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南充浩 オフィシャルブログ

「面白いけど使い道の無い技術」は無駄かもしれないが役に立つこともある

2023年8月17日 製造加工業 0

国内の繊維製造加工業は分業制だということは業界内では広く知られているはずである。

2000年代後半以降に言われていたことは「最新のアジアの工場は一貫生産だからある意味で日本よりやりやすいところが多い」ということだが、今更、国内工場を一貫生産型に集約することは難しい。

自主的に一貫生産化した工場は一部にはあるが、広く工場全体を一貫化することは難しい。何よりも各工場に資金がない。現在の国勢で、繊維の製造加工業を国策として振興するわけもない。やる気のある工場経営者が自己努力で一貫生産化することが関の山だろうから、分業化は変わらないだろう。

しかし、分業化していることによって、その工程の中だけで技術力を極限まで高めることも可能だ。国内の生地工場で「機能性ではない面白い生地(風合いだとか表面感だとか)」が出来上がることがあるのも分業化ならではという側面もある。何事においてもメリットとデメリットは必ず両立する。

他方、分業化によって独自に技術力を開発したものの、下流工程では、それがオーバースペックになってしまったり、商材としては効果的ではないなんていうこともまま起こってしまう。

 

この辺りに言及しているのが山本晴邦さんのこのブログである。

相変わらずの見出しである。(笑)

目線。 | ulcloworks

目線の置き所は重要だと感じている。どんなに優れた技術でも、残念ながら使用する場面がないものには、いくらコストがかかっていても作り手にとってお客様からの価値評価は納得いくもになりにくい。

今回は某染色工場の加工についての「目線」である。

目線は二つ。

テキスタイルの意匠性側面で言えば、今っぽくてフックがあって面白いからお客様からピックアップされる可能性は高いだろう。

対象生地の目付けが軽ければ付加加工賃分はさほどネックにはならないので、成約確率も高そうな感じがする気配は、生地屋さん的には感じるから生地屋さんベースでのサンプル依頼もあるだろう。

縫製品としてお客様にOEMで提案する側の意見としては、加工の特性上、生地の中で色ムラが出るので、裁断縫製後に中稀(チュウキ:袖や身頃などパーツごとに色が違って見えてしまう事故)が間違いなく発生するので、そもそも提案のテーブルに上げることがない。

生地提案レベルの段階で、製品加工でこういう表情にもなりますよってレベルでイメージサンプルとしてお客様に見せることはあっても、生地加工でズバリそのまま進行することは、事後の事故発生をアナウンスした上で了承いただけない以上、やることはない。

再現性が低く、相手の理解と実物上がりの乖離がデカそうな物は、事後処理の資金・時間的余裕と生産現場がお客様イメージとの乖離差を埋める努力をしてくれる前提の態度がないかぎり、それがどんなに意匠性が高く『他所ではできない』ものであっても、最終的に商品になり得ないのだから、ノーガードで提案することはまずない。

 

とのことで、この加工については

1、生地製造工場としては目付が軽ければ興味深い生地としてある程度の受注は見込める

2、OEM屋としては、必ず色ムラが生まれてしまうので製品化(洋服化)することはまずない

とのことである。

生地を作る分には「面白い」が、洋服にするには「向いていない」という判断が下されるというわけだ。

どちらかというとファイバーアートに近い取扱いになるのではないかと思う。

 

生地製造工場や染色加工場をいくつか見学、取材させていただいた過去の経験に照らし合わせると、こういう物は国内工場には意外と多い。「面白いねんけどなあ、洋服にするには取扱いが難しい」という立ち位置である。

 

ちょうどこれと同じようなことが、別のところでも語られていたのでご紹介したい。

《中小紡績が切り開く未来②》長谷虎紡績 知識製造業として再構築 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

「良い糸を作る」ではなく「製品でどんな良いことを実現できるのか。そのために糸には何が求められるか」。伝統的な製造業の考え方を変え、「地域や社会に貢献する」新たな紡績業を志向しているのが長谷虎紡績だ。そのキーワードを〝知識製造業〟とする。

とある。

長谷虎紡は創業130年になる老舗の中規模紡績である。

ここでの議題は「糸」になるが、「良い糸」をやみくもに作る(もしくは開発する)のではなく、製品(もしくは生地化)でどんなことを実現できるか?ということを考えて方向性を模索しているという話である。

紡績というのはご存知のように綿、麻、羊毛、獣毛を糸にするという工程である。原則的には糸作りであり、その糸を使って生地を作るのはまた別工場ということに国内ではなっている場合が多い。

となると、糸の段階でも良い物=良い製品にはならないことも多々ある。

今回の長谷虎紡はそういう糸作りではなく、次の生地工程、染色工程を見据えた糸作りを今後は心掛けたいという意図だということになる。

ただ、難しいのは、次の工程や製品化を目的に製造や技術開発を行うと、これまでのような「製品化には向かないけど面白い物」が生まれにくくなる可能性が高いということになる。

山本晴邦さんのブログでも触れられていた染色加工技術も同様だ。

理想をいえば、そういう「面白い物」も開発しつつ、ビジネス的は次工程や製品化を見越して製造・加工することが望ましいのだが、両方に目配りができる経営者や指揮官がこの世の中にはいかほども存在しないという現実がある。

まことに「二刀流」は生まれにくいという話である。

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