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南充浩 オフィシャルブログ

美点と欠点は同じという話

2023年5月30日 考察 0

「海外の人は高い物を買う」とか「海外の人は安い物を買わない」とか、そんな言説が繊維・アパレル業界やイキりコンサル業界には流布しているように感じる。

それを信じて繊維・アパレル業者は高付加価値ガー製品を海外に、そして海外実績を持って舶来コンプレックスの多い日本市場で売ろうとすることが多いのだが、当方はそもそもその言説に疑問しか感じていない。

2009年に国内でファストファッションブームが起き、その際、上陸間もないH&M、フォーエバー21が大いに注目を集め、今では信じられないが入店するために長い行列ができた。

ZARAはというと、そのはるか前の97年にビギとの合弁会社設立によって日本に上陸していたが鳴かず飛ばずが続いており、2005年に合弁解消をして独資になってからファストファッションブームに乗れたというのが史実である。

 

で、外資ファストファッションはいずれも欧米で設立されている。ZARAはスペイン、H&Mはスウェーデン、そこから企業規模がグッと落ちてフォーエバー21はアメリカである。世界初のSPA企業となり低価格化の先鞭をつけたGAPもアメリカで設立されている。

ということは、欧米は「安い服」を強く求める需要があったということであり、その需要も少数派ではなく多数派からあったということになる。

そうでなければ、これらの低価格ブランドは大企業にはなっていないからだ。

需要がないところに供給は開始されないし、需要量が少なければ供給側は規模拡大できない。

ちなみに欧米人と思われるインバウンド客がユニクロの790円に値下げされた服に殺到しているのを何度も当方は見ている。

 

 

イキリコンサルや大手メディアの海外情報はポジショントークやイデオロギー色が強いものが多いため、あまり真剣には見ていない。せいぜい流す程度である。

当方はテレビをあまり見ないのでYouTubeを見ることが多いのだが、いくつかあるお気に入りのチャンネルの中で欧米経済については「モハPチャンネル」を強く推している。

このモハPとは一体何を意味するのか当方にはさっぱりわからない。欧米各国の経済状態を手短にそれでいてあまり偏りなくリアルに伝えてくれている。イデオロギー的には財政健全化ではないかと感じられる。

そのモハPチャンネルはこのところ、イギリス社会の不景気について伝えることが多いのだが、その中で興味深かったのが2本ある。

まず、これである。

 

高インフレによる不景気が続くイギリスで「現地版の100均」が絶好調に売れているという話題である。毎回このチャンネルでイギリスの話題の際には触れられているのだが、イギリスのインフレ率は10%なのに対して賃金上昇率は5%程度しかないという。従って、我が国どころではない収入不足による消費低迷が起きている。

結局のところ、物価上昇率に給与上昇率が追い付かなければ収入は減少するわけだから、さしてこだわりの無い商品についてはできるだけ安く済ませたいと思うことは人類共通である。それはイギリス人も変わらない。

ただ、このチャンネルで言われているように商品の出来具合は日本の100均の方がはるかに上である。以前にもアメリカの100均が話題になったことがあったが、アメリカの100均も商品の出来が悪かった。掲載されていた画像を見ると、昭和50年代の田舎の小間物屋みたいなチープな印象だった。

商品の品質だけではなく、パッケージや陳列、店舗の内装などは日本の100均が格段に上である。

 

日本企業の美点であり欠点であるといえる。

100均大手にしろ、ユニクロ&ジーユーにしろ、サイゼリヤにしろ、低価格でありながらそこそこのクオリティとパッケージや見映えの良さが日本企業の美点である。しかし、この美点は「わざわざ高い物を買う必要が無い」という消費行動を取らせてしまうため、欠点ともなっている。何事においても美点と欠点は同じ物なのである。

イギリスにしろ、アメリカにしろ100均は安かろう悪かろうダサかろうなので、ちゃんとした物が欲しければそこそこ高い物を買う必要があるということになる。海外で高い物が売れる、売れる可能性が高いというのは、そういうことだといえる。

 

このモハPチャンネルでもう1本イギリスについて興味深いのがこの動画である。

 

高インフレ率と伸び悩む収入状率によって、イギリスのパブがどんどん閉鎖に追い込まれているという。これについてはコロナ禍の需要減で日本も飲食店の閉店ラッシュが相次いだため、状況的には想像しやすい。

で、この動画で興味深いのが、結末あたりの締めの部分なのだが、イギリスのパブというのは何十年、何百年前から続いている物が多かったという点なのだが、その理由について「どの店も同じ物を淡々と売り続けてきた」としている。一方日本の飲食店は「期間限定メニューとか新メニューを定期的に差し込むことで工夫を凝らしている」としている。

しかし、「逆にイギリスのパブ各店(パブに限らず大衆向け飲食店は)は工夫せずに存続し続けられてきたので生産性が高いともいえ、日本の飲食店は工夫を凝らすがゆえに生産性が低いともいえる」と締めくくっている。

いろいろと工夫を凝らすことは、思考している時間も含めるとそれだけ手間暇がかかっているということになり、同じだけの売上高を獲得するにしても生産性は必ず低くなる。何も工夫せずに売れれば生産性は高くなるというわけであり、極めて当たり前の結論だといえる。

日本の美点が欠点となり、高い物が売れにくい社会となっているが、逆にイギリスの飲食店は工夫を凝らさないため不景気のあおりを食らって閉店が続いているともいえる。これまでのイギリスの美点もまた欠点と化しているわけである。

つくづくこの世には「無欠の存在はいない」ということを改めて理解させられる事例である。

 

 

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