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南充浩 オフィシャルブログ

工場を刷新するも当面は増産しない「水沢ダウン」

2023年4月11日 製造加工業 1

現代の衣料品は基本的に「化学」であり「工業製品」である。もちろん、中には「アート」であるものがあっても構わないが、そちらは少数派でありマニアの世界であるということを再認識する必要がある。

「キラキラ」だろうが「ファッションへの情熱」だろうが、そういう曖昧模糊としたものを形にし、ある程度の数量を量産してくれる工場は化学と工業で成り立っている。

人には得手不得手が必ずある。従って人間が集まって構成する組織や企業にも必ず得手不得手がある。

アパレルや繊維の生産工場にまつわる報道は、ファッションメディアよりも業界メディアの方が得意である。

スポーツメーカーウェアのデサントが水沢工場を刷新するという報道に関して読み比べてもらいたい。

デサントが水沢工場を刷新 約30億円を投資 (fashionsnap.com)

デサントがブランディング強化 30億円投じ水沢工場を刷新 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

どちらの方が状況を正確に把握しやすいかというと、圧倒的に繊研新聞の記事である。

ファッションスナップドットコムの記事では「工場を建て替える」という事実と、最低限度の工場の規模しか分からない。あとは不明だ。

一方、繊研新聞の記事はその辺りも細かく書かれてある。

特に「何のために」工場を刷新するのか、である。

工場をわざわざ刷新する場合、さまざまな要因が考えられる。

1、設備が老朽化したから

2、増産するため

3、生産速度を上げるため

4、新工程を開始するため

などなど(工場に詳しい人なら他にも挙げられるだろう)

である。

 

掲載時刻はファッションスナップの方が早かったので、一報を読んだときに、看板商品である「水沢ダウン」の増産が目的だろうか?と個人的に推測した。理由は目的が書かれていないからである。

新工場は開発、製造、サステナビリーティの各分野で水沢工場、吉野工場、西都工場の3工場のマザーファクトリーとなり、「人に優しい、地域に優しい、地球に優しい」工場として環境配慮、地域共生、働きがいを実現を目指す。

とあるが、こんなもんは何の具体的な目的にもなっていない。「みんなで明るい社会を目指しましょう」レベルのふんわりスローガンである。

一方、繊研新聞には

水沢工場は、人気商品「水沢ダウン」を年間3万着製造する国内主力工場の一つ。新工場は現在の建屋の隣に建設する。今期中に着工し、25年7月に操業を始める。延べ床面積は約6000平方メートル。既存の建屋は老朽化が目立っていたが、建て替えにより従業員の働きやすさなどに配慮する。新工場では生産ラインの増強余地は残すものの、水沢ダウンの生産量はあくまで増やさず、難易度の高い高付加価値商品の品位・品質向上を実現する工場として位置付ける。

とある。要するに看板商品である「水沢ダウン」を当面は増産しないということである。

繊研新聞が書くように「ブランディング」を重視するならこの政策は正しい。増産するということは売上高が増えやすくなる一方で、値崩れも起きやすくなる。

水沢ダウンは高機能・高額の国産ダウンジャケットとして知られているが、生産量がそれほど多くない(年間3万枚)ため、期末に少しバーゲン価格に値下がりすることはあっても、投げ売られることは無い。例えば10万円の商品が7~8万円に値引きされる程度である。

それなりに評判の高い商品だから増産すればデサントとしての売上高は増える可能性がある。しかし、売れ残りが増える可能性もありこれまでよりも高い値引き率で投げ売られる可能性が高くなってしまう。

水沢ダウンのブランドステイタスと高価格を維持するには、簡単に増産しない方が良い。

繊研新聞はさすがにこの事情をよく理解できているといえる。だからあえて「増産はしない」と書いたのだろう。

 

ところで、このファッションスナップの記事には不思議な一節がある。

また、手縫いでしか作れない高付加価値商品に注力していくという。

である。水沢工場は基本的にスポーツウェア、アウトドアウェアの工場のはずだが「手縫い」とは何だろうか?疑問でしかない。

手縫いが重宝されるのは、高級オーダースーツくらいで、他の衣料品の場合、手縫いよりは通常のミシン縫いの方が生産効率は言うまでもなく、見た目のステッチの美しさ、丈夫さは圧倒的にミシン縫いの方が高い。当方は基本的に手縫いに何の価値も見出していない。どれほどに熟練した人でもミシンに比べるとステッチにわずかな揺れがある。ミシンほどのまっすぐな縫い目は実現できていない。これを「味」という人もいるが、当方はそんな「味」を好まない。

そして、スポーツウェア、アウトドアウェアというのは化学と工業の結晶であり、丈夫さと機能性が求められる商品である。メンズの高級スーツとは異なり、ハードな負荷から肉体を確実に保護するという役割が求められる。そのスポーツウェア、アウトドアウェアに「手縫い」は不要だろう。当方が客なら手縫いのスポーツ・アウトドアウェアなど役立たずなので買いたくもない。

手編みセーターとは全く異なる性質の存在であることを理解していないのではないか。

 

名人・達人の陶磁器だとか、名刀鍛冶が鍛造した日本刀だとかそういう物はたしかに「手作業」による高付加価値品だといえるが、量産品でありながらも高機能性が求められるスポーツウェア、アウトドアウェアを手縫いする価値は無いし意味も無い。

着物の友禅の手描き柄はたしかに高付加価値だろうが、そういう物と同じような打ち出しはスポーツ・アウトドアには百害あって一利なしである。

逆にこんな打ち出しをするデサントは大丈夫なのだろうかと却って心配になってしまった次第である。

 

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ビューティー&ユースの水沢ダウンをどうぞ~

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 comment
  • おしょころ より: 2023/04/11(火) 2:38 PM

    手縫いという表現ですが、パターン縫いといった自動機(人が生地をセットして、スイッチを押したら自動で縫製する設備)に対して、本縫いミシン等で従来どおり人が生地を取り回して縫製することを手作業と呼んでいるのかな?と思いました(普通は手縫いとは表現しませんが。。)

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