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南充浩 オフィシャルブログ

ワールドが掲げた「3年後百貨店ブランドの国産比率を90%に高める」は画に描いた餅に過ぎない

2022年6月30日 製造加工業 1

理論的には正しいが、実態に則していないということは世の中に多々ある。それは別に我が国に限らず世界各国に穿いて捨てるほどある。

その中の一つに「衣料品の再国産化」というものがあると当方は思っている。

物凄く平たい言葉でいうと、衣料品の国内縫製比率を上昇させるというもので、国内縫製した衣料品の製造数量を増やすということである。

この論調は2019年までは「国内伝統工芸を守れ」というのと似たような雰囲気があった。だが、2020年以降、にわかに現実化への期待論がにわかに熱を帯び始めた。

そして2021年になるとその熱はさらに高まっている。

理由は2つある。

1、コロナ禍による中国国内の乱れ

2、為替の円安基調の推移

である。

1のコロナ禍による中国国内の乱れだが、2020年・2021年は我が国も含めて世界各国がほぼ同様の営業停止や営業時短、一部のロックダウンを繰り返していた。

しかし、2022年になるとその様相は変わる。中国だけが厳しい長期間のロックダウンを敢行し、製造工場、物流網全てが停止した。

そしていまだに「ゼロコロナ」を掲げているため、いつ何時、再度ロックダウンがあるかもわからないというのが今の中国の現状といえる。

衣料品の縫製は、2012年の大規模な反日暴動以来チャイナリスクが顕在化し、極端な中国集中の危険が認識されたため、中国比率が徐々に低下し、バングラデシュやアセアン諸国、インドなどに分散化傾向にはあったものの、いまだにウエイトは高い。

そのため、ゼロコロナロックダウンによって、チャイナリスクがさらに明らかになったといえ、そのため、縫製拠点の中国からの移転(必然的に物流も付随する。生産した物は運ばれねばならないからだ)が強く認識されるようになったといえるだろう。

その移転先の一つが国内だったわけである。

 

もう一つは2021年後半からの円安基調がある。

円安が進んだため、海外からの輸入にコストメリットが無くなりつつある。だったら一層のこと国内で生産すれば為替の影響は皆無ということになる。

 

この2つの要因だけを見ると「縫製拠点の国内回帰」は理にかなっているといえる。

そこで登場するのがこういう施策である。

ワールド 国内生産9割へ引き上げ | THE SEN-I-NEWS 日刊繊維総合紙 繊維ニュース

ワールドは、婦人服「アンタイトル」「リフレクト」などの百貨店ブランドで、国内への生産回帰を進める。前期(2022年3月期)は、百貨店ブランド全体の約35%を国内で縫製していたが、3年後には90%に引き上げる。

 

だがちょっと待ってほしい。(朝日新聞風味で)

なるほど「ゼロコロナ固執のチャイナリスク」と「円安進行」という2つの要因に対する対策としては正しい。

しかし、全く実態には則してない。画に描いた餅に過ぎないとあえて言おう。

 

まず、一つは縫製工場の後継者難である。

よく工員の高齢化が業界メディア・経済メディアで取りざたされるが、それだけではない。経営者の高齢化と後継者難も進んでいる。

今時、工員になりたがる若者は少ない。ゼロではないが少数派だし、その少数派も何年勤続するかは怪しいものだ。縫製工場に限らず、織布・編立・染色加工場も同様に、「職人という言葉に曖昧模糊とした憧れを持って入ったものの長続きしない若者」というのが相当数見受けられる。もちろん長続きする若者もいるが、それは少数派の中でも少数派だといえる。

また、仮に工員が確保できたとしても、経営者がいなければ工場は存続できない。

今、縫製工場を経営している60代以上の高齢経営者の引退後、工場を継ぐという人は数少ない。

 

「息子には工場を継がせません」

 

と公言する縫製工場経営者も珍しくない。

となると、今後国内縫製工場は減ることはあっても増えることはない。

 

次に円安に対する認識だが円安基調が強まったのはここ半年くらいのことである。

はっきりと言って、為替の動きなど中長期的に見通すことは不可能である。例えば10何年間ずっと「1ドル50円時代が来る」と予言し続けている紫頭の大学教授がいるくらいである。

このところ円安が強まっているからと言って、来年、再来年、5年後、10年後、為替レートがどのようになっているのかはだれも予想できない。

生産拠点の移転というのは口で言うほど容易いものではない。自宅の引っ越しのように引っ越しました、来週から通常の生活に戻りますと言うわけにはいかない。

ある程度の時間がかかる。

また短期間で拠点移転を完了できたとしても、来年再来年、5年後の為替が円高になっているという可能性も低くはない。その際どうするのだろうか?また拠点を海外に移転させるのだろうか?それでは引っ越し貧乏になるばかりである。

 

ワールドの施策では「3年後、国産比率90%」とまで書かれているが、3年後の為替が確実に今と同じ水準だという確信があるのだろうか?

 

すでにコロナ禍による生産拠点の乱れで、国内縫製工場へは依頼が殺到している。

現段階でも国内縫製工場は混みあっていて納期が読めない状況が続いている。ワールドの百貨店ブランドの年間生産枚数が何枚あるのかわからないが、まさか年間で100枚とか1000枚程度の小ロットではあるまい。年間だと全型数では何十万枚・何百万枚くらいは生産しているだろう。

とすると、その9割も吸収できるほどのキャパは国内縫製工場には残されていない。

現時点で生産比率が35%とあるので、実に生産数量を2・5倍にするというわけである。

年間生産数量が全型で100枚や1000枚程度のアパレルが2・5倍に増やすというならどうとでも対応は可能だろうが、全型合計で何十万枚規模のワールドが生産数量を2・5倍に増やすということは、現在の国内縫製工場のキャパから考えても不可能だし、3年後は今年よりも縫製工場の数は減っている可能性が高いからより不可能だといえる。

 

ワールドの今回の立案にせよ、某著名コンサルの提言にせよ、国内縫製工場の後継者難ということを全く考えていないといえる。まさに画に描いた餅・机上の空論である。

某著名コンサルは

ブランドは製造業側の意見に引っ張られ過ぎてはいけない

とブログでも書いていたが、国内工場の現状を考えれば、製造業の現状を知らずに立案することは自己満足以外の何物でもないといえる。それはワールドの経営陣に対しても同様のことがいえる。そういえば、ワールドの現会長は金融あがり、現社長はコンサルあがりだから、こういう発想になってしまうのだろう。金融あがりの会長、コンサルあがりの社長は一度国内の縫製工場を行脚して現状を見て回られたらどうだろうか。

 

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 comment
  • ハマオ より: 2022/06/30(木) 9:53 PM

    一応ワールドは自社工場があるのでそこでの生産の稼働率を上げて行く感じですかね

    九州 淡路島 北陸 東北に各アイテム別の工場があるので、
    70%位までは行けると思いますが
    後の20%は協力工場次第ですね

    会長 社長より 創業家の取締役のほうがヤバいですよ

    ゆくゆくは社長になりそうなので

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