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南充浩 オフィシャルブログ

「奇跡」はめったに起きないから期待するのは無駄だという話

2023年5月23日 決算 2

つい先日、繊維業界紙面で某国内靴下工場がホールガーメントを60台揃えたという記事があった。これからさらに40台を追加して合計100台体制になるとのことだが、今のこのご時世にここまで多額の設備投資をするのは凄まじい話である。

もっとも、業界関係者によると、ある大手(ユニクロとかじゃないよw)からの専属的な受注があるため、設備投資が可能なのだという。水商売的にいえば「太い客」を掴んでいるということになる。その背景を知れば、この多額の設備投資も納得できる。

だが、業界関係者によると、そもそもこの工場がホールガーメントを揃え始めたきっかけというのは、社長が何千万円の宝くじに当たったことだったという。

国内工場や国内の古いアパレル企業の経営者は、まとまった金を持つとだいたい外車を買う。産地に行くと赤字工場の経営者が何故だかベンツとかポルシェとか稀にマセラッティとかに乗っていることが多々ある。

まあ、そういう悪癖を持った経営者が多いのだが、この経営者は外車に使うのではなくあぶく銭だからホールガーメントを買ったというのである。この噂が事実なら赤字なのにマセラッティに乗っている工場経営者よりははるかに好感が持てる。

 

それはさておき。

 

まずきっかけは宝くじとのことだが、手の届く範囲の人間で多額の宝くじに当たったという人間は見たことがない。亡父も毎年買っていたがせいぜい1万円くらいしか当たらず、その1万円は翌日にはパチンコ屋と居酒屋で消えていた。

年末ジャンボ宝くじの1等当選確率はたしか180万分の1くらいだと聞いたことがある。めちゃくちゃに確立が低い。だから当方はアホらしいので買わない。当たる確率の方が少ないからだ。一方、宝くじを買い続ける人は「買わなければ当たらない」と言う。それはその通りだが、当方の運はさほど強くないから当たる気がしないので買わない。もっと確率が高ければ買うこともあるだろう。

だが、買い続ける人は180万分の1に賭けているわけで、それを毎年繰り返しているわけだが、何年間買い続けるのかという問題もある。

ある時に「何十年買ってきたけど当たる気がしないから止める」という人もいれば、逆に「何十年も買ってきた労力と合計金額が無駄になるから命尽きるまで買い続ける」という人もいる。

どちらも正解だとは思うが、個人的には後者のような考え方には賛同はできない。損切りは速やかに行うべきである。

 

人間というのはろくでもない生き物なので、宝くじに関しては手を出さなかったり損切りできる冷静さを持っていても別の何かには無駄な投資をし、損切りできずにそれをやり続けるということが往々にしてある。決して珍しい話ではない。

この世界にはたまに「奇跡」が起きることはあるが、その確率は180万分の1程度なので、奇跡は当てにせず確率の高い方を常に選ぶ方が失敗は少ない。それでも失敗したときは仕方が無い。しかし奇跡を当てにして投資し続けそして失敗するのは、まるっきりのアホである。

 

先日、楽天が西友を220億円で売却した。21年に西友への出資額を増やしたばかりだったので、1年前の行動は何だったのか?という話になる。

楽天G、西友HD株を220億円で米ファンドKKRに売却発表 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

楽天グループは12日、スーパーを手がける西友ホールディングス(HD)の保有株式全てを、米投資ファンドKKRに220億円で売却すると発表した。5月末にも売却を完了する。KKRの西友HD株の保有比率は議決権ベースで現在の65%から85%に高まる。

楽天は2018年から西友とインターネットスーパー事業を展開。21年3月には西友に20%を出資し、関係を強化していた。

とある。

ここだけを読むと、ネットスーパー失敗だとか楽天の気まぐれだとかそんな風に受け取る人もいる。しかし、実際はそうではない。

楽天は巨額赤字が続いており、たった220億円欲しさに西友も売ってなんとかカネをかき集めているというのが実態である。

少し前の長い記事だがここでご紹介する。

巨額赤字の楽天、これから迫る「借金返済」の大波 | 特集 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)

2月14日に発表した2022年12月期決算は、最終赤字が3728億円と過去最大となった。携帯基地局などの設備投資がかさんだモバイル事業で、4928億円もの営業赤字を計上したことが最大の要因だ。銀行や証券などを除く非金融事業の社債や借入金も、1.7兆円を超えた。

9000億円――。これは今後3年間で償還を迎える社債の合計額だ。

とある。楽天はEC、楽天銀行、楽天証券は好調だがモバイル(携帯電話)事業で巨額の赤字をたたき出し続けている。

そして、今後3年間で約9000億円の社債償還が発生する。

楽天のキャッシュフローは悪化しており、自己資本比率は3・5%にまで低下している。そのため、西友を売ってでもカネを集めているのが実態である。ただし220億円では焼け石に水である。そのため、楽天銀行を上場させた。次は楽天証券も上場させようとしている。それでもまだ9000億円にはとても足りないと言われている。

外野の立場から言えば、携帯電話事業をやめるべきである。

そもそも携帯電話はドコモ、AU、ソフトバンクの大手3社が市場を三等分している。今更そこに新規参入してシェアを拡大できる確率は限りなくゼロだ。奇跡でも起きない限り無理である。

大手3社からシェアを奪えるとすると、通信性能は大手3社並みだが、月額料金はめちゃめちゃ安いというプランを提示するしかない。しかし、そんなプランは無限の予算を持っていないと実現できない。

外野から見ていると楽天モバイルはドブにカネを捨てているとしか思えないが、三木谷氏は「ここでやめたら今までの巨額投資が無駄になる」とでも思っているのだろう。死ぬまで宝くじを買い続ける人と同じ思考に陥っている。

 

まあ、楽天に限らず、どんな大手でもこの手の損切り失敗は多々ある。

国内ではほぼ無敵のファーストリテイリングでさえ、コントワーデコトニエとかプリンセスタムタムとかの不振ブランドをいまだに廃止にする判断ができない。両方とも欧州ブランドなので極度に欧米コンプレックスが強い柳井正氏はやめたくないのだろうと当方は見ている。それに「これまでの努力が無駄になる」とでも思っているのかもしれない。(笑)

 

こういう「拘り」があるから世の中は面白いともいえるのだが、この2社に限らず、「奇跡」頼みをやめられない事業を抱えている繊維・アパレル企業は珍しくない。持続可能な経営を目指すなら損切りは速やかにすべきである。

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2023/05/23(火) 1:10 PM

    ポルシェって新車は8割位は法人登録らしいっすね。
    安値で会社を売り飛ばしちゃった、うちの会社の前社長も、会社は赤字で従業員の給料下げたりしてたのにレクサス(の安いやつ)を買っていて、皆から顰蹙買っていました。ま、その後は10年間は買い替えられずに、ボロくなったレクサスは営業車になりましたがw

    あと、昔いた会社の先輩は1000万単位の宝くじが当たって、マンション買おうとしたら年収が低くて審査が通らなかったという話をしていました。私は昔、ナンバーズ3の同じ番号を買い続けて8万円くらい当たったことがあります(当たるまでにだいたい4万円くらい使っていました)。まぁ、でも宝くじは普通に計算したらぜんぜん割には合わないですねw

  • JAM より: 2023/05/24(水) 8:07 AM

    うちの社長(加工縫製工場)も2000万くらいのベンツ乗ってます。てか家族経営で家族全員外車を買ってます。
    そして会社には出てこずゴルフばっかり行っています。
    売り上げ上げたら社員に還元するとか口では言っているけど、甘い汁を吸っているのは自分達だけなので、そろそろ見切りを付けようかと思ったりしてます。
    靴下工場の社長は素晴らしいですね。そんな社長の下で働きたいです。
    昔はうちの社長も尊敬できる人だったのにな。お金って人を変えるんですね。

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