国内の大手ナショナルジーンズブランドが弱った遠因はビンテージジーンズブームだったのではないかという話
2023年9月5日 ジーンズ 2
2020年代に入ってから、若者のジーンズ人気が復活していると報道されることが増えたし、実際に着用している若者も2010年代半ばに比べると増えた気はするが、1980年代~2010年代前半までのジーンズ着用率の高さから比べると格段に低いままだと感じる。もちろん統計データなんてないからあくまでも体感である。
90年代の男子大学生なんてほとんどがジーンズを穿いていた。女性は様々だが、例えば何かの野外活動なんかに参加する際はほとんどがジーンズを穿いていた。
まるで制服ではないかというくらいの着用率の高さだった。それに比べると2023年現在のジーンズ着用率は格段に低いままだと感じる。
2023年秋からビンテージっぽいジーンズが30年ぶりに注目を集め始めているのではないかということで、前回、エドウインがビンテージ調ジーンズの「505」を今秋物から復活させたという話題を前回のブログで紹介した。
で、この回でも少し触れたのだが、90年代半ばから7~8年間くらい続いたビンテージジーンズブームというのは、ジーンズ業界にメリットと同時にかなりのデメリットももたらしたのではないかと、今改めて思う。
特に、国内でナショナルブランドと呼ばれていた大手ジーンズメーカーには相当にデメリットをもたらし、大手各社が後年経営破綻を招く要因の一つ(要因のすべてではない)になったのではないかと思えてくる。
今回はそんな繰り言である。
ビンテージジーンズブームというものは、昔に作られたジーンズそのものか、それを完コピしたジーンズが重宝される。
しかし、昔に作られたジーンズなんていうのは、そのほとんどがリーバイスで、次いでリー、最後にラングラーという具合で、完コピを作るにしてもこの3ブランドのうちのいずれかにならざるを得ない。
リーバイスの創業は1873年、リーの創業は1911年となっている。ラングラーは経緯が少し複雑だが、ラングラーブランドの現在の形のジーンズが発売されたのは1947年とされている。
だから、「1950年モデル」なんて商品はこの3ブランドのいずれかしか存在しないということになる。1940年代モデルとか1930年代モデルとなればリーバイスかリーしか無い。
本物の昔のリーバイス、リー、ラングラーの商品を発掘してくるか、それらを完コピするか、のどちらかしかビンテージジーンズブームの需要に対応できる手段がない。
90年代半ばに新興ブランドだったエヴィスやドゥニーム、シュガーケーンなどは昔のジーンズの完コピをすることからスタートしている。
それは新興の小規模メーカーだったから、ある程度、3ブランドのアメリカ本国からお目こぼしされたということになるだろう。仮に2023年現在に同じ行動をしたなら黎明の段階でも商標権侵害で訴えられている可能性は極めて高い。
ビンテージジーンズブームが起きた90年代半ばの日本国内では大手5大メーカーがナショナルブランドメーカーとして認知されていた。
エドウイン、リーバイス、ビッグジョン、ラングラー、ボブソン(順不同)である。
リーバイスはリーバイ・ストラウス・ジャパン、ラングラーはラングラージャパンが運営していた。この大手5社はいずれも売上高が100億円を越えており、エドウインやリーバイスは売上高300億円内外を記録した時期もあった。
90年代後半に繊維業界紙に入社した当方は、分野の先輩からは「売上高100億円未達のタカヤ商事とブルーウェイは準ナショナルブランド扱い」と教えられた。
ビンテージジーンズブームで活況に沸いたジーンズ業界だが、今改めて冷静に考えてみると、ビッグジョン、ボブソン、それからエドウイン本体には極めてメリットが薄かったのではないかと思う。特にビッグジョンとボブソンにはほとんどメリットが無かったのではないか。何せ、ビンテージジーンズファンが求めているのは、リーバイス、リー、ラングラーの昔の商品か、それらの完コピである。
となると、エドウイン、ビッグジョン、ボブソンの3ブランドは昔の商品自体が存在しない。だからと言って「大手5社」として同等に扱われているリーバイス、ラングラーの完コピ商品を作るわけにもいかない。作れば当時ですら商標権侵害で訴えられていただろう。エドウインは傘下にリー・ジャパンがあったので恩恵を甘受していただろうが、本体ブランド「エドウイン」でリーの完コピ商品を作るわけにもいかない。
リーバイスともラングラーともリーとも無関係のビッグジョン、ボブソンに至っては打つ手無しの状態である。
そこで作られたのが、ビンテージっぽいジーンズである「エドウイン505」であり、ボブソンのアースカルチャーだった。ビッグジョンはあまりビンテージっぽいジーンズの開発には力を入れていなかった印象があり、代表的な品番も記憶に残っていない。
ビンテージジーンズにこだわりがほとんど無い当方からすると通常のジーンズと値段が同じのエドウイン505シリーズは非常にありがたい商品だったが、残念ながら2010年代までのビンテージジーンズファンからの評価はあまり高くなかった。ボブソンのアースカルチャーは認知されていたかどうかも怪しいレベルだった。
逆に先ほど挙げたエヴィスなどの新興レプリカジーンズメーカー各社が数十億円規模に成長してしまうことを許す結果となった。(その後、成長していないが)
この結果、ビンテージジーンズブームが落ち着いた2000年代前半以降も「ナショナルブランドのジーンズはなんかダサい」というイメージがこびりついてしまったのではないかと感じる。
ビンテージっぽいジーンズはリーバイスかリーかラングラーの復刻モデル、もしくはレプリカメーカーの商品。ファッション性のある商品ならセレクトショップや百貨店向けブランドのオリジナルジーンズ、もしくは欧米ブランドということになってしまった。
その後、2000年代後半以降にビッグジョン、ボブソン、エドウインが経営破綻し再スタートを切ることになり、ブルーウェイは消滅、タカヤ商事は大幅縮小という形になってしまって現在に至るわけだが、その原因は、在庫問題や業界の商慣行問題など様々な要因があるが、ビンテージジーンズブームのデメリットというのもその一つではないかと思えてくる。
何度も書いていることの繰り返しになるが、全ての物事には必ずメリットとデメリットが存在する。短期的には妙手に見えることが、中長期的にはデメリットに転じることも珍しくない。90年代半ばに起きたビンテージジーンズブームもその一例といえるのではないだろうかという懐古である。
comment
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neko より: 2023/09/05(火) 2:41 PM
履きやすさ度外視でとにかく50年代のリーヴァイスが最高って価値観は今思えば狂っていた。
赤耳、チェーンステッチ、裏リベット・・・些細なディテールに拘泥し、色落ちという劣化具合
にまで縦落ち、ハチの巣等のわけわからん価値観で競っていた。ウエ〇ハウスなんか余りにも
色落ちが早いので洗濯するのは極力控えねばならなかった。最悪なのはレプメーカーは未洗い状態
で発売してたので店側は縮みのクレームを恐れてやたら大きいサイズを押してくる。裾上げは一回
洗って縮まってからやりましょう・・ってホントめんどくさい。良い色落ちにするにはうんたらかんたら
って具合でジーンズは本来丈夫な労働着でラフに扱えばいいって本来の価値観から最も離れた時代。
復刻・ヴィンテージと名乗ってはいませんが、
高品質Gパンを名乗って商品を最初にリリースしたのは
ビックジョンで、たしか80年代前半でした
RAREというシリーズが今でも販売中ですが
あれが世界初の「高品質を売り物にしたGパン」です
ただ南サンご指摘の通りヴィンテージを名乗ろうにも
自社ヴィンテージが存在しない会社なので
当時の無農薬とかシングルモルトウィスキーブームのような
天然ブームに乗っかった形でパブリを組んでました
そしてその数年後に502がリリースされ、505が続きます
95年以降はヴィンテージ製品を各社単価アゲアゲします
したがって90年代半ばのヴィンテージデニムブームが来る
少なくとも5年以上前から
各社商品をかなり熱心に仕込んでいた訳で
21世紀にありがちな急造商品・お急ぎ企画商品が
とても少なかった印象があります
今となっては、
ヴィンテージおよびヴィンテージ風味デニム市場の規模は
トータルでもせいぜい300億ぐらいでしょう
ただ、単価がデカいから、1度当たると大きいし
したがって当たったせいで、没落しやすい業界だと思います