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南充浩 オフィシャルブログ

反毛(はんもう)で作られた素材の品質が劣化するのは当たり前という話

2023年4月28日 製造加工業 0

「反毛(はんもう)」というリサイクル技術がある。

戦前・戦後直後には結構な軒数の「反毛屋」があったと聞くが、高度経済成長、バブル経済を経てだいぶと減ってしまったと言われている。

それが、近年作られたサステナブルブームによって再注目され始めた感じがする。とは言っても、反毛屋の軒数が増加に転じることはあり得ないだろうが。

 

反毛というのは、不要になった衣料品からボタンやファスナー、ホックなどの副資材を取り除いてから細かく砕いてそれを再び糸に紡いで、その糸で洋服を作るという技法である。糸をそのまま編むセーターに適している技法ではないかと思う。布帛製品を作るためには、その糸で織物を織らないといけないので工程が増えてしまうため、コストメリットが全くない。セーターなら糸からそのまま製品を編めるのでコストメリットが反映されやすい。

 

サステナブルガーな人たちにとっては、理想的なリサイクル方法に思えるのだろうが、欠点もある。

1、まず、反毛から作られた糸は恐ろしく手触りが悪くガサガダである点

2、反毛から作られた製品を再度反毛することは品質がさらに劣化するので物理的に不可能である点

の2点である。

 

以前、反毛で作られたウールニットワンピースをクラファンで売り出したメーカーがあったが、購入者からは「ウールのチクチク感が通常の新品ウールセーターの何倍もあって痒くてたまらなかった」という感想が述べられた。それほどに糸の質は劣化してしまうわけである。

さらに言えば、反毛した製品の素材組成混率は正確には表しにくいという点もデメリットに数えても良いだろう。なぜなら、さまざま衣服を集めてきて砕いて再構成するわけだから、ウール100%の服ばかりを集めて砕くとか、綿100%の服だけを集めて砕く、というやり方をしないと、様々な素材が必然的にごっちゃになってしまうということになる。

現在の衣料品は2者混(2種類の複合素材)・3者混(3種類の複合素材)といった複合素材の方が主流だから、反毛で作られた糸は3種類か4種類の複合素材ということになる上に、例えばポリエステル50%の服もあればポリエステル36%の服もあればポリエステル23%の服もある。それらを砕いて混ぜるので、ポリエステルが使われているところまでは分かったとしても反毛糸にポリエステルが何%含まれているのかは不明になってしまう。

とりわけ、荒れやすい肌の人にとっては、反毛衣料は全く適さない商材だといえる。

そして、元がどれほど高品質で繊細な素材であっても反毛すればガサガサの素材に必ず生まれ変わる。

 

反毛というのは、決して魔法のリサイクル法ではない。

 

月に一度、寄稿してくれているUS君が反毛についてツイートしてくれているので、ここでご紹介したい。

 

 

滑らかな生地を作るには滑らかな糸が必要になるのだが、滑らかな糸を作るためには繊維長の長い繊維が必要になる。

合成繊維は理論上何メートルもの長さの糸を製造することが可能だが、綿・麻・ウール・獣毛(羊毛以外の動物の毛)の天然繊維は1本1本の繊維の長さはせいぜい何センチ単位である。この何センチの繊維を紡いで糸にするのが紡績という工程になる。

天然繊維でも絹だけは例外で、蚕の繭を糸切れさせずにほぐすことができると何百メートルという1本の繊維になる。

綿・麻・ウール・獣毛の高級素材というのは、できるだけ繊維長の長い繊維を集めて紡いだ糸から作られている物になる。

 

もうお分かりだと思うが、反毛するということは生地を細かく砕いて再度糸に紡ぐということになるので、いくら極細の高級ウール素材でも反毛されれば、ガサガサのチクチクに変わってしまうのである。

 

で、話を戻すと、獣毛の中でも高級素材として知られているカシミヤだが、カシミヤだって反毛でリサイクルするとガシガシの糸になる。

これは誰が悪いわけでもなく、反毛という技法なら必然的にそうなるというだけの話で、水素を燃やすと必ず水が生じるのと同じであり、二酸化マンガンに過酸化水素水をかけると必ず酸素が発生するのと同じである。

 

先日「リサイクルカシミヤの生地がカシミヤとは思えないほど硬い」という意味のわからない感想をSNS上で見かけたが、反毛したカシミヤは新品カシミヤと似ても似つかない触感になってしまうのは極めて当たり前の話でしかない。

 

現在、サステナブルな何かを提案し、メディアで採りあげられるのは、ほとんどが、オピニオンリーダーとか活動家とかその類の人が多い。彼らは実際の生地製造や製品製造についてはほとんどが無知な場合が多い。だから工程はもちろんのこと物性についても全く考慮されない意見になりやすい。それをこれまた製造工程に無知なメディアが拡散してマスに広がってしまうという悪循環が起きやすい。

また、業界の川下の人間も川上・川中の製造加工業に無知な場合が多く、技術論の伴わない意見を述べて拡散しがちである。

 

リサイクルを声高に唱える人こそ、製造加工現場を実際に見てある程度の知見を蓄えるべきだろう。

 

 

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