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南充浩 オフィシャルブログ

ルームスの休止はアパレル業界の大型合同展示会の終焉

2023年6月30日 経営破綻 2

アパレル業界における「合同展示会」に求めるものも随分と変わってきたと感じる。

その昔、アパレル業界は卸売りがメインで専門店・百貨店・量販店が販売を担ってきた。それゆえに店頭投入時期の半年から3カ月前の時期に各アパレルメーカーは「展示会」なるものを開催し、販売店に投入予定新商品をお披露目し、そこで新商品の注文を取っていたわけである。

そこで集めた受注数量に基づいて新商品が生産され、しかるべき時期に各販売店に納品されるというシステムである。

 

80年代後半のDCブランドブーム最盛期くらいから、卸売りではなくブランドの直販やオンリーショップが増え始めた。98年のユニクロフリースブームで製造直販とも訳されるSPA業態が花盛りになったと一般的に捉えられているが、実際のところは90年代半ばごろからワールドなどの大手総合アパレル各社でもSPA化は百貨店・ファッションビルでのSPA化は急ピッチで進められていた。

その後、全価格帯でのSPA化は進む一方な上に、これまで他社ブランドの仕入れ品をメインとしていた大手セレクトショップ各社も粗利益確保のために、セレクトショップオリジナル品の比率を高め始め、ここでもSPA化が進んだ。

そうなると、卸売り型アパレルによる展示会は徐々に活気を失い始め、ちょうどそれを補完する意味合いもあったのか90年代後半ごろからアパレル向け大型合同展示会がいくつか立ち上がるようになった。嚆矢となったのは繊研新聞社のIFFだろう。その後、2000年にはアッシュ・ペー・フランスが「ルームス」を立ち上げた。

しかし、IFFは2018年に中止となり、今またルームスの中止が決定した。

 

アッシュ・ぺー・フランスが合同展示会ルームス事業を休止

 

アッシュ・ペー・フランスは、6月30日をもって合同展示会事業ルームス(ROOMS)を休止すると発表した。10月に開催予定だった展示会と、10月から来年にかけて予定していたオンライン展示会は中止する。公式サイトは7月31日で閉鎖。なお、現在オンラインで開催中の展示会「ルームス オンライン」は9月30日の会期まで継続する。また、大阪のルクア イーレ5階Eサロンへの出展2件は、それぞれ7月31日まで、9月30日まで続ける。

 

とのことである。

今回の中止の最大の要因は、今年2月に発表されたアッシュ・ペー・フランスの会社更生法申請によるものだろう。

アッシュ・ペー・フランスが会社更生法申請 負債29億円 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

アッシュ・ペー・フランス(東京、原敏文社長)は2月24日、東京地裁に会社更生法の適用を申請、同日保全管理命令が下りた。信用情報によると負債は29億円。22年2月期の年商は49億6400万円。なお、商取引債権は全額支払いがなされている。

 

である。会社更生法申請というのは、はっきり言えば経営破綻したわけである。ただし、倒産ではなく新たなスポンサーが見つかれば企業は存続できるし、スポンサー選定中も営業活動は継続される。

アッシュ・ペー・フランスが経営破綻に至った理由は2020年のコロナ禍による長期自粛が引き金であることは疑う余地もないが、コロナ禍発生前の2010年代後半には早くも経営が悪化していた。

 

利益面でも赤字を散発。資金繰りが悪化するなかで、17年には事業再生ADRを実施して債権放棄を受け、18年には投資ファンドのブレイン・アンド・キャピタル・インベストメンツが運営する投資組合をスポンサーとして再スタート。

 

2017年にも一度実質的に経営破綻しており、新スポンサーによって経営者が交代していた。個人的にはコロナ禍が発生していなくても経営のV字回復はなかったのではないかと見ている。

ちなみに会社更生法を申請し、新スポンサーが見つからない場合は、そのまま破産へと移行し会社は倒産となる。果たして新スポンサーが見つかるかどうかである。

 

さて、ルームスに話を戻すと

合同展「ルームス」は2000年に、“クリエイティブの祭典”を掲げてスタート。佐藤美加がプロデューサーを務め、ファッションだけでなくライフスタイル、アート、パフォーマンス、飲食、ビューティなどさまざまな分野のクリエイターを巻き込んだイベントとして盛況を誇ったが、近年は展示会ビジネス自体の苦境やコロナ禍もあり、存在感は弱まっていた。佐藤をはじめとする当時のスタッフもほぼ事業を離れており、その一部は22年に、ECサイト制作などを手掛けるダイアモンドヘッド内で、新合同展「ニュー エナジー」を立ち上げている。

とまとめられているが、実際、2010年代半ば以降、当方個人でも「ルームス」の存在感はひどく薄まっていたと感じていた。

経営破綻企業のアッシュ・ペー・フランスとしては、できるだけ採算を取らないといけないので、ある程度の収益性はあっても売上高が伸び悩んでいる展示会事業を中止するというのは、極めて合理的な決定だといえるのではないだろうか。

展示会ビジネスは、物を製造したり仕入れたりするわけではないから、利益率は基本的に高い。しかし、一定規模に達するとそれ以上の売上高増は望めなくなる。展示会ビジネスの基本的な売上高というのは出展料金になるわけで、いつも使っている展示会場の出展スペースは増えないから、仮に500社の出展で展示会場が満杯になると、それ以上の出展者を集めることはできなくなる。

そこからさらに売上高を増やそうとすると、

1、出展料金を値上げする

2、展示会開催回数を増やす

という2つの方法が考えられるが、いずれも必ずしも効果が出るわけではない。

出展料金を値上げすれば出展者が減る可能性もある。また、展示会回数を増やすという施策も毎回必ず同じ数の出展者が集まるわけもない。まるで集まらない回も出てくる可能性が低くない。

そうなると簡単には踏み切れないわけである。その結果、今後大幅な売上高増が見込めないのであれば破綻企業としては中止を決定するのも極めて当然だといえる。さらに推測すると、ルームスの出展者数も減少傾向だったのではないだろうか。

 

これで、国内アパレル業界の2大大型合同展示会は消滅してしまったことになる。

しかし、近年逆に中小型の合同展示会が増え始めていると感じている。冒頭で書いたことと矛盾するかもしれないが、SPA化が極度に高まると、今度はスパイスとなるような仕入れ商品への需要が高まっている部分がある。特にバッグ、靴、アクセサリーなどの雑貨類である。衣料品は自社SPAに少しの仕入れブランド商品、バッグ・靴・アクセサリーなどの仕入れ品で店頭の独自性を見せる、という形態が増えてきている。

そのため、雑貨比率の高い中小型展示会というのは5年前と比べて件数は体感的に増えていると感じる。

「陰極まりて陽となり、陽極まりて陰となる」と昔から言われるが、行き過ぎた結果、幾分の揺り戻しがあるということなのだろう。

経営破綻がきっかけとはいえ、大型合同展示会が無くなり、中小型の合同展示会が増加傾向にあるというのは、アパレル業界の潮流がまた変わりつつあるということなのかもしれない。人生で何度目かの時代の節目を見ているということなのだろう。

 

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 comment
  • キム ゴンウ より: 2023/06/30(金) 11:41 AM

    原宿プロジェクト・フランス 会社更生法申請してたんですか!
    そういえばになりますが、最近は元気感じませんでしたね。
    ヒルトンプラザにあるジュエリーショップに立ち寄った時も
    どうも売る気が感じられなかったなぁ
    もっとも原宿プロジェクト・フランスが呼び込みの声をバリバリあげてたら
    それはそれで違和感ありまくり三助だけども。
    出展内容よりも、丹下健三ってやっぱりすごいよなと思わせてくれたrooms。
    ブランドのインキュベートシステムとして、機能してたのかもですが
    それに寄生していた輩たちにとっては、この終焉困った事態かもしれませんね。

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/07/05(水) 1:47 PM

    私にとってはおおむかしの記憶をたどるレベルwのネタですが
    あの会社がつぶれるにしても、負債はたった29億・・・

    いかにも業界人好みで、いまふうで、カッコよく見えるマーケットが
    その実、市場規模がいかに小さかったか、という事でしょうな・・・

    会社も創業者も業態も店舗も商品も
    あぶく銭時代な90年代前期までの
    おおむかしの文法チック

    顧客が代替わりしなかった典型じゃないでしょうか

    いまどきのセレヴwで勝ち組wで港区wな人たちは
    もっと分かりやすくてお手軽に大金を使える先に
    いきますよ

    ぎょうかい人や同業者が喜びそうな店だけど
    ぎょうかい人や同業者はこーいうお店でお買い物するだけ
    お金に余裕はありませんからねwww

    したがってイメージだけが拡大流布されていく
    しかし具体的にお店で物を買う以前に
    お店に行った事がある人自体が少ない

    これではねぇ・・・

    キムさんの発言のように、今や「そういえば」扱いの
    グループなんですよね

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