以心伝心はありえない
2014年9月18日 未分類 0
産地製造業者が一念発起して製品ブランドを作るという試みが珍しいものではなくなった。
かくいう筆者も何度かそういうミーティングに参加させていただいたことがある。
以前にも書いたが、デザイン経験のない社長や社長の親族が「デザイナー=わし」とやるのは一番の悪手である。
まれに、未経験ながら外部からの評価を参考に改良を繰り返し、売れる商品にまで昇華させる社長もおられるがこれは例外と考えた方が良いだろう。
次によくある失敗は、デザイナーに依頼したは良いが、具体的な指示や依頼を何一つ与えないという場合である。
実はこれはけっこうよくある。
もしかしたら「デザイナー=わし」以上にあるかもしれない。
具体的にいうと、「そこそこ有名なデザイナー(注:オリジナルで自身のブランドを展開しており、それがそこそこ有名)にデザインを依頼しておいたから大丈夫」という場合が何度かあった。
よくよく話を聞いてみると指示した内容は「ジャケット5型をお願いします」というような内容だった。
もちろん、使用する生地は自社製造の物がメインとなることだけは伝えてある。
しかし、こうした場合、デザイナーは自分の好きなデザインを行う。
なぜなら具体的な指示が何一つ無いからだ。
テイストは?
ブランドコンセプトは?
販売価格は?
ターゲット層は?
他の商品はどんなデザインになるのか?
想定する売り場はどこか?
などなどが皆目わからない。
もしかしたら依頼した側にもわかっていないのかもしれない。
しかし、商品のデザインというのはこれらがあって初めて成り立つものであって、デザインありきではない。
さらに言えば、商品の目的は「売れること」であるから、売れるためには最低でも先ほど挙げたような事案は考慮される必要がある。
デザインさえ良ければそれで良いというのなら、それは芸術作品か趣味の創作である。
で、製造業者も別に芸術作品を作ってほしいわけではないから、売り場で売れないと意気消沈してしまう。
こんなはずではなかった
と。
そして、向かう先はデザイナー批判ないしデザイン批判である。
いわく「デザイナーが良くなかった」
いわく「売れるデザインではなかった」
いわく「わしがデザインした方がマシ」
いわく「デザイナーは信用できない」
となる。
いやいや、申し訳ないがこのような場合、責任は100%依頼した側にある。
何一つ具体的な指示を出せなかった側が悪い。
そして、そのデザイナーに依頼すると決めたのも製造業者である。
別に誰かから強制されたわけでもない。
このような「丸投げ」は論外である。
次に多いのは、完成商品のイメージを言葉のみで伝える行為である。
ディフォルメすると、たとえばこうなる。
「中肉のデニム生地を使って、ちょっと細めのシルエットのパンツにしてもらいたい。雰囲気はフェミニンな感じで」
という具合である。
これでどんな商品か具体像がイメージできる人がいるだろうか。
そして、こういう場合は発注側と受け手が想像する商品像は全く異なる。
で、サンプルが上がってくると依頼側のイメージとは異なるため、何度も修正となる。
修正の仕方も具体的ではないから、そのうちにお互いがやる気を失う。
例えば
「もう少し股上浅めで」
という修正依頼である。
股上を浅くすることは分かるが、これではあと何センチ、何ミリ浅くするのかまったくわからない。
依頼側は1センチとイメージしているかもしれないが、デザイナーは2・5センチをイメージしているかもしれない。
こういう場合は「1センチ浅くしてほしい」と伝えないといけない。
これを防ぐには、写真や画像、スケッチなどを同時に示すのがベストであろう。
筆者は以前、雑誌誌面の編集業務に携わったことがある。
誌面レイアウトはデザイナーが行う。
業務が始まった最初は勝手がわからず言葉だけで伝えようとして、大いに失敗した。
まったく恥ずかしい限りである。
そこで下手くそながら手製のラフスケッチを作り、イメージに近い他誌の誌面も一緒に渡して、アレンジをお願いした。
そうするとまずまずスムーズに流れるようになった。
産地製造業者も同じである。
自身のイメージに近い他社製品の写真や画像、それからラフスケッチなどを一緒に渡してイメージを説明すべきである。
ぜひ、自社製品開発に生かしてもらいたい。
なんてことを書いたが、実は「丸投げ」は産地製造業者だけに限らない。
有名ブランドや有名SPA、有名セレクトショップもときどきOEM/ODM業者に丸投げをする。
その場合は「とにかく、売れる商品を作ってください」というすごく無責任かつ、どこか哲学的設問のニオイがする言葉で行われる。
「売れる商品」がわかっていれば業界全体がもっと潤っているし、OEM/ODM業者は自社ブランドを立ち上げて大々的に展開している。
何よりも「売れる商品」を考えるのはブランド側の仕事である。
そんなわけで業界は今日も平常運行である。