素材と洋服の製造に中間業者が欠かせない理由
2023年4月20日 製造加工業 0
D2Cだかインフルエンサーブランドだかで「中間業者を飛ばしました」というフレーズを金科玉条のごとく振りかざしているケースが多いと感じる。
しかし、基本的には糸・生地・洋服という工程は多段階に分かれているので、全てを直接ブランド側がやり取りしてコントロールすることはほぼ不可能に近い。もちろん、そちらの方面に詳しいスタッフを抱えているブランドもあるが、経験上は業界内でも少数派である。
海外での生産をメインとするところはまだしも、国内生産をメインとするブランドではOEM屋・ODM屋・振り屋のいずれかの関与無しに製品を作ることはかなり難しい。
数年前、某インフルエンサーがオリジナル商品を発売した際「中間業者が1社か2社しか入っていません」という謎の文言を掲げていて、笑いそうになったことがある。
5~7社入っています、というならまだ分からないではない。しかし、中間に入っているのが1社なのか2社なのかは普通の認識能力があれば分かっているだろう。1社なのか2社なのか分からないというのは認識能力がよほど乏しいか、全てが丸投げなのか、のどちらかだろう。
それはさておき。中間業者飛ばしを謳うこの手のインフルエンサーブランドでさえ、最低1社か2社は中間業者が介在しているというのが事実である。
国内生産の場合、ほとんどの部分が分業化しているため、これをまとめるのは1ブランドや担当者だけではかなり難しい。
この辺りをいつもの山本晴邦さんのブログからご紹介する。
相変わらず装甲騎兵ボトムズの各話タイトルみたいな表題である。
紡績メーカー様→ 撚糸や糸加工工場様→ 織りや編み工場様→ 染色整理加工場様→ 二次加工(プリントなど)工場様→ 縫製工場様(場合によっては裁断専門工場様→縫う専門の縫製工場様→仕上げ検品所様)→ 製品加工及び二次加工工場様→ 仕上検品所様→ 納品 というのが最長コースかと思われる。(もちろんこれより手数がかかる場合もある)
とある。
糸から生地、そして製品化されるにはこれほど多くの工程を経ている。
だから、生地になる手前のことは生地屋さんがまとめて企画してくれていたり、服に組み上げていく段取りをOEMメーカーが肩代わりしたりしているのが大半の現実だろう。これによって依頼者側はたくさんの型数をこなすことが可能になっている。
とのことで、多少なりとも生産のことに触れている人間の共通の認識である。
もちろん例外もあるがそちらの方が少数派である。
例えばデニム生地製造だと、カイハラは紡績→ロープ染色→織布→整理加工と一貫生産しているし、クロキはロープ染色から整理加工までを一貫生産している。しかし、国内のデニム生地工場で一貫生産が可能なのはこの2社しかない。だからこちらの方が例外ということになる。
さて、海外生産の場合は多少異なると書いたが、海外にも小規模工場はあるが、日本のブランドが付き合っている海外工場は素材系も縫製系も一貫生産の大型工場が多い。大型工場は内部に振り屋みたいなスタッフを抱えていて、このスタッフがある程度まとめてくれるので、日本側としてはこのスタッフと話を進めるだけで製造が進んで行く。そのため、現地のOEM屋とか振り屋をわざわざ使う必要性があまりない。
実際に懇意にしていたOEM屋の事務所は常に中国の工場とやり取りをしていたが、中国工場の窓口担当者とのやり取りばかりだった。(現に事務所で何度もそのやり取りを目にしている)
だから、海外工場においては中間業者がほとんど要らないが、実質的には工場内に工場認定の中間業者が設置されているともいえる。
そういう観点で見れば、国内・海外ともに、繊維・洋服の製造に関しては中間業者の存在は必要不可欠ということになるといえるだろう。
昔は「アパレルブランドは製造のことを詳しく知る必要は無い。無茶を言えなくなるから」と言われてきたが、現在ではその考えは適さないだろうと個人的には思っている。
昔は、アパレルが無茶を言おうが、その無茶を補って余りあるほどの生産数量の発注があった。または素材や資材の買い付け量があった。基本的には。
製造側もそれで儲かっていたともいえるから、持ちつ持たれつという関係性になる。
しかし、「過剰在庫ガー」と言われる現在は、そんなにたくさんの数量の発注・買い付けは発生しない。となると、製造側は全く旨味が無い。旨味が無い上に無知な奴らから無茶を言われるのだから、当然反発が起きる。反発だけで済めば良いが、ある意味、製造側の方が強いような局面も出て来て製造側が「じゃあ、おたくの生産請負を止めますわ」という事態も起きてしまう。
実際、最近、某工場の社長が「そんなグダグダで話が進まんのならおたくのブランドの生産請負を止めますわ」と叩きつける場面も見たことがある。
少量生産で精度を高めることが社会的に正義とみなされている状況にあっては、アパレルブランド側も製造への知識を深めないとその社会正義は実現不可能である。
さて、それも踏まえると、キラキラインフルエンサーブランドやD2Cブランドが軽々しく「中間業者を飛ばしました」と言うことは実態には全く沿っていないし、それをあたかも美点のように報じるメディアの姿勢も百害あって一利なしといえる。
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