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南充浩 オフィシャルブログ

繊維・衣料品の生産の国内回帰が大幅に増えることはあり得ない

2023年7月12日 製造加工業 0

繊維・アパレル業界では「生産の国内回帰」が20年くらい前から議題の一つとなっているが、実現した試しがない。

数量ベースの生産比率でいえば、毎年着実に低下しており22年度の統計データでは国産比率は1・5%になっている。実数で言っても6600万枚強にまで減っていて、前年比2・8%減である。

コロナ禍による海外サプライチェーンの乱れ・海外物流の乱れから衣料品生産の国内回帰が進んだと言われているが、数量ベースは減少している。逆に言えば、国内回帰があったおかげで、21年比200万枚減の2・8%減で済んだのかもしれない。

コロナ禍による国内回帰が無ければもっと減少していた可能性も低くないのではないだろうか。

 

たしかに国内回帰というのは、アパレルやブランド側からもコロナ禍以降よく耳にした。しかし、国内生産の受け入れ先が見つからないアパレルやブランドも多数あった。また、よほどの高い工賃か多い数量のどちらかで発注しないと受けてくれないという工場も増えた。

基本的に、国内の織布工場、縫製工場は減り続けている。工員の高齢化と後継者難がよくメディアでは取りざたされているが、経営者の高齢化と後継者難も深刻である。

先日、小規模ブランドの展示会にお邪魔させてもらった。その際、そのブランドの縫製を手掛けているという工場の社長さんが訪問されていたが、一見したところ60代後半から70代前半という風体だった。

社長さんが帰られたあと、主催側に尋ねてみたが当方の見立て通りで70歳前後とのことで、社長さん本人が「あと何年続けられるかわからない。自分がリタイアした後の後継経営者はいない」と仰っていたそうで、失礼ながら長くてあと10年、短ければ数年後にあの縫製工場は無くなってしまうと推察した。

このような工場が国内には少なくない。

 

受け入れられる工場数が減っているのだから、いくらブランドが「国内回帰したい」と言ったところで、国内生産数量は増えようがない。よくて現状維持である。

 

《視点》国内回帰 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

 

22年の国内衣類供給量が発表され、輸入品の割合を示す輸入浸透率も明らかになった。輸入が増え、国産が減り、輸入浸透率は過去最高の98.5%。コロナ下でしばしば耳にするようになった、物作りの〝国内回帰〟。統計上はその傾向が表れていない。

製造業からは「国内回帰するには、生産基盤があまりにも脆弱(ぜいじゃく)だ」との指摘が多い。コロナ下で需要が減退し、過剰生産が問題視された結果、良くも悪くも発注自体も減らすことになった。国内製造業の生産能力は縮小し、人も減った。

とあり、これが国内の繊維・衣料品の製造背景の現状である。

 

工員の高齢化と後継者難、工場経営者の高齢化と後継者難で90年代以降、国内の製造加工場は減少の一途をたどってきたが、2010年代後半のサステナブル?SDGS?ブームによって、さらにその減少に拍車をかけることになったのは言うまでもない。

以前から何度も書いているように、小ロット生産では縫製工場は潤わないし、織布・染色・ニット工場はミニマムロットには合わない。経営者が40代・50代くらいなら無理してでも注文を受けようとするかもしれないが、もう年金暮らしが始まっている年齢ならどうだろうか。当方なら間違いなくそんなめんどくさい仕事は絶対に受けない。なぜなら、年金という最低限の生活ができる収入はあるからだ。

一方のアパレルメーカーや小売業。「製造業の事情を知らずに要求してくる」と糸メーカーの社長。表地の生産事情はおおまかに把握しているケースもあるが、糸までさかのぼるとわからないようで、「糸は常に備蓄されているものと思い込んでいる」という。

とあるが、これは糸だけの問題ではない。ボタンやファスナー、芯地といった副資材も同様だ。副資材大手の話をたまに伺うことがあるが、コロナ禍以降、備蓄量が激減しているらしい。よく言えば過剰在庫を持たない経営、悪く言えばサステナブル?ブームの影響ということである。

ブランドが在庫の備蓄を持たないのなら、生地段階、糸段階、副資材段階でも備蓄は持たなくなる。当たり前の話だ。

以前なら、大手問屋が備蓄してくれていたが、アホみたいな中抜き不要論で問屋自体の数も減ったし、問屋もサステナブル?経営になっているので備蓄は少なくなっている。

これが業界の現状である。

 

逆に、ブランド側は自分たちが全く備蓄しないのに、その上流工程で備蓄してくれていると思っているのか理解に苦しむ。過剰在庫が悪なのは衣料品だろうがその原料だろうが、副資材だろうが経営の基準としては同じである。

上流工程に備蓄を押し付けておいて自分達だけ在庫ゼロのローリスク経営なんてそんな美味しい話が成り立つはずがない。身勝手もたいがいである。

アパレルメーカー同様に素材メーカーも製品在庫はなるべく持ちたくない。この数年で備蓄量を減らし、キャパシティーも減ったなかで、複数の受注を効率的にこなさなければならない。納期は短期化し、製造業の難易度は上がり、負担は膨らんでいる。発注側の理解、協力なくして国内回帰は進まない。

と結論づけているが、当方はこの結論には疑問である。

安全保障上、国産比率は一定量を維持すべきだと考えているが、繊維・衣料品の国内回帰がどんどん進むとは思えない。よくて現状維持だろう。ゼロにはならないだろうが、今更、縫製工場や染色工場を新たに立ち上げることは少ないから、工場の総数は減り続ける。よほど高い工賃が提示されるか、よほど大きい生産ロットが提示されるか、そのどちらかの注文がブランド側から増えない限りは国内工場が潤うことはないから、現状維持がせいぜいである。

 

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