムも同じである。
ストレッチデニムに慣れた人が今から雪崩を打ってノンストレッチデニムに戻るとは到底思えない。

もちろん、いずれ、ビンテージ感覚のデニム生地がトレンドに浮上することもあるだろうから、その製造技術は絶やすべきではないと思うし、そういう物を後生大事に継承し続けていくのが日本の特色でもあると思う。
けれどもその時に浮上するビンテージデニム生地は、今までのとは異なり「螺旋状」に進化したストレッチビンテージとか軽量ビンテージ、色落ちしにくいビンテージなのではないかと個人的には考えている。

そして、技術力に優れたといわれる国内デニム生地メーカーだからこそ、それの開発を進めるべきではないかと思う。
従来型製法の墨守のみではジリ貧に追い込まれるだけであろう。

政治家や行政が地場産業の振興育成に力を注ぐのはまことにけっこうなことだと思うが、匠化・伝統工芸化を助長するような示唆はミスリードにつながるのではないか。

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