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南充浩 オフィシャルブログ

衣類の国内生産数量はゼロにはならないが増加することはないという話

2023年6月21日 製造加工業 1

2022年の衣類の国内供給量が発表された。

22年の衣類国内供給量 輸入が膨らみ前年比2.5%増 輸入浸透率は98.5%へ上昇 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

22年の衣類国内供給量は前年比2.5%増だった。日本繊維輸入組合が公表した「日本のアパレル市場と輸入品概況2023」によると、数量は37億2770万点。コロナ禍の影響で落ち込んだ20年と比較すると、21、22年は回復基調だったが、19年実績(39億8432万点)には届いていない。

とのことである。

 

長期間の実店舗の営業停止を経験した2020年に比べると、断続的に自粛期間はあったものの通常営業が続いた21年、22年の衣料品需要は増えるのは当然で、22年は特に秋以降は完全に営業自粛は無くなったので21年よりも増えるのは当たり前といえる。

 

輸入は増えたが、国内生産は2.8%減の6690万点となった。輸入品の割合(輸入浸透率)は前年より0.2ポイント高い98.5%。比較可能な00年以降で最も高い割合となった。

 

とあり、国内生産はさらに減少し続けている。

一方で輸出については比率は小さいが増えている。

 

一方、輸出は9.9%増の954万点。衣類供給量全体に占める割合はわずかだが、08年以来の900万点台となった。

 

とのことで、12年・13年と大幅に輸出は減少しているものの、18年からは大幅に増え続け、コロナ禍の20年を除けば増え続けており、22年はついに900万点台に到達したというわけである。これは18年頃からとみに「国内アパレルは海外進出すべき」という論調が活発になったのと軌を一にするしており、実際に海外への販売が増えたということになるだろう。恐らくは23年は1000万点を越えるのではないかと思っている。

 

さて、国内生産量の減少だが、当方はこれを食い止める手立ては無いと考えている。国内生産量が減少し続けているのは縫製工場が減少し続けているからにほかならない。

今後、国内の縫製工場が増えることは無い。わざわざ新規で縫製工場を立ち上げようという人はゼロではないにせよ、極少数にとどまっており、それよりも経営者と工員の高齢化によって廃業する縫製工場の方が多いからである。

最近では、苦境に陥った縫製工場を買収する企業も現れてはいるが、全ての縫製工場が買い取られるわけでもないし、そういう買い取った企業でも新たに縫製工場を作ろうという気は全く無い。

となると、今後縫製工場は減少し続けることになる。

 

22年から強まった円安傾向とコロナ禍によるサプライチェーンの乱れから国内製造回帰が衣料品に限らず起きているが、衣料品の場合は、縫製工場の軒数が減少し続けてきたところに国内回帰しているわけだから、当然縫製スペースの取り合いが始まる。22年以降、アパレルやブランドが「国内での縫製スペースが無い」と嘆いているのはそういう事情がある。これは今後も解消されることはないだろう。

 

業界のイシキタカイ系製造大好きな人たちからは「国産衣料を救え」という掛け声が聞こえることがあるが、もう縫製工場が増えることはないから国産衣料が増産される可能性はゼロだといえる。

その一方で国産衣料品がゼロになるかと言われると、それもないだろうといえる。どんなに減少しても縫製工場の軒数はゼロにはならないからだ。現に買い取られて再スタートを切った縫製工場もあるし、昔に比べると数は減ったが縫製工場を所有しているアパレル企業もある。その辺りは存続し続けるだろうから、国内縫製工場がゼロになることはない。そのため、減少し続けるだろうが国内生産衣類もゼロにはならない。

 

2012年には1億5020万点あった国内生産量だが、2022年には6690万点にまで減っている。10年間で半減以下になった。17年に1億点を割り込むとさらに減り続け、21年は14・9%減と大幅に落ち込み6880万点となった。これは20年のコロナ禍によるものだと考えられ、それまでから減少していた縫製工場数だが、21年・22年ではさらに多くの廃業・倒産が見られた。23年の生産量は良くて横ばい、普通に考えればさらに減少するのではないだろうか。

 

海外の地域別を見てみると

国内供給量は輸入の増加によって押し上げられた。輸入は2.6%増で、2年連続の増加。ただし、最大の輸入相手国である中国からの輸入は1%減だった。〝ゼロコロナ政策〟が影響したと見られる。ASEAN(東南アジア諸国連合)は13.8%増、バングラデシュは5.1%増で、全体をけん引した。

ASEANのうちベトナムは14.7%増と大幅に伸ばした。ミャンマーは62.3%増。軍事クーデター以降、「人権の観点で欧米からの受注が減少し、空いた生産スペースに日本のオーダーが入った」(繊維輸入関係者)ことで、日本向けの生産が増えたと見られる。

とのことで、中国が微減、ASEANとバングラデシュは増加、ASEANの中でもベトナムとミャンマーが大幅増という状態で、中国の微減については「ゼロコロナ政策の弊害」と分析しているが、それだけではないだろう。日本のマスゴミマスコミはやたらと中国に甘いのが昔からの習性だが、中国の国家体制そのもののリスクと強く認識した企業やブランドが増えているということだろう。また中国の台湾進攻などの軍事的リスクも考慮されているといえる。

分野は異なるが、複合機分野ではキヤノン、富士フイルムビジネスイノベーション、リコー、京セラ、東芝、コニカミノルタなどが中国生産からの撤退をすでに発表しており、繊維・衣料品もその傾向が波及し始めていると考えた方が良いだろう。

【2023年最新】複合機市場の中国撤退の真相を徹底考察!|複合機リースの格安NO1|株式会社じむや (zimu-ya.com)

いまだに中国大好きマンが多い繊維・衣料品の分野でさえ「今から中国生産にさらに注力します」なんていう企業は皆無なので、23年以降も中国からの輸入は減ると当方は見ている。

 

衣類の国内生産について今後、増加に転じることはないから、国内生産回帰した各アパレルはあまり自社の都合ばかりを押し付けずに丁寧な対応をした方が良いのではないかと思うが。相変わらず、70年代・80年代と同じように縫製工場に対して接しているアパレル企業も少なくないと聞いているが時代錯誤も甚だしい。

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 comment
  • キムゴンウ より: 2023/06/21(水) 11:48 AM

    ということは 服を作ることができる人は
    稀少な存在になるから 仕事としていいのかしらね?
    マツオカコーポレーションみたいに東証企業もあるので
    縫製の仕事は激減しつつ残るのでしょうね
    ところで デザイナーばかり輩出する
    デザイン学校は誰に服を作ってもらってるのかな?

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