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南充浩 オフィシャルブログ

ショッピングセンターに破れた上にテナントも集まらなくなった地方百貨店

2023年6月26日 企業研究 4

2023年5月末時点で国内の百貨店店舗数は181店舗となっており、今下半期に突然の閉店が無い限りこのままの店舗数で維持しそうだが、2024年には全国百貨店店舗数は180店舗を割り込みそうだ。

すでに2024年1月には名鉄百貨店尾張一宮店閉店が発表されている中で、先日、島根県の一畑百貨店の2024年1月での閉店が発表された。

閉店が発表された当初の報道では、閉店の理由は売上高低下について触れられていたのみだったので、別段珍しくもなかったが、その後の報道では別の要因に触れられるようになった。

来夏に向けて改装を計画したものの、テナントが集まらずに断念したというものである。

“デパートゼロ県”地方の苦境 県内唯一の一畑百貨店が閉店へ | NHK政治マガジン

1998年には今のJR松江駅前に移転。2002年には売り上げが100億円を超え、絶頂を迎えた。

2022年度の売り上げは43億円と、ピーク時の半分以下にまで落ち込んだ。

とあるが、ピーク時の売上高は正確には108億円あったと他の報道では伝えられている。

 

松江の一畑百貨店が2024年1月で閉店へ、島根が全国3カ所目の百貨店空白県に | 財経新聞 (zaikei.co.jp)

一畑百貨店は1958年、地元の一畑電気鉄道が松江市殿町で開業し、1998年に松江店をJR松江駅前の現在地に移転した。売り場面積は約1万4,000平方メートルで、中心市街地の商業が停滞する中、2001年度にピークの年商108億円を達成するなど2000年代は毎年のように年商100億円以上を売り上げ、地域の経済を支えてきた。

 

我が国のバブル崩壊が91年、山一證券・北海道拓殖銀行などの倒産が起きた金融危機が97年で、当時の記憶ではこの金融危機から急速に不況感が強まった。ハッキリ言えば、91年から96年まではバブルははじけたものの、当方も含めたマス層は幾分不況感は感じるようになってきたものの、さほど強い不況感は感じてはいなかった。一畑百貨店の例でいえば、JR松江駅前の移転があったとはいえ、売上高のピークは2001年なのである。

この推移を見てもバブル崩壊と言っても即座に消費が低迷したわけではないということがわかるだろう。物事には何事につけてもタイムラグがあるということである。

 

この2つの報道では

電気代を含む光熱費の高騰とテナント誘致の失敗について触れている。

まずNHKは

特に電気代の高騰が、厳しい経営環境にとどめを刺した。電気代の高騰分だけで、年間4000万円以上のコストが増加する見込みだという。

と触れており、そして

百貨店は黒字への転換を目指し、水面下でリニューアルオープンを模索した。およそ120社と交渉し、テナントの誘致を進めたが、結果は出なかった。

としている。

また財経新聞でも

出雲市や浜田市にあった他店舗を閉め、2024年を目標に松江店をリニューアルする計画だったが、テナントが集まらずに断念した。

としている。

 

電気代については、すでに各家庭でも高騰を実感しているだろうが、我々の家庭の電気代高騰はせいぜい数千円から数万円程度だが、商業・産業となると数百万円、数千万円、数億円単位に跳ね上がってしまう。蛇足だが、繊維関係の製造加工場も同様で小規模な工場でも数百万円、中規模・大規模工場なら数千万円・数億円単位で光熱費が跳ね上がっている。商業施設ならずとも工場でも倒産・廃業が出て来ても全くおかしくない。

次にテナント不足だが、2015年以降、これまで百貨店をメイン販路としてきたオンワードやワールドといった大手総合アパレル各社は経営再建のために不採算店舗の撤退を積極的にやり続けてきた。2020年のコロナ禍によってこの動きが加速したことはいうまでもないが、それ以降、一畑百貨店に限らず郊外ショッピングセンターや都心ファッションビルなどでもテナントが歯抜けのままで営業している商業施設が珍しくなくなった。都心で言えば難波マルイやヨドバシ梅田リンクスなんかはその典型だろう。

そして、業界では「このままではテナントが集まらずに閉鎖される商業施設もいずれ出てくるのではないか」と言われていたが、一畑百貨店がそれだったといえ、今後同様に閉店する他の地方・郊外百貨店や地方・郊外の商業施設は続出することになるだろう。

一畑百貨店のフロアガイドを見てみると

一畑百貨店-Website » フロアガイド (ichibata.co.jp)

2階はヤング婦人服、3階はミセス&大きいサイズ、4階はメンズとなっている。代表的なブランドでいうと、2階はアンタイトル、インディヴィ、マックレガー、ビースリー、23区・Jプレスなどとなっており、3階はレリアン、スキャパ、4階はタケオキクチ、ラコステ、マックレガー、マンシングウェアなどとなっている。ブランドラインナップを見ると、ヤング婦人服のはずの2階だが、マックレガーやセンソユニコ、ビースリーなどはミセスブランドなのですでに「ヤング」の看板は有名無実化していたといえる。

恐らくはこの2階、3階、4階にテナントがとりわけ集まりにくかったのではないかと当方は推測している。

 

当方は島根県は小学生の時に出雲大社に行ったくらいで土地勘が無いのだが、一畑百貨店の衰退は上の2点だけではないのではないかと思えてくる。理由はグーグルマップを見ていて気が付いたことなのだが、JR松江駅近くにイオンモール(正式名称はイオン松江ショッピングセンター)がある。説明を読んでみると松江駅から徒歩5分から7分(書いている人によって異なる)とある。

ここが現在の形に落ち着いたのは2011年のことなので、一畑百貨店の衰退が2010年代から始まったと報道されているので、ちょうど平仄が合う。駅前の一畑百貨店は、駅近のイオンモールに破れたといえるのではないか。

一畑百貨店の売り場面積は1万4000平方メートルだが、イオン松江ショッピングセンターの売り場面積は3万平方メートルあり、倍以上ある。出店テナントはジーユー、グローバルワーク、ハニーズ、ABCマートなどとなっており、一畑に入店しているミセス&オッサン向けブランドよりもはるかに集客力がある。

さらにいえば、電車利用客も徒歩5分くらいなら通いやすい距離だし、駐車場は2043台が駐車できる。となると、自動車客も吸収できる。昔ながらの百貨店は駐車場が狭いので到底太刀打ちできない。

ブランドラインナップで比較しても、駐車場を含めたアクセスを比較しても、よほど百貨店に変なこだわりのある人以外はイオン松江ショッピングセンターに行く方を選ぶだろう。

電車移動が標準化されている都心でも駅前と駅近5分ではさして差はない。さらに自動車移動が標準化している地方においては2043台の駐車場が完備されているショッピングセンターが選ばれることは極めて当然といえる。

イオン松江ショッピングセンターは電車客も自動車客も両方を吸収できていると考えられる。

 

今回の一畑百貨店閉店の報道ではやたらと「百貨店ゼロ」が強調されるが、問題はそこではなく、老舗でも地方小型百貨店では

1、出店テナントが集まらなくなった

2、駅近で大型駐車場完備の大型ショッピングセンターに対抗できない

という2点の問題が顕在化したといえるのではないだろうか。

そして、百貨店がゼロになっても松江市民にはイオン松江ショッピングセンターがあるからほとんど困らないだろう。

今後、この2点によって閉店に追い込まれる地方・郊外百貨店は続出すると当方は見ており、一畑百貨店はその先駆けとなったといえるのかもしれないなどと思った今日この頃。

 

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 comment
  • キムゴンウ より: 2023/06/26(月) 11:49 AM

    地方百貨店は贈答品で持っていたんでしょうね
    私の知り合いの熊本県民は
    店舗の包装紙ではなく 鶴屋の包装紙でラッピングしてもらい
    持参すると話していました
    一畑に関しては そもそものマーケットの小ささに加え
    集客力の無いブランドばかりで残念としか良いようないですね
    地方で23区を着る時あるのかな
    双日インフィニティの某は 一畑だからだせてると思いますが

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/06/26(月) 1:53 PM

    実はものすごい閉店理由だと思いますよ>テナント埋まらず

    今まではまいどな分析で「百貨店離れ」つまり消費者サイドの
    視点のみで分析していればよかった

    しかし、当事者が語ったのは「売り物がそろわない」
    つまり供給サイドの話です

    ここ20年で商品の単価は下がったのに、スーパーはもちろん
    従来型の百貨店の売場構成ではモノが売れない

    安い服を売るにも
    広い売場かウニクロのようにフロア貸切でないといけない

    一畑が生き残る路線は、フロア貸しでウニクロなりに
    入ってもらう以外なかったと思われます

    しかし既存テナントとの関係でそれは不可能です

    やすもの買いのビンボー人は賃料が一番安くて不便な
    いちばん上のフロアにどうぞ

    だったのが、やすものの大衆化に伴い

    やすものが特等フロアに来て金持ちもビンボー人も
    みんながやすものを買う

    時代ですから、たまったものではありません

    この極端な変化についていけない人間がいても
    おかしくありません。そのぐらいの激変です

  • 読者 より: 2023/06/26(月) 1:59 PM

    昨年トロッコ列車乗りに島根行った時、国鉄カラーの特急を撮るために件のイオンにクルマ止めましたw
    流石に駅近なので無料ではなかったです。レシート登録する必要があってめんどくさかった。
    あまりキレイではないボロイオンな印象で百貨店でも戦えたというよりはマーケット小さくイオンですら
    投資が厳しいのかな?という印象もちました。
    ちょうどトレーラー?だったか訪問販売によるロイズの期間限定販売をこのイオンでやっていて、
    百貨店亡き後はこういうの増えるんだろうなぁと今は思う。
    駅が小さいながらも高架で近代的。マスコミが言うコンパクトシティってこんなんだろなという感じ。
    実際にはさびた感じであまり魅力は感じないしうまくいかんだろな思った。
    周りの開発が難しいんですな現実には。

  • とおりすがりのオッサン より: 2023/06/27(火) 11:12 AM

    ちかごろの高級車は全幅1900mm、全長5000mmとかレベルのが多くなってて都心のデパートとかだと停めにくいから、都心近郊でも地方郊外のイオンのように広大な駐車場完備で富裕層向けの新宿伊勢丹みたいなデパート作ったらワンチャン勝機がないかしらん?土地の取得費用が高すぎて無理かな?超高速で出入りできる立体駐車場とかでも良いんだろうけど。

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