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南充浩 オフィシャルブログ

何を「セレクト」しているの?

2014年10月3日 未分類 0

 釼英雄さんがセレクトショップについてエントリーをアップしておられる。

東京にセレクトショップはない
http://blog.goo.ne.jp/souhaits225/e/66f62fd291f559fc5234f10a219c6f0e

である。

今回はこれに説明を補足しつつ、筆者の感想や思うところを加えてみたい。

取引先アパレルの社長がこう言い放った。「東京にセレクトショップはないからね…」。なるほどである。

 真意を説明するとこうだ。東京に本拠を構え、ネームバリュウをもち、規模の拡大を追求し、ネット販売の環境も整備している「編集型の品揃え専門店」は、専門店系アパレルの商品なんかに、それほど期待していないということである。

ウエアから小物まで商社やOEMやODM業者、またいわゆる“ふり屋”の手を借りれば、いとも簡単にオリジナルで生産できる。売場の編集は容易で、商品の色、素材感、テイストが相似になれば、VMDも自社のオペレーションで完結する。

 店づくりは統一感を増し、ショップブランドは確立する。大手として経営の目的である「利益の最大化」を図るには、これが一番ベストな手法となる。ちまちまとアパレルから仕入れていたのでは、それは実現できないからだろう。

 かといって、「セレクトイメージ」は残したい。その結果、メーカー別注方式や仕様書発注方式をと取り入れながら、時にバイヤー?(商品企画担当者)が工場まで出向いて、スペックを詰めたり、デザイナーのアイデアを引き出したり。

 一応、専門店アパレルのような商品レベルをキープして、セレクトの体裁は整えるのである。でも、それをセレクトショップと呼べるのか。アパレルの社長は「否」だったのである。筆者も同感だ。

とある。

説明をすると、大手有力セレクトショップは現在ではOEM/ODMを使った自社規格製品比率を極度に高めている。
これは周知の事実である。
自社企画製品しか扱わないのであるなら、何を持って「セレクト」ショップと名乗っているのかということになる。
辛辣な業界人は「(自社企画の元として)パクる先のブランドをセレクトしているからじゃないの?」と指摘するが、そういわれても仕方がない。
筆者は疑似SPAだと感じている。

きらびやかなファッション業界には疎い筆者だが、それでも時々、大手有力セレクトショップの幹部を取材することもある。
各社に対して「自社企画製品の構成比率はどれくらいですか?」と尋ねると、一様に「70%~75%です」という答えが返ってくる。
この数字だけを聞くと「意外に自社企画品が少ないんだな」と感じるが、これには少しだけカラクリがある。

バッグ類・靴類・アクセサリー類・食品類・書籍類(以下、雑貨類)などは他社製品の仕入れ比率が高い。
一方、衣料品の自社企画製品比率は高く、だいたい各社を平均すると85~95%程度だろう。
一部の見せ球商品だけを仕入れているというのが実情である。

衣料品と雑貨類を合計した平均的自社企画製品比率が75%前後ということだ。

なぜ、セレクトショップ各社がほぼ100%に近いほど自社製品比率を高めるかというと、一つには、釼さんの文中にあるように「利益確保」のためである。
例えば、店頭価格1万円の商品をブランドメーカーから仕入れたとする。
値入率は一定ではないが、ひとまず50%程度で仕入れたと仮定しよう。
5000円で仕入れて1万円で売るわけだから、定価販売できたとして利益は5000円である。

一方、OEM/ODMを使って店頭価格1万円の商品を製造したとすると、
セレクトショップへの値入はだいたい3000円内外である。
定価販売すると7000円前後の利益になる。
単純に計算しても利益は2000円多くなる。

もう一つの理由としては、以前、小島健輔さんが指摘されていたように、メーカーからの仕入れ品100%でやると、迅速な期中の補充追加や新規商品投入ができにくいためである。

期初の立ち上がりは、すばらしいテイストの店頭が出来上がるが、時間が進むにつれて、売れ筋は欠品する。
ここに商品補充が迅速にできる、または、新規商品の投入ができれば店頭の鮮度は維持できる。
しかし、昨今、リスクヘッジの考え方からメーカー側も極力在庫を積まないようになっている。追加補充ができるのは1度か2度である。
また、在庫リスクを避けるためには頻繁に新商品開発を行わない。

おそらく、新規商品投入も1度くらいだろう。

国内メーカーはまだしも、特に欧米インポートブランドはまるで小回りが利かない。

となると、セレクト側としては自社企画製品を小ロットでクイックに製造する必要に駆られるということになる。

しかし、それを考慮しても衣料品の自社企画比率を8割以上にも高める必要があるのかということに関しては筆者は疑問を感じる。

さて、釼さんの文中にあるようにファストファッションや低価格SPAに対して消費者が「飽き」を感じているのはたしかである。
少々値は張るが、国産品やクリエーター的商品に注目が集まりつつあるのも事実であり、各業界人もそれを指摘している。

高額な国産ブランドを集めたセレクトショップというと「ステュディオス」が注目を集めている。
2014年2月期の売上高は30億円を突破したそうで、中期的には50億円を目指すという。

創業から5年でこの業績は素晴らしい。

しかし、逆にいうと高額ブランドの市場というのは30億円程度だと見ることもできる。
実用的側面のある低価格ブランドなら一気に100億円、中期的には300億~500億円内外を目指す。
市場規模はこれほどに差がある。

私見だが、現在の「ステュディオス」業態では50億円~100億円の売上高が限界値ではないかと考える。

となると、業界人が理想とする「セレクトショップ」業態は、数十億円規模が限界ではないか。

今後、いくら高額品への揺り戻しがあったところで、低価格SPAブランド群の売上高が半減することはないし、高額品市場が2倍に増えることはない。

例えば、ユニクロの売上高が1000億円未満にまで低下することはないだろうし、ステュディオス単体の売上高が1000億円に到達することはない。

数百億円規模を目指す、さらには株式上場も、ということになるとそれはおのずとSPA業態に近づかざるを得ない。それも1つの業態では無理なので、複数の業態を並立させながらということになる。
その複数の業態の中には当然、低価格業態も必要となる。

紙面の記事を読む限り、ステュディオスはそのあたりを冷静に読み取りながら、事業展開をしていると感じるのだが、そういう冷静な見極めのできる業界人が一体どれほど存在するのか。
筆者の体感ではそういう人は少数派である。

所詮はニッチな市場だという見極めとある種の諦念がない限り、仕入れ型セレクトショップ業態を手掛けることはやめた方が良いだろう。

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