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南充浩 オフィシャルブログ

似て非なる能力

2014年9月22日 未分類 0

 昔から「好きこそ物の上手なれ」というが、ファッションにはこれが微妙に当てはまらないように感じる。
ファッションが好きだからファッションビジネスが上手いとは限らないし、ファッションが好きだから作る物の感度が良いとも限らない。

業界の某大先達が「(自分が着用する意味で)ファッションが好きというのと、ファッションビジネスが好きというのは似て非なる物」とおっしゃったことがあるが、まことにその通りではないかと思う。

 国内の産地製造業者も代替わりが増えた。
20代~40代半ばくらいの2代目、3代目、4代目が経営陣に加わっていることが多い。

10数年前に産地製造業者を取材で回り始めたころ、一様にあか抜けない雰囲気があった。
今の50代、60代、70代の経営陣である。

一方、代替わりした現在の若き経営陣は、ずいぶんとあか抜けた人が増えた印象がある。
容姿も良いし、ファッションセンスも悪くない。
中にはセレクトショップの販売員かと見間違うような方もおられる。

そういう彼らは、自社の生地や加工技術を生かしてオリジナルの製品を作り始めている。
例えばストールだったり、シャツだったり、小物雑貨だったり、ジーンズだったりという具合だ。

通常、オシャレな人が企画デザインすればオシャレな商品が出来上がると思いがちだが、産地製造業者に限ってはそれは少数派である。

作る製品がなんだか野暮ったい。
また展示会や販売会を行った時のディスプレイが地方の土産物屋にしか見えない。
商品自体は悪くないが、そのパッケージや下げ札のデザインがイケてない。

などなどということが頻繁に見受けられる。

我々外野の人間にすれば、自分の着用する物を選ぶセンスがあるのだから、それと同じ感覚で自社製品を企画すれば良いと思うのだが違うらしい。
ディスプレイにしたって、彼らが愛用するセレクトショップやSPAブランドを思い浮かべながら考えれば、ある程度の水準に達すると思うのだが、これも違うらしい。

かと思えば逆もある。
失礼ながらご本人はあか抜けないが、トレンドに応じた企画を次々と的中させる経営者やデザイナーも頻繁に見かける。

以前、ある中堅規模の量販店向けアパレルの社長と比較的懇意にさせていただいていた。
もうその会社では定年を迎えられている。

この社長さん、お世辞にもオシャレとは呼べない。
背も高くないし、小太りだし、髪もない。顔の造作も良くない。着用されている洋服も全然かっこよくない。
もしかしたら値段は高いのかもしれないが、見た感じでは、洋服の青山の投げ売りワゴンセール品のように見える。
にもかかわらず、企画部署から上がってきたたくさんのサンプルの中から彼がピックアップした商品がかなりの高確率でヒットする。

傍から見ていると、これだけ的確にトレンド分析できるのだったら、もう少しご自分の洋服を選ぶことにその能力を使えば良いのにとよく思ったものだ。

こういう事例を見るにつけても「好きこそ物の上手」ばかりではないということを感じる。

そのあたりのギャップが面白くもあるのだが、そこを合致させることがファッションビジネスのもっとも難しい部分なのだろう。

ことほど左様に、着用が好きということと、ファッションビジネスを成功させるということは異なる資質だといえる。

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