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南充浩 オフィシャルブログ

知名度の低い商品やブランドが広告宣伝費を抑制することは逆効果

2023年6月2日 新商品発表 1

先日、イトーヨーカドーが肌着・靴下などの実用衣料以外の自社アパレルから撤退するという報道があった。ハッキリ言って、大手総合スーパー(GMS)のカジュアル服やオシャレ着はほぼほぼ必要とされていないから英断または順当な決断だと思う。

たしかに生地雅之さんが言われるように、GMSにもユニクロやジーユーに負けず劣らず、安くて良い服「も」ある。当方もたまにイトーヨーカドーや西友のPB衣料品で掘り出し物を見つけて買うこともある。

とはいえ、そんなことをするのはよほどの物好きか、もしくは数少ないGMS服愛好家くらいだろう。

そんな中、衣料品を続行しようとするなら、いくつかの方法しか考えられないわけでその数少ない方法の1つが「さらなる低価格化」である。

物には様々な価値があるが、「安い」ということも消費者にとっては大きな価値がある。さらに言うなら、今更GMSのPB衣料品が高感度化で高価格化したところで誰にも見向きもされない。イトーヨーカドーが超一流デザイナーとコラボした「セットプルミエ」が全く売れずにさっさと廃止になったことを見れば一目瞭然である。

 

短いがこんな発表記事があった。

イオン、低価格衣料店 30年までに240店 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

イオンが低価格の衣料品専門店を展開する。シニアや若者向けなど6種類の店舗を立ち上げ、2023年から30年までに240店を出す。ファーストリテイリングの「ユニクロ」より割安な価格帯にする。富裕層の消費で百貨店が復活する一方で割安な商品の需要は根強い。地方を中心に衣料品の売り場が縮小し、消費も二極化する中で節約志向の顧客を取り込む。

自社プライベートブランド(PB)の「トップバリュ」を活用し、専門店を始める。顧客層に応じて6種類に分け、それぞれブランド名を付けて展開する。24年2月までに傘下のイオンリテールが運営する首都圏の3店舗で始め、30年に同社の総合スーパーの8割にあたる240店に広げる。

イオンは広告宣伝費の抑制や、中国や東南アジアの生産委託工場からの全量買い取りなどで価格を抑える。代表的な機能性肌着の場合、ユニクロの「AIRism(エアリズム)」に比べ2割安く、しまむらの製品より1%程度価格を下げる。

 

とのことだ。この記事だけでは短すぎて詳細は不明である。

しかし、現在のGMSが採り得る施策の1つとしては「さらなる低価格化」はありだろうと当方は思う。まあ、業界内の「高価格路線ガー」はうるさいことだろうが。

ただ、後半の詳細らしき部分にはかなり疑問を感じる点が多い。

まず「代表的な機能性肌着の場合、しまむらの製品より1%程度価格を下げる」という点である。仮にしまむらの機能性肌着(吸水速乾云々とか保温云々のこと)が定価990円だったとして、1%安いということは9・9円安いということになるから、恐らく店頭販売価格は980円になるだろう。

990円と980円の差で消費者はそこまで敏感に反応するだろうか?

当方は「しまむらのブランド力」も含めてその程度の価格差ではマス層は全く反応しないと思う。

 

次に価格を抑制する手法である。

記事ではかなり手短に(手短すぎて伝わらないが)まとめられている。「イオンは広告宣伝費の抑制や、中国や東南アジアの生産委託工場からの全量買い取りなどで価格を抑える」とある。

まず、海外の工場から全量買い取りという点だが、生産数量がさっぱりわからないものの、最低でも1型何万枚という単位だろうから、これを全量買い取れば、さらなるコスト削減は可能になる。原則的に。

委託とか消化仕入れの場合、仕入れ原価は買い取りに比べて跳ね上がる。そして何万枚単位で生産することで製造原価も引き下げることができる。

余談だが、イキったブランドで「原価率50%」とか謳っているところがあるが、例えば1型10枚程度しか生産しないのであれば製造原価は跳ね上がるから余裕で「原価率(製造原価率なのか仕入れ原価率なのかさっぱりわからない書き方だが)50%」は達成できる。

詳細は不明ながら原理的にはこれで原価率はそこそこ低減できるはずである。

 

当方が疑問を感じるのが「宣伝広告費の抑制」という点である。例えば、ユニクロ、しまむら、ジーユーなどの著名ブランドであれば、新製品や新ブランドについて広告宣伝する必要性は低い。なぜなら、自ら宣伝しなくても消費者側がわざわざググって調べに来てくれるからである。

しかし、イオンは逆である。イオンを含めたGMSがどれほど安くて良い衣料品を手掛けていたとしても多くの消費者はそれを知らないし、そもそもGMSの衣料品に興味を持っていない。となると、いくら新商品を投入したところで、消費者には知られない。知られていない物は存在しないのも同然である。

知られていないからイオンの新ブランドなんて「わざわざ」検索して調べてくれる消費者など存在しない。

存在すら知られていないならそんな物は売れない。

だから、イオンの場合は逆に宣伝広告費を使う必要がある。ここを考え違いしているのではないか。

 

では当方ならどのような施策を考えるかだが、ユニクロ、ジーユー、しまむら、ワークマンあたりを題材にして「こんなに安くて良い服がありますよ~」という発信を続けているインフルエンサーから効果がありそうな人を何人かピックアップして契約する。半年や1年で終わってしまうと定着しないので、例えば5年くらいの中長期的な契約を結ぶ。

ただ、インフルエンサーの人選は難しい。イオンに限らず大手企業にはよくあることだが「フォロワー〇〇万人のインフルエンサーと契約しました」と言っても、まるで物が売れない場合が珍しくない。

決め手は「フォロワー〇〇万人」という点ではないということだ。フォロワー数の多さだけに目を奪われるアホな大手企業がこの世には多数存在している。

この辺りは発信方法とかその人のパーソナリティーがイオンの衣料品に合致するかどうかを見極める必要があるが、この方法は恐らくはマニュアル化できないため、担当者の鑑識眼を養うほかない。

ユニクロ、しまむら、ジーユー、ワークマンあたりが「安くて良い服」としてマス層に認知定着するに至った理由の1つにその手の数多いるインフルエンサーが長年に渡って発信し続けたことも大きいと当方は見ている。

とすると、イオンが真に更なる低価格ブランドを認知定着させたいなら、それと同じことをやるべきである。

 

多額の費用が長年に渡って必要になるから決断することはかなり難しいだろうと思う。当方は一円も出さないから気楽に提案できるというわけである。

まあ、もしこの提案が気に入ったのならアイデア料は要らないからイオンはやってみてはどうだろうか?

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2023/06/02(金) 11:21 AM

    「顧客層に応じて6種類に分け、それぞれブランド名を付けて展開する。」ってところから地雷臭が漂ってくる気がしますね。老若男女を1ブランドで相手にしているユニクロ、しまむらとは逆張り戦略なのかもしれませんが、知名度も注目度も無いのにブランド分散させたら勝機は皆無なんじゃないんすかねぇ?

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