月別: 3月 2017 (1ページ / 3ページ)

業界では「当たり前」のことでも世間では知られていない

 卸売り型の衣料品メーカーは、小売店を招いて展示会を開催する。
小売り店はここで仕入れる商品を発注する。

展示会開催サイクルとしては、従来だと半年前であり、2017年秋冬商品なら、まさに今が開催時期である。
2月から4月末ごろまでが秋冬向け展示会の開催時期で、数多くのブランドがこの時期に開催する。

だから9月から11月ごろは来春夏向け商品の展示会が開催され、古くは春秋の年2回での開催が標準だった。

しかし、90年代後半ごろから店頭での売れ行き状況にクイックに対応する目的から、店頭投入の2カ月前、3か月前に展示会を開催するメーカーが増えた。
この場合は、だいたい年間に3回から5回展示会を開催する。

衣料品業界の人間からすると、投入2カ月前の展示会なんて製造のリードタイムが短すぎて、大丈夫なのかとちょっと心配になるが、衣料品業界外の人からすると「店頭の売れ行き状況の変化は早いのに、そんなに時間をかけて大丈夫なの?」という感想になる。実際に、自分もそう言われたことがある。

衣料品業界に限ったことではないが、業界の「当たり前」が広く世間には知られておらず、それがさらにビジネス環境を難しくしているという側面がある。

まともに衣料品を企画提案して、製造するとなると、受注数をまとめてから2カ月くらいで店頭納入するというのはかなりギリギリの作業になる。
製造枚数にもよるが、生地からオリジナルで作るとなると、さらに日程はギリギリになってしまう。

会社や製造物、製造数量によっても異なるが、ざっくりとした目安でいうと、オリジナルの生地を必要分だけ製造するのに最低でも1カ月弱はかかる。そこから生地を裁断して縫製するのに、また最低でも1カ月弱はかかる。こういうことが周知されていれば、2カ月前の展示会開催ということはかなりギリギリだということが理解できる。
大手生地問屋が抱えている生地を使用するなら、生地を作る時間だけは省ける。

先日、西陣織の業者がツイッター上で炎上したが、その後、状況が知られるとともに騒ぎは沈静化した。
ご存知の方も多いと思うが、業者が技術伝承を目的に弟子を募集したのだが、

「西陣織を習いたい、将来的に仕事にしたい方を募集します。ただし最初の半年は給与的なものも出ませんし、その後の仕事を保証はできません。ただ、この西陣織の職人が減りゆくなか、将来的に技術を覚えておきたい方に無料で教授いたします」

と書いてしまって、ブラック企業だという批判が続出した。

しかし、この業者の書き込みは内情を知っている人間からすると、そういう意図がなかったと読み取れるし、実際に業者も後付けだが「習い事をする感覚で入門してもらいたい」とそういう説明をしている。

現在、西陣織に限らず、技術者は老齢化している。国内の洋服縫製工場も同じで最年少工員は60代という工場だって珍しくない。
技術を伝えるためには後継者を募集しなくてはならないのだが、なかなか集まらない。

賃金が低いからだ。

低価格衣料が注目されている洋服関係の賃金が低いことは多くの人は体感的に理解できるが、何十万円もする着物関係の職人が低賃金だということは多くの人はあまり理解できていなかったのではないか。

「半年給与なし。仕事保証なし」  京都・西陣織職人の「弟子募集」はブラックと言えるのか
http://www.j-cast.com/2017/03/18293227.html?p=all

これはきちんと取材をした良記事だがこの中で、

「いま、西陣織の職人の平均年齢は75歳程度です。こうした熟練の職人は、もう年金を貰っていますよね。そこで起きたのが、年金の支給額を踏まえた上で『工賃』が決まるといった現象なんです」

   佐々木さんによれば、こうした動きによって西陣織全体の工賃の相場が大きく下がることになった。その結果、「西陣織だけでは家族を支えていくことができない」と判断した40~50代の職人が、次々と転職するという動きが出た。

とある。

今の主力となる職人は75歳前後であり、彼らは年金を支給されている。
その年金額があって、そこに少しだけ工賃をプラスオンするという仕組みになっている。

何十万円・何百万円の商品を製造しているのに工賃は安いのである。
おそらく工賃は1カ月トータルで数万円程度なのではないかと個人的には推測している。

それが基準になるので、若い世代の職人に支払われる工賃も激安になる。
支払う側からすると「超ベテラン(75歳)の職人がこの工賃なのに、どうして年数の浅い君らにこれ以上を支払わなくてはならないのか」という理屈が成り立っているということになる。

そういう状況だということは業界に近しい人間なら知っているが、広く世間一般には知られていない。

だから、反射的に「ブラックだ」という批判が出てしまったのではないか。
知らない人間からすると何十万円もの商品を作っているのだから、それなりに高い工賃をもらっていると想像できてしまう。

ちなみに何十万円もする着物なのに工賃が異様に安くなってしまったのは、着物の売れ行きが不振になったことに加えて、着物業界の取引が何段階もの多重構造のままであることが理由として挙げられる。
洋服のようなSPA業態はなかなか着物は難しいだろうが、多重構造を少しシンプルにするだけで、販売価格を下げられるか、職人の工賃を上げられるか、ができるようになる。

今回、このブログで何が言いたかったのかというと、業界で「当たり前と思われていることも広く知らしめる必要があるのではないかということである。

そうすれば今回のような炎上は起きなかっただろうし、洋服ブランドが2カ月前に展示会を開催して「遅い」と批判されることもない。

各社、各業界とも情報発信に力を入れ始めているが、そういう基本的な「当たり前」のことも発信すべきではないかと思う。

基本がコモンセンスとして共有されていないから、各社の発信が伝わりにくいのではないかと思う。
業界や自分たちが「当たり前」と思っていることが、実はあまり知られていないと事例だということは、想像以上にあるのではないか。
それをコモンセンス化できれば商況が好転する部分も出てくるのではないかと思う。和装洋装に限らず。

日本の工芸を元気にする!
中川 政七
東洋経済新報社
2017-02-24


経営とデザインの幸せな関係
中川 淳
日経BP社
2016-11-03


「〇〇%オフ」価格という表記では、安さが伝わらない可能性がある

 よくFランク大学の学生が、分数や小数の計算ができないといわれる。
百分率も理解できていないともいわれる。

ファッション専門学校で何年間か定期的に講義しているが、計数管理では百分率の計算は必須だが、毎年、それを根本から理解していない生徒が何人かいる。

「粗利率は何%ですか?」とか「前年対比何%の増減がありますか?」というのは、ファッション業界の業務では日常的に必要になる。いや、ファッション業界に限らず、現代社会においてどの業界でも必要不可欠な基本作業である。

ところが、先日、ある人と話していたところ、「社会人や主婦層にも百分率を理解しない人はけっこういるみたいですよ」と言われ衝撃を受けた。

この人はショッピングセンター内にテナント出店しているブランド店舗の管理をしていたことがある。
その時の経験談を話してくれたのだが、パートを募集したところ応募してきた主婦がいたそうで、この人はその店の常連顧客でもあったという。

だから、パートとして勤務が決まった時にはそれなりに面識があったというわけだが、その時に「定価から〇〇%引きといわれても実はそれが最終的に何円になるのかあんまり理解していないんです」と言われて衝撃を受けたそうだ。

しかし、たしかにそういう人はいると体験的に感じる。

以前から何度か、バッタ屋での店頭販売を手伝っていたことを書いているが、そのときにも少なからぬ大阪のおばちゃんから「値札からさらに〇〇%引きって結局何円になるの?」と尋ねらることが日常茶飯事だったからだ。

「500円からレジでさらに30%引き」だと350円になるのだが、ずっと「どうしてこんな簡単な計算を暗算しないのか?めんどくさいのか?」と訝しく感じていたのだが、もしかすると百分率の計算を理解していない人がかなりの割合で含まれていたのではないかと思い始めた。

となると、各社が店頭で声を張り上げている「セール価格からさらにレジにて〇〇%引きになります」という呼び込みはあまり効果がないということになる。
群がっている人たちの何割かはそれが何円になるのかわからずにただ、「雰囲気だけで」群がっているということになる。

店内にPOPをいくら「さらに〇〇%オフ」と貼り付けても実際のところ、意味を理解していない人が何割か確実に存在するということだ。

実際に、そのパートの女性も「〇〇%オフで何円になるかはわからないけど、安くなりそうな雰囲気なので購買意欲が刺激される」と話していたという。

ではセール時の表現は何がもっとも効果的に伝わるのだろうか?

「〇〇%オフ」という表現は、こちら側が想像しているよりも具体的には伝わっていない可能性が高い。
もっと具体的にセールの効果を伝えられて理解されやすい文言は何だろうか?

おそらく、「半額」というのはもっともわかりやすいのだろう。
また「〇〇円引き」というのもわかりやすいだろう。
それ以外だと「1000円均一」とか「500円均一」みたいな表現もわかりやすいのではないだろうか。

でも実際のセールでは一律「半額」にすることも難しいし、1000円均一・500円均一にすることも難しい。
一番実践しやすいのは「〇〇円引き」ということになるだろうか。
そういう意味では〇〇%引きと表示せず、790円、990円、1290円と値段を書き換えるユニクロ方式が一番理解されやすいといえるのではないか。
ユニクロはこの部分でもマス層に最適な表示をしているといえるのではないか。

最終セールで投げ売り価格を提示してもワゴンに洋服が山盛りに残っていることがある。

通常、業界人は「商品に魅力がなかったから」というように理解するが、もしかすると表示方法に問題があり、安さが伝わっていなかったという可能性もある。

伝わっていないのは存在しないのも同然だ。

いくら「値札から80%オフのさらにレジにて30%オフ」と書いてみても、それが伝わらなかったら値引きしていないのも同然なのである。

表示の方法を工夫すると、ひょっとするとセールでの消化率はもっと高まるのではないかとも思う。


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HP(日本ヒューレット・パッカード)



全国展開の仕入れ型ジーンズカジュアルチェーン店の限界点

 ライトオンの17年8月期第二四半期決算が発表された。
いわゆる中間決算というやつだ。

結果は減収大幅減益で当期赤字である。

ライトオンが3月28日に発表した2017年8月期第2四半期の業績は、売上高428億3000万円(前年同期比7.7%減)、営業利益2億3300万円(92.0%減)、経常利益2億2700万円(92.2%減)、当期損失1億6000万円(前年同期は16億8400万円の当期利益)となった。

そして、通期予想は営業赤字、経常赤字に転落し、当期赤字幅がさらに拡大する見通しだ。

通期は、売上高810億円(6.3%減)、営業損失20億円、経常損失21億円、当期損失34億円を見込んでいる。

とのことで、全国展開の仕入れ型ジーンズカジュアルチェーン店は3社とも苦戦が続いているといえる。

ライトオンは15年8月期、16年8月期と増収増益を達成していたが、15年8月期は8年ぶりの増収増益だったので、苦戦続きと評される範疇内ではないか。

ジーンズメイトは売上高100億円を割り込んでしまい、全国チェーンとは呼べない規模にまで縮小しているし、マックハウスも売上高400億円を割り込んで減収基調は止まらない。

去年の今頃のメディアの主流となっていた「ユニクロ失速、ライトオン復活」という論調は完全に事実誤認に基づくものだったといえる。

小島健輔さんが、ブログでインディテックス社(ZARAを展開)、H&M、ファーストリテイリングの3社の決算を比較して「ファーストリテイリングの脱落」と評されているが、個人的には「インディテックス社の独走、H&Mの足踏み、ファーストリテイリングが少し後退」というのが正しいのではないかと思っているが、数字面に関しての比較はまったくその通りだし、ファーストリテイリングと同等の比較対象はこの2社とあとはGAPなど数社を加えたグローバルSPAしか適当ではなく、売り上げ規模が10分の1以下のライトオンや、3分の1以下のしまむら、6分の1以下のアダストリアなどと比較するのは、規模的に無理がある。

おまけにファーストリテイリングは減益とはいえ、黒字額が巨額であり、赤字スレスレの企業の増益とは比較する土台が異なる。

昨年の今頃盛んだった「国内ではユニクロ一人負け」の論調は意味が分からなかった。

今回のライトオンの苦戦の原因は、

https://ryutsuu.biz/accounts/j032802.html

気温、気候の環境要因、その他外的要因の影響もあったが、前年からの持ち越し商品の消化が進まなかったこと、前年の売れ筋商品を踏襲した商品群が多くなったことで、売場が新鮮味に欠け、集客が大きく落ち込んだ。

と発表されており、ライトオンの売り場を見ているとこれはかなり実情を正直に語っていると考えられる。

なぜなら、前期・前々期の増収増益当時に、業界では「ライトオンはかなり売れ残り在庫を貯めこんでいる」と噂されていたからだ。
当時、2014年後半から2016年春までライトオンは珍しく、店頭での最終投げ売りがほとんどなかった。

だから2014年から2016年春先まで、筆者はライトオンで商品を買っていない。

現在の国内において、セール末期に投げ売り無しで売り切ることができる大規模チェーン店は皆無である。
個店や中小チェーン店なら投げ売りなしでの売り切りは可能だし、現実にそういう店がある。

なぜなら、顧客と密接に結びついており、顧客一人ずつの好みを把握して商品仕入れすることができるからだ。
そうすると投げ売りせずとも商品をある時期までには完売することができる。

しかし、全国規模のチェーン店でそういう仕入れは無理だ。
顧客の数も多すぎて、誰がどんな好みなのかを把握することは現時点では不可能である。

従って大勢が好みそうな商品を仕入れたり、企画製造するほかない。

だから売れ残りは必ず発生するし、それを期末で投げ売りしてでも処分する必要がある。
ユニクロしかりジーユーしかり無印良品しかりライトオンしかりジーンズメイトしかりである。

そういう構造であるにもかかわらず、ライトオンはその時期投げ売りをしなかった。定点観測していると完売していないことはわかる。おそらく倉庫へ格納したのだろうと推測したが、そうなると翌シーズンに再投入するにしても在庫過多に陥ることは当然といえる。

2016年3月以降に通常の処分セール品がライトオンの店頭に増え始めた。
だからその投げ売り品を昨年はそこそこ買ったし、今年もまた買ってしまうと思う。

例えば、2015年秋冬にライトオンは、丸八真綿とコラボしたダウンジャケットを店頭投入した。
定価はだいたい1万4000円くらいだった。

これまでのライトオンならこのダウンジャケットは2016年の1月のバーゲンで9900円くらいになる。
2月か3月まで待てば残っている商品は7900円くらいにまで下がる。
ところが、そこまで下がらずに早々に格納されてしまった。

2016年秋冬に再投入されたが、年末には7900円くらいまで値下がりした。
もちろん7900円に下がったときに1枚買った。

「好調」といわれていた2期はこういう商品が多かった。

だから「前年からの持ち越し商品の処分が進まなかった」のであり、筆者が見てきた商品はその一部だと考えられる。

現在の店頭にも前年からの持ち越し処分品が並んでいる。

全国展開する仕入れ型のジーンズカジュアルチェーン店は現在、本当に岐路に立たされている。
仕入れ品のみで全国規模を維持し続けるのは無理で、そのことは全国展開の大手セレクトショップ各社が疑似SPA化していることが立証している。

ライトオンは今回の決算で、「SPA企業」ではなく「品揃え型ジーンズショップ」を目指すことを改めて標榜しており、これは現状のままではかなり実現は厳しいといえる。

ライトオンもマックハウスもほとんど一本足打法である。
従来型の仕入れ型ジーンズショップのままで今以上に規模を拡大するのはかなり難しい。

必然的に新業態の開発が求められるが、これまで全国型ジーンズチェーン店で成功したためしはない。

ライトオンはチャイム、フラッシュリポートを今期で完全撤退する。
代わって新業態「ノーティードッグ」を立ち上げ、今年度だけで28店舗のオープンを予定している。
これはかつて2店舗を出店してから遅々として出店が進まずついにはブランド廃止となった「ソルト&ペッパー」の失敗を繰り返していないといえる。
ただ、この業態が売れるかどうかは未知数だ。

マックハウスも新業態「スーパーストア」を打ち出しているが、こちらも売れるかどうかは未知数だ。

ジーンズチェーン店は、似たようなジーンズカジュアルショップを派生させてしまう傾向が多いが、それは本体との区別ができにくい。
マックハウスの「スーパーストア」はもっとコンテンポラリーなテイストにしているが、こちらは什器や店内の画像を見る限りにおいてはユニクロとテイストがダブるので、すぐさま大ヒットするということは考えにくい。

かといって、慣れていないテイストの店を始める場合に、ジーンズカジュアルチェーン店各社にはそれに対応できる人材がなかなか少ないから、外部からの招聘が必要となる。

ライトオンも含めた全国展開のジーンズカジュアルチェーン店3社は今後どのように舵を取るのか、注目してみたい。




イベントに参加し続けるほうが難しい

 メディア的には「イベント初参加」というのはニュースバリューがある。
とくにそこそこに知名度の高いブランドや企業がイベントに初参加することはメディアとしては「報道する意味がある」と考える。

逆にイベント自体にも参加者にも知名度がなくてもメディアはそれを報道する価値があると考える場合が多い。

ニュースの価値の一つに「常とは異なる状態にあることを伝える」というものがあり、それに照らし合わせると「初参加」「初開催」「初出店」というのは「常」とは異なるから報道する価値がある。
一方、2回目・3回目になると、よほどの知名度がないとメディアは報道する価値を見出さない。

これがメディアの考える現実である。

逆に運営側・出展側からすると「続けられている」ということの方が、「初」よりも重要だと考えることが多い。
なぜなら、初参加・初開催というのは、勢いとタイミングでやってしまえる要素が多いが、数回以上続けようと思うとそれこそ資金繰りやら人員の確保やらが必要となるため、より緻密な組み立てが求められる。

「初」よりも長く続けることの方が難易度が高い部分が多い。

さて、先日で東京コレクションが終了した。
ファッション感度の鈍い筆者にとってはまったくの興味の対象外イベントである。

そんな中、アダストリアの「HARE(ハレ)」がコレクションに初参加したらしい。
そこそこ知名度が高い大手企業ブランドの「初」参加というのはメディア的には報道価値があるから、それなりによく報道された。

しかし、個人的には「初参加したよ」という以外にはほとんど知るべき要素はないと考えている。
断っておくが別にアダストリアが嫌いなわけでもHAREが嫌いなわけでもない。
これがアダストリアでなくハニーズでもライトオンでもユニクロでも無印良品でも同じように考える。
「初参加したよ」ということ以外に知るべき要素はほとんどない。

なぜなら、東京コレクションで大手企業ブランドがショーを開催するのは珍しいことではないからだ。

あまり昔のことをほじくり返しても意味がないから、近年のことを振り返ってみよう。

ワールドのタケオキクチは何度も東京コレクションに参加している。
また、2013年春夏コレクションにはウィゴーのwcが初参加している。

その他、センソユニコ(現、松尾インターナショナル)のブランドが参加したこともあるし、探せばまだまだ出てくるだろう。

大手アパレル企業ブランド、大手SPA企業ブランドの東京コレクション参加は決して珍しいことではない。

メディアではない外野のオッサンからすると、「初参加」よりも今後定期的に参加を続ける方がハードルは高いと思う。

コレクションショーに限らず、合同展示会でもなんでも初参加でそれなりの成果をあげることはかなり難しい。
ここでいう「成果」とはビジネスの拡大、売上高の拡大である。

大手総合展示会の社員を3年間経験したこともあるが、初出展でいきなり予想を越える受注額を獲得できた企業やブランドというのは数えるほどしかない。
統計を取ったことはないが、体感的にはそれは1割くらいだろうか。
残り9割はよくて費用対効果トントン、出展費用の方が高くついたということも珍しくない。

逆に何度か出展をし続けて成果が出てきたという企業やブランドは多い。

海外の素材展示会でも同じで、昨今は助成金やら補助金で3年間だけフランスやイタリアや中国に出展する産地企業が多い。
そういう産地企業の多くは助成金の終了とともに海外出展も終了する。
効果はあんまりなかったと話す産地企業は多い。

一方、国内2位のデニム生地メーカー、クロキは欧州の高級ブランドのほとんどと取り引きがあるが、海外展示会に出展し続けている。正確には10年近くは続けて出展している。
取り引きが成功した理由はさまざまあるだろうが、継続し続けるところが多くの産地企業とは一線を画している。

初参加、初開催だけでやめてしまったほとんどの場合は、それ以降何の効果もない。
1000万円の費用をかけて海外で特大花火的イベントを仕掛けた団体もあったが、現在ではすっかりその事例は忘れ去られている。
もっといえば、300万円のイベントを3年続ける方が効果的だっただろう。

初参加だけで終わるなら、それは単なる「思い出作り」に過ぎない。
wcの東京コレクションなんかはその「思い出作り」の好例といえる。

そういう意味から考えると、せっかくなのでHAREには今後も出展を続けてもらいたい。

ただし、10年以上も出展を続けて「成果」が伴わないなら、それはそれで問題だといえる。
東京コレクション参加ブランドの中には10年以上続けているのにほとんど「成果」のないブランドもある。

それは、作っている物、営業活動のやり方、販促広報活動のやり方のどれか、もしくはそのすべてが間違っているからだといえる。
そういう場合は軌道修正が必要になる。
いわゆる、Plan(計画)→ Do(実行) → Check(評価)→ Act(改善)のPDCAサイクルが必要だということである。

それができなければ、市場から退場を迫られるのは、デザイナーズブランドだろうが大企業ブランドだろうが関係ない。

東京コレクション
東京事変
EMI Records Japan
2012-02-15


東京コレクション
Universal Music LLC
2016-08-22


おとぎ話的な欧州工場礼賛では日本の製造加工場は生き残れない

 衣料品、服飾雑貨品などを便宜的に今回は「ファッション用品」とまとめさせていただく。

「ファッション用品」の国産品をめぐる議論はそれなりに目に付くようになってきたが、多くの場合は微妙なものに終始している。
議論の方向性はいくつかに集約できるが、

1、国産品を手掛ける企業のポジショントーク
2、極度のセンチメンタリズムから来る盲目的国産品擁護
3、グローバル的見地からの国際分業論
4、数少ない自立化成功者からの体験談

ざっとこんな感じの分け方ができるのではないかと思う。
個人的にもっとも価値が高いのが4だが、個々の成功事例は特殊要素を多く含み過ぎていて、広く取り入れられるものではない。
その中のエッセンスを如何に的確にとらえて、自社・自ブランドに適合できるようにアレンジメントするかがカギになるが、その作業を上手くできる人、企業、ブランドは数少ない。

2と3はカードの裏表で聞くべき部分もあるが、全面的に採択はできない。
個人的な意見でいうと2を採用することはかなり危険だと感じる。

1についてだが、これは3分の1から半分くらいは聞くべき提言がある。
問題は、個々の企業やブランドによるポジショントークなので妄信するのは危険だという点である。

日本に「超一流アパレルブランド」がない理由
コスト削減の果てに「日本製の服」は僅か3%
http://toyokeizai.net/articles/-/164345

この記事には聞くべき提言も多いが、ポジショントークの代表ともいえる。

是々非々で内容を見てみよう。

まず、個人的に「是」とする部分を抜粋する。

〇コスト削減が図られる中、メイド・イン・ジャパンを支えてきたのは外国人研修生です。衣服・繊維製品の製造に従事する研修生は1万2000人(公益財団法人国際研修協力機構「外国人研修・技能実習事業実施状況報告 2010 年」)。この背景には、賃金の低い縫製業は国内で人材が集まりにくく、 リソースを研修生に頼らざるをえないという事情があります。

しかも、せっかく技術を覚えてもらっても研修生は3年程度で本国に帰ってしまうため、その度に新しい研修生を招いて育成を行うというループに陥っているのが現状。「技術を後世に継承する」という理想とは乖離しています。

〇では、メイド・イン・ジャパンが復活するためには何が必要でしょうか。私は、以下の3要素が重要だと考えています。

・マーケットを意識する:
日本製の商品は、クオリティへの定評はあるものの、デザインに改良の余地があります。技術は保持していますが、 消費者のニーズに合致した商品をブランドとして提供するという意識はまだ根付いていません。イタリアやフランスの工場は、流行やマーケットを念頭に置いてものづくりを行っています。その意識が日本の工場にも根付けば、技術をより効果的にアウトプットできるでしょう。

・主体性を持つ:
長らく下請けとして機能してきたため、メーカーから提示される工賃や仕様書、生地などに従うという受け身の姿勢がしみ付いています。ブランドとして自立するためには、この体質からの脱却が不可欠。培ってきた縫製やパターンの技術を生かして「こんな商品はどうですか?」といった能動的な提案を行っていくことが大切です。

この部分であり、3要素の3つ目は是認できない。

では「非」とする部分を抜粋してみる。

その1

 「本物のブランドはものづくりからしか生まれない。エルメスも、ルイ・ヴィトンも、グッチも工房から生まれた。君が今挙げたブランドは、日本製なのか?」

その2

 ・非効率なものづくりへの投資:
中国やベトナム、ミャンマーでは、大きな資本を持つ企業が最先端のミシンを導入し、大量の洋服が効率的に生産されています。人件費の高い日本が差別化を図るために必要なのは、旧式力織機や時間のかかる染め技術などを使って、あえて非効率な路線を突き進むこと。たとえば、岡山の旧式力織機で作られるデニム生地がシャネルやルイ・ヴィトンなどの商品にも使われているように、他の工場も非効率なものづくりに投資して独自の付加価値を高めていくべきです。

の2点である。

その1についてだが、イタリアブランドも生産問題に揺れている。「イタリアブランドはすべてイタリアで作られている」なんていう牧歌的な状況ではない。
世界に詳しいこの記事の筆者ならご存知だと思うのだが。

今のイタリアブランドは、中国製・東欧製・アフリカ製などがある。
インド製やトルコ製もある。またイタリアの工場は低賃金の外国人労働者で成り立っている。
少し前の記事だがこういう報道がある。

【グッチ】Made in Italy、崩壊 イタリアブランドの実態
http://buono-italia.com/madeinitaly/

イタリアの代表的ブランドGucciが、外国人労働者を酷使して収益をあげている、ということが、2014年2月の告発によって判明しました。

FURLA|フルラの生産国について|Made in Italy ??
http://pineboy.com/column-13-jun-2016-furla

人気・売上ともに絶好調なブランドの「フルラ」ですが、商品の生産国はイタリア製の他に中国やルーマニア、チュニジアなどがあります。

また、イタリアでは産地そのものが中国人に乗っ取られているという報道も相次いでいる。
代表的なところを紹介すると、少し前の記事だが、

欧州に「丸ごと中国」工場 資本も、従業員も、原料も
http://www.asahi.com/business/intro/TKY201203040488.html

プラートにある中国人経営の衣服工場は約3千。人口19万人のうち中国人は不法移民を含め4万人以上とされ、人口比では欧州最大のチャイナタウンだ。

とある。実質的にプラートのマジョリティは不法移民を含む中国人だということになり、イタリア工場とはいえ、メイドバイチャイニーズが実態であり、我が国の外国人実習生によるメイドバイ外国人という状況と何も変わらない。

この手の各種報道をまとめているのがこのまとめニュースである。

GUCCI, PRADA(笑) イタリア製のブランド品を作っているのは、イタリアに不法滞在の 中国人
https://matome.naver.jp/odai/2146253926029760101

また、これ以外にフランスブランドでも似たようなことがある。
中国工場に出張した際に、「maid in france」と刻印されたパーツが山のように積まれているのを見たことがあるという人も多い。

イタリア製もフランス製も組み立てを中国や外国で行い、最後の加工だけをイタリア、フランスで行えば認可されるというシステムになっている。
このため、中国をはじめとする外国で組み立てが行われているブランドも数多くあるのは業界では公然の秘密となっている。まさか、世界に詳しいあの記事の筆者が知らないとは思えない。

・コストの安い海外生産
・外国人労働者(実習生)に支えられた国内生産

この2点については、日本も欧州もそう大差がないということである。

それを打破するための処方箋として記事では、非効率な物作りへの投資を挙げているが、すでに日本の工場の機械設備は中国をはじめとするアジア諸国に比べて旧式化しており、わざわざ今から投資する必要もなく非効率である。逆に製造加工場の多くは将来不安から設備投資できる状況になく、旧式機械をそのまま使い続けている。

そういう意味ではすでに非効率な物作りは投資するまでもなく、多くで実施されているといえる。

日本の製造加工場の中にはたっぷりと資産を持っているところもあり、そういうところはあくせくと働く必要もない。いろいろなしがらみや制約があるから事業を続けているだけで何かきっかけがあれば廃業したいと考えている。すべての製造加工場が貧困なわけではない。

もちろん資金繰りに窮している製造加工場もある。
この部分での格差が大きいため製造加工場間での足並みもそろいにくい。

日本製を残したい、製造加工場として存続したい、と強く願う工場や業者は存在する。
そういう工場や業者は真の意味で自立化する必要がある。

自立化というと、自社オリジナル製品を開発することだと考える人が多いが、自ら製造加工の仕事を取りに行くということがはじめの一歩である。
過去の製造加工場は、待っていてもブランドから仕事が舞い込んだ。中にはガッチリと特定のブランドの生産ラインに組み込まれることもあった。

そのため、製造加工場にはいまだに待ちの姿勢のところも少なくない。

これを能動的に受注を獲得しに動くということが自立化だと考える。

ファクトリエでもなんでもそうだが、特定の企業やブランドが作ったシステムに乗っかることだけを考えているのでは、過去の受動的なアパレルブランドとの取り組みと何ら変わらない。
それはまた新しい先の下請けに甘んじるということである。

フランスやイタリアは自国で生産しており、日本の業者はさらに非効率的なモノづくりに特化すべき、というようなおとぎ話的な立ち位置で議論をしても国内の製造加工場は復活も存続もできないだろう。

現実を踏まえてその上でどう対処するか、それでも製造加工場を続けたいのか、その意思が求められる。最早、すべての製造加工場が救われることは不可能なので、意思のある工場だけがどのようにして生き残るかを考えるべきだろう。


リストラ時には、優秀な人から辞める・優良なブランドから売れる

 瀧定大阪がスタニングルアーをジャパンイマジネーションに売却した。
瀧定大阪は赤字続きのブランド事業の縮小を発表したが、その中にあって、スタニングルアーは優良なブランドだった。売却額は公表されていない。

おそらくスタニングルアーなら欲しいという企業はほかにもあったのではないかと思う。
企業でリストラが行われると優秀な人から先に辞めていくが、それと同じで優良なブランドほど早く引き取り手が見つかるものである。

ジャパンイマジネ、スタニングルアー譲り受け
https://senken.co.jp/posts/STUNNING-LURE-Japan%20imagination

セシルマクビーなどを展開するジャパンイマジネーションならスタニングルアーとのシナジー効果はあると考えられるから、スタニングルアーにとっては瀧定大阪傘下でいるよりも良かったのではないかと思う。

ここ数年瀧定大阪は経営の多角化を目指して、ブランド事業を積極的に買収したが赤字が続いていた。

瀧定大阪がブランド事業を大幅縮小、17年1月期に特損300億円を計上
https://www.wwdjapan.com/338457

オリーブ・デ・オリーブを中心にした消費ブランド事業の2017年1月期の事業見通しは、売上高が前期比15.1%減の87億円、営業損失が22億円(前期は18億円の赤字)、経常損失が22億円(前期は20億円の赤字)、税引前純損失が51億2500万円(前期は21億3500万円の赤字)と、赤字が拡大する見通し。

220億円のデリバティブ取引の大型損失と構造改革費用100億円の計上に伴い、瀧定大阪(単体)の純資産は521億円から221億円に減少、自己資本比率は74.4%から50.6%になる見通し。

という状況にあり、ブランド事業そのものは減収赤字が続いており、その額は増える一方だった。

瀧定大阪はスタニングルアー以外に、オリーブ・デ・オリーブ、ミリオンカラッツ、シアタープロダクツ、ライオンハートなどのブランドがあるが、

この数年積極的にM&Aを進めてきたブランド事業は大幅に縮小。売上高の9割を占め、子会社のスタイレムが展開するテキスタイルとOEM事業に経営資源を集中する。

とのことなので、各ブランドは売却先を見つけるか、独立するか、しなければ縮小や廃止になることは間違いない。現在の規模のままで活動が継続できる可能性は極めて低い。個人的にはその可能性はゼロだと見ている。

だが、関係者の多くはブランドの売却先を探すことはかなり難しいという意見を述べる。
なぜなら、先ほどの記事にもあるように事業自体が赤字だったからである。
赤字だということは経営状態が悪いということになり、現在の厳しい衣料品業界において、わざわざ不振ブランドを引き取ろうという会社は極めて少ない。

「売るんじゃなくて、逆にカネを付けるくらいでないと難しいのではないか」とまで言い切る業界人もいるほどだ。

個人的にはこれらのブランド群は、顧客ターゲット層も商品価格帯も商品テイストもすべて異なっており、シナジー効果を発揮するのが難しい組み合わせだと感じていた。
相互補完にも相互競合にもなりえないので、単に存在するだけということになってしまいがちになる。

本来は本業である生地販売との連動が目的ではなかったかと思うのだが、業界で尋ねまわると、それが積極的に行われた形跡もほとんどない。

そうなると何のための多ブランド買収だったのかと外野のオッサンからすると首を傾げたくなる。

本業との連動も、ブランド間の連動もないとなると、ブランド事業そのものを瀧定大阪がやる意味すらないといえる。

おまけにブランド事業全体で赤字拡大しているということは、商品政策か販売政策、広報販促政策のどれか、もしくはそのすべてが間違っていたということになる。

200億円以上にも上る巨額デリバティブ損失が今回のブランド事業縮小の引き金になったとはいえ、仮にデリバティブ損失がなかったとしても減収赤字続きの実績を見ると、早晩、縮小という結末が待っていたことは変わりなかっただろう。今回の巨額デリバティブ損失によって縮小開始時期が少し早まっただけだろう。

瀧定大阪が抱える残りのブランドはどのような結末を迎えるのだろうか。





三越伊勢丹、自壊の予兆

 三越伊勢丹HDの大西洋社長の電撃解任の背景の全容が各社の報道によってほぼ明らかになってきた。

その中でも日経ビジネス3月20日号の巻頭6ページ特集「三越伊勢丹、自壊の予兆」は経緯があますところなくまとめられており、自分の個人的見解とも重なる部分が多く、秀逸といえる。
ぜひ、ご一読をお薦めする。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/031300536/?ST=pc

各社の報道で改めて浮き彫りにされているのが、大西洋社長は現場の若手社員からはそれなりの信望を得ていたが、中間管理職や経営陣からの信望は得ていなかったということである。

大西社長はマスコミに積極的に顔を出し、マスコミでの発表を行うことで、社内を動かそうと考えていた。
実際に在職中にこれほど頻繁にテレビ、新聞、雑誌などのメディアに登場した百貨店社長はいないだろう。
これを「出たがり」「スタンドプレー」と評する人もいるが、実際に数度に渡ってインタビューしてみると「三越伊勢丹という社名の知名度をもっと高めるために、あえて積極的に出るようにしている」という答えが本人から返ってきたことがある。

それはおそらくその通りなのだろうと感じた。

一連の大西社長の独断専行は、「百貨店が今のままでは存続できない」という強い危機感からだった。
外部から来た人がその組織に対して強い危機感を抱くことは百貨店に限らず珍しいことではないが、生え抜き社長がここまでの強い危機感を持つというのは本当に珍しい。

逆に何がそこまで生え抜き社長の危機感を強めたのか不思議でならない。
ストレートにそれを質問したことがあるが、こちらの尋ね方が悪かったのか、納得のできる返事はなかった。

今回の日経ビジネスの特集でも書かれているように、大西社長の一連の行動は「百貨店事業を守るため」だったことは間違いない。
その真意が経営陣や管理職には伝わらなかったということで、伝え方が不味すぎたという部分は大西社長が反省すべき点である。
伝わらないということは、思ってもいないのも同然だからだ。

よく引き合いに出されるJフロントリテイリングと高島屋という競合他社は、百貨店事業から不動産事業や商業施設事業へと大きく舵を切っている。

強い者が生き残るのではなく、変化に対応できた者が生き残るとよく進化論が引き合いに出されるのだが、百貨店事業から他事業へと舵を切って生き残ることは正解の一つだといえる。
企業は「存続できてナンボ」みたいな部分があり、いくら理想をぶち上げても倒産してしまえばお終いだからだ。

三越との統合で生じた余剰人員を削らず、さらに百貨店事業をある程度守ろうとするなら、大西社長の取った多角化事業(個々の事業内容の正誤は別として)しか方法はなかった。

今回の一連の騒動で、週刊誌からも取材を受けたが、その中で週刊誌記者が「OBや現職に聞きまわったのですが『大西社長は優しいところがあるからリストラは避けたかったんじゃないか』という意見もありました」と話していて、それは事実なのだろうと感じる。

大西社長の一連の改革は未完のまま終わることになるが、どのような完成形を描いていたのかというは一度尋ねてみたい気もする。
日経ビジネス誌の中には、カルチュアコンビニエンスクラブとの提携が、実は「枚方Tサイト」の手法を地方店に導入する目的があったと書かれているが、これはその通りで昨年のインタビューの中でも直接聞くことができた。

解任騒動の決め手となった地方店の業態変更の具体案は「Tサイト」型店への移行をにらんでいたのではないかと推測している。

それにしても、大西社長を解任した結果、登場した新社長が「新規事業よりも構造改革を優先する」と明言したことは、中間管理職や経営陣にとっては、どう映ったのだろう。
否応なく、リストラが先行することになるのだが、大西社長を退任させたことは彼らにとって藪蛇だったのではないかと思える。

記事には「うちはJフロントリテイリングのようになってほしくない」という社員の声が採り上げられているが、杉江新社長の方針を素直に読むなら、Jフロント型百貨店への移行だと読める。

日経ビジネスでは、82年に会社を私物化して解任された三越の岡田茂社長、93年に改革を独断専行して解任された伊勢丹創業家4代目の小菅国安社長の事例も引き合いに出している。
スキャンダルまみれだった三越・岡田社長の解任は当てはまらないとしても、改革を急ぎ過ぎた伊勢丹・小菅社長の解任は、今回と重なる部分がある。

個人的に見るなら、伊勢丹という百貨店の弱みは、新宿店のみが突出し過ぎており、地方店が弱すぎて極めてアンバランスだという部分にある。
小菅社長は新宿本店依存度を下げる改革をしたかったとあり、大西社長はリストラを回避したままで百貨店事業依存度を下げる改革をしたかったという部分が重なる。
そして、その改革はどちらもほぼ独断専行で進められた点は同じだ。

ただ、改革は独断専行でないと成功しないこともあるから、一概に独断専行が悪く、合議制が正しいとも言えない。独断専行ができずに潰れてしまった企業もこれまで数多くある。

記事中には「腰が低く、改革を愚直に進めようとした大西社長に『独裁者』の表現は似合わない」とあるが、それはその通りで、世の中の人が思い描く「独裁者」像とはまるでかけ離れた紳士だった。
アパレル業界にはそれこそ絵に描いたような独裁者社長は多くいる。独裁者、暴君なんて掃いて捨てるほど見てきた。

そういう人々と比べると大西社長の人間性はまったく異なっている。

さて、日経ビジネスが指摘するように、三越伊勢丹は今回の騒動によって、ブランド力は相当傷ついている。
対応を誤るとタイトルにもある通り「自壊」しかねない状況にある。

三越と伊勢丹が合併して百貨店の王者になったと目されたが、実は経営は危機に陥っていたということになる。
統合後10年が経過してその病巣が白日の下に晒されることとなったが、これを取り除くことができなければ、市場から退場することになるだろう。


誰からも信頼される 三越伊勢丹の心づかい
株式会社三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズ
KADOKAWA
2017-02-24



ライザップ流の在庫一掃セール?

 ライザップグループが衣料品販売店を相次いで買収しているが、実際のところ、買収された各社はほとんど以前と活動内容や商品構成が変わっていない。

夢展望の社長が交代したくらいだろうか。
馬里邑は先週まで大阪ではOMMビルで展示会を普段通り開催していた。

ジーンズメイトも買収された時点では随分と話題になったが、店頭は買収前と何も変わっていない。
昨年春と比べると、商品量が減ったように感じるが、それは今回の買収とは関係なくもっと前に決まっていたことである。

ここも大きくはあまり変わらないんじゃないかと思っていたら、今月上旬にジーンズメイトから「シークレットセール」のEメールが来た。

業界でいわれる「通常のシークレットセール」の多くは、シークレットでもなんでもなく、店に入るとデカデカと「SALE」と書かれたPOPが飾られているのだが、今回のシークレットセールは本当にシークレットらしく、店頭にはそんなPOPはない。

Eメールを見ずに来たお客はそういうセールが開催されていることさえわからないだろう。
通常の店頭と同じだ。

今回のシークレットセールはなかなか太っ腹だ。
セール値札になっている商品をさらにレジで半額にする。

ライザップ流の在庫処分キタコレ(・∀・)

である。

目ぼしい商品があるかどうか店頭を物色してみた。
セール値札からさらに半額なので何を買っても良いのだが、1990円とか990円に下がっている物を買う必要はない。
さらに半額になればありがたいが、半額にならずとももう十分に安い。

半額で狙うべきはエドウインやリーバイスなどのナショナルブランドジーンズである。
通常価格7000~15000円くらいで販売されているが、その型落ち品番は、だいたい3~5割引きで売られる。
今回はさらにその半額なのでだいたい2000~3000円くらいにまで下がることになる。

ユニクロの2990円パンツよりも安くなる。

そんなわけで物色してみると結構いろいろと良い商品がある。
これ全部が型落ち品番ということは、どれほどの滞留在庫があるのだろうか。ライザップが在庫一掃セールを企画する理由もわかる。

筆者の好みでいうと、ブルージーンズが1位、ブラックジーンズが2位で、どうしてもそのどちらかに目が行くのだが、すでに何本か持っており、新たに買ってみたところで、他人から見ればどれも大して違わないようにしか見えない。

せっかくの機会なので、普段買わないような色や形を買うべきだと考えた。

実はベージュのパンツを穿くのが苦手である。
ベージュを穿くくらいならグレーを穿く。
ベージュという中途半端なボヤけたカラーが苦手で、とくにこれを下半身に持ってきたときに、ひどく膨張したように自分では見える。

筆者と頻繁に会う人なら気付いているかもしれないが(小汚いオッサンのズボンなんて誰も気にしていないかもしれないが)、ベージュのズボンを穿いていることはほとんどないはずである。
なぜなら、年に数度しかベージュのズボンを穿かないからだ。

それほどにベージュのズボンを使ってコーディネイトを作るのが苦手である。

ということで、ベージュのズボンを買おうと決めた。

生地はやっぱりストレッチ混が望ましい。
50歳手前のジジイになると着ていて楽なのが一番良い。
動きにくい服は金を払ってまで着たくない。

そうすると合致するのがエドウインのジャージーズというシリーズだった。
通常のストレッチ生地をはるかに越えたソフト感とストレッチ性がある。

これのベージュを選んだ。
む、2種類ある。どちらにすべきか?

一つは6500円で、腰ひもがなく通常のベルトを通すタイプ
もう一つは8500円で、腰ひもが内蔵されている。

筆者は腰ひものみで穿くズボンが頼りなくて嫌いだし、2000円高いので6500円の商品に決めた。

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ちなみに6500円の商品は4割引き、8500円の商品は5割引きされている。
ここからさらに半額になる。

6500円の4割引きで3900円
3900円の半額で1950円

1950円に消費税8%が加算されて2106円となる。

2106円で買うことに成功した。

2106円で買ったベージュのズボンならさまざまな実験ができる。
たとえ穿かなくなったとしてもそれほど痛い出費ではない。

このシークレットセールのURLが面白くてライザップオンラインとなっている。
これを見ても今回の在庫処分は明らかにライザップ主導だということがわかるだろう。

https://www.rizap.online/jeansmate/index.html

世間的にはコストを抑えるにはレンタル洋服を活用すべきだといわれているが、実際のところ、こういう破格値商品は店頭に結構ある。

先日、無印良品でストレッチブラックジーンズを買ったが、定価3980円(税込み)でも十分に安いのに、セールで値札から3割引きとなっており、さらにレジで3割引きされていた。

3980円×0・7=2786円
2786円×0・7=1950円

となり、1950円だったのだが、貯まっていた無印良品ポイント200を使って、さらに200円引きされて1750円(税込み)で買うことができた。

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こういう破格値商品を集めると、1万円あれば5枚~7枚くらい買うことができる。

ブログ読者に「毎月、洋服をよく買ってますね」といわれるが毎月の洋服代はだいたい3~7枚で数千円~1万円くらいである。

一般的な洋服レンタルサービスを利用するよりも支出は少ないだろう。

まあ、そんなわけでジーンズメイトに関しては今後もある程度のライザップ流の仕掛けが出てくるのではないかと思う。今回の在庫処分シークレットセールはその第1弾ではないだろうか。




商業施設・ブランド店単体ではエリアは変えられない

 大阪・京橋の京阪モールが14年ぶりに改装オープンしたらしい。
らしいというのは、報道で読んだだけなので、伝聞系にしている。

京橋という地名は東京にもあるが、大阪の京橋は、JR大阪環状線と京阪電鉄のターミナル駅の一つで、大阪においては乗降客数はそれなりに多い。

しかし、買い物をするエリアかといわれると、極めて疑問である。
京阪モールは長らく京橋に存続し続けてきた商業施設であり、関西圏ならそれなりに知名度はあるが、愛用しているという人はあまり出くわしたことがない。

個人的には京橋には年に何度か出向くことがあるが、京阪モールに立ち寄ったことはもう10年近くない。

京橋は乗り換えて通過するか、駅周辺の猥雑な安い居酒屋に行くか、のどちらかしか利用しない。
おそらくは多くの人が同じ利用の仕方なのではないかと思う。

大阪・京橋をおしゃれな街に 「京阪モール」14年ぶりの改装の狙いは?
http://www.fashionsnap.com/news/2017-03-19/keihan-mall-renewal/

今回の改装についてはこの記事が詳しい。

昨今の衣料品不振を反映したような店舗ラインナップといえる。
衣料品販売店を減らして、飲食店を増やしている。

たしかに、衣料品販売店は国内に溢れかえっており、そんなにたくさんの服を買う人がどこにいるのかと思ってしまう。
飲食店も溢れかえっているが、利用頻度は洋服店に比べれば格段に高い。

たいしてコーヒーや紅茶が飲みたいわけではないが、ばったり知人に出くわして時間があるなら、「久しぶりにお茶でもどう?」という行動は多くの人がとる。

「おお、久しぶり。そこの店で洋服でも見ながら近況を語り合わない?」なんて人は絶対にいない。

だから単純に利用頻度だけを比べると衣料品店よりも飲食店の方が圧倒的に高くなる。

商業施設はずっと同じだと飽きられるから、14年も経過すれば改装して入居テナントを入れ替えるのは正しいやり方でもある。

洋服不振もあって、今後の商業施設は飲食やサロンが主流になって洋服販売店は減る一方になるだろう。

ところで、この記事が提唱している「京橋をおしゃれな街に」することは可能かどうかを考えてみたいが、個人的には無理だと思う。

大阪地区では、南船場や堀江がファッション地域に変貌したことが挙げられるが、90年代後半の南船場・堀江と、現在の京橋では周辺環境がまったく違う。

90年代後半の南船場は単なるオフィス街で、今も昔もそれほど建物が密集しているわけではなかった。
堀江は家具屋、仏具屋などが集積していた場所で、90年代後半には衰退して、開店休業状態の店が多く、店主は売るか貸すかのどちらかを願っていた。

両地域ともに街の構成員を入れ替えることはそれほど難しくなかったし、あらたな施設を建設する土地も確保することは比較的容易だった。

今の京橋はどうか。

駅周辺はびっしりと建物や商店街で取り囲まれており、新たな施設を建てる余地はほとんどない。
また駅周辺の安い居酒屋にはそれなりに利用客があり、かつての堀江の家具店・仏具店のような閑散とした状況ではないから、すぐさま店を売ったり貸したりしたい地主が多いとも思えない。

京阪モールが改装したり、ダイエーが改装したり、と個々の店舗が改装リニューアルするのが最大限の努力だといえる。

また、当時の南船場・堀江は、地元の組合や不動産業者が一体となって積極的にファッション店を誘致することで、新たな街作りを模索したが、現在の京橋にそういう気運があるのかどうか。
外野から見聞きしている範囲では、当時の南船場や堀江ほどの街作りへの気運は高まっていないと感じる。

エリアが変貌するには、商業施設やブランドショップ単体では如何ともしがたいのが実態で、地元の組合や不動産業者が一体となって街作りをデザインしなくてはならない。

それらの一体感が見られない京橋が今後、おしゃれなエリアに変貌することはちょっと考えにくく、10年後も20年後も京橋は今のままの京橋であり続けるのではないかと思う。


現実を教えないファッション専門学校に存在意義はあるのか

 そういえば、昨日、非常勤で時々講義をしに通っているファッション専門学校の卒業式があり、画像が流れてきた。

授業ではいつもお金の流れのことばかりを話していて、学生にとってはあまり面白くないだろうなあと思うのだが、一番重要なことなのでそれを変えるつもりはない。

そんな中、18年来のお付き合いのあるデザイナー氏とお会いしたのだが、以前は母校で特別講義をしたことがあるのだが、もう何年も前に行くのを辞めてしまったという。

その理由について、尋ねると、

「資金の回し方やお金の借り方、原価と利益の計算、手元に残ったお金はすべて収入にはならず、そこから次回の製造費を捻出しなくてはならないこと、なんかを話すとエライ先生からダメ出しをされたから」だという。

そのエライ先生いわくは

「学生がもっと夢を持てるような内容を話してほしい」

とのことで、

「実情を教えずに、何が専門学校なのか」と疑問を感じて特別講義に出向くことを辞めてしまった。

学生に対して、夢や希望を与えることは重要だろうが、夢や希望だけでは社会に出て生きてはいけない。
企業人としてサラリーマンを続けるならまだしも、もし仮に独立するのであれば、それこそ資金繰りのことは予備知識を持っておく必要がある。

独立して売上高が1億円のブランドだったとして、そのすべてが自分の収入になるわけではない。
そこから家賃、人件費、光熱水道代、製造原価などが差し引かれる。
それで手元に残るのは、半分以下になってしまうだろう。

手元に残ったお金がすべて自分の収入かというと、それもまた違っていて、その中から次シーズンの商品を製作するために出ていくお金がかなりある。

実際のところ、手元に残るのはごくわずかというのが、現状である。

中には、こんなわずかのお金で派手な生活をしているように見える著名ブランドもあるが、それは親や親族、配偶者などからの資金が流れ込んでいるから可能なのであって、自腹ではとっくに破産している。

自分でも、授業ではそういう話をできるだけしているが、学生たちは「普通に生活するには予想以上のお金が必要になることがわかって驚いた」と反応する。

しかし、それが現実だし、住む国を変えたところで内情は対して変わらない。
国によって多少の社会制度が変わるくらいだ。
中には「物々交換の時代に戻って」なんていう荒唐無稽なことを口走るイシキタカイ系の人もいるが、まあ、そんな生活がしたければどこか辺境の国で勝手にどうぞ、である。

それにしても、自分を振り返っても「お金の流れ」については大学を卒業するまであまり詳細には知らされていなかった。
ファッション専門学校に限らず、一般の高校や大学でもそういう話はしておくべきではないかなあと、今にして思う。

もしそうなら、自分ももう少し、若いうちから経済観念の発達した人間に育つことができたのではないかと、後悔することしきりである。



クルーグマン ミクロ経済学 第2版
ポール・クルーグマン
東洋経済新報社
2017-03-17


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