再生ポリエステル糸の需要増加で起きる本末転倒
2023年4月7日 素材 2
以前から業界内では噂になっていたが、ついに記事として取り上げられた。
繊研新聞のこの姿勢は評価をすべきだろう。繊維ニュースを除くその他の業界メディアではこうは行かない。
再生ポリエステル原料が調達困難に 飲料ボトル用との取り合いさらに | 繊研新聞 (senken.co.jp)
リサイクルポリエステル繊維の原料となる国内の回収ペットボトルが今後、調達困難となりそうだ。日本容器包装リサイクル協会(容リ協)が発表した23年上期の落札単価は、過去最高だった22年下期の反動で下落したものの、飲料ボトル向け大型リサイクル工場の稼働が計画され、繊維との取り合いが強まる見通し。このため、合繊メーカーは海外でのボトル調達に乗り出した。
リサイクルポリエステルのメインとなるのはペットボトルを砕いてそれを再生ポリエステル化するものだが、最近では飲料業界もペットボトルを回収して洗浄してから再利用するという取り組みが増えてきた。このため、飲料メーカーと繊維で使用済みペットボトルの取り合いが起き、赤字で示したように「海外からわざわざ使用済みペットボトルも調達に乗り出し」ている。まったくもって本末転倒のアホさ加減である。
これがイシキタカイ系とミーハーメディアが煽った結果である。
実際のところ、この噂はすでに2~3年前にはすでに繊維業界に広く流れていた。さらにいえば、使用済みペットボトルが足りないから、新品のペットボトルをわざわざ仕入れてから砕いて再生ポリエステル化しているという噂まであった。この噂が事実かどうかはわからないが、繊研新聞にまで取り上げられた状況を見ると、あながち全くの絵空事とは思えない。それに近しいことがすでに行われているのではないかと考えられる。
結論から言ってしまうと、使用済みペットボトルの再利用方法で最も理想的な物は、ペットボトルとして再利用することである。
理由は、洗浄する程度の作業で済み、再加工しなくても済むからである。
ペットボトルが普及する以前には飲み物の容器はガラス瓶だった。ジュースやビールのガラス瓶は回収してまた再利用されていた。ガラス瓶を酒屋に持って行くと、1本5円とか10円で回収してくれ、子供にとっては良い小遣い稼ぎとなっていた。
そして、ガラス瓶は破損しない限り何度でも洗浄して再利用できる。
ペットボトルの再利用もこれが最も理想的で最も環境負荷が少ない。こんなことは普通の科学的思考ができる者ならだれでも理解できる。
さらにいえば、ペットボトルからの再生ポリエステルは基本的に(最近は新技術も開発されつつあるが)工程が増える分、値段が高くなるが品質は悪い。
これが20年くらい前から存在していながら、近年のヒステリックなカンキョウガーが出現するまでほとんど使用されなかった理由であれう。
高くて品質の悪い糸をわざわざ使う物好きはいない。
そして、多くの人が見落としがちなのが、再生ポリエステルだけで作られた生地は今のところ通常の製品にはほとんど使われていないという点である。かならず、再生ポリエステルには通常のバージンポリエステルが混ぜて使用される。
例えば、ユニクロの今春のフード付きブロックテックコートを見てみよう。現在7990円にまで価格は下がっている。
本体の素材は65%ポリエステル、35%綿と表記されていて、さらには「65%リサイクルポリエステル繊維を使用」と明記されている。
要するに本体の65%はポリエステルで、そのうちの65%が再生ポリエステルで残りの35%はバージンポリエステルだということで、このユニクロの製品以外でも再生ポリエステル繊維使用と明記された商品はかならず「そのうちの〇〇%が再生ポリエステル」と明記されている。
ということは、とりもなおさず、再生ポリエステルで生地を作るためには「必ず通常のバージンポリエステルが必要不可欠」ということになる。
再生ポリエステル生地を生産すればするほど、それにつれてバージンポリエステル糸も必要になるという構造となっている。
そして付け加えるなら、再生ポリエステルを何%か使った洋服は「反毛(はんもう)」技法であと1回生地として再生できるくらいが関の山である。
何度も繰り返し再利用するのは、ペットボトルを再度ペットボトルとして再利用することには遠く及ばない。
ついでにいうと、再生ナイロンも怪しい噂が業界内では広まっている。
通常の再生ナイロンというのは、某合繊メーカーの社員によるとナイロンを精製するときにできた「カス」をナイロンに再加工するものが多いそうなのだが、再生ナイロンの需要が増えているため、その「カス」を増産する必要性に迫られてバージンナイロン糸の精製量も増えているという噂がある。
これが事実だとすれば、全くの本末転倒の愚かしさである。
以前も書いたが、質量保存の法則を打ち破るような画期的な新技術が確立できていない現在、半永久的に再加工して循環し続けられるということは不可能である。
ペットボトルの最も効率的な再利用法はペットボトルとして再度活用することであり、それでも再活用できなくなれば燃料として使用することしかないだろう。
再生ポリエステル糸を使った服なんていうことはほんの小手先の目くらまし程度でしかないし、結局のところ着古した再生ポリエステル使用服はゴミになるのだから、燃料として使用するか、大木工藝やその他が開発しているような技術で炭化させたり土のような物質に変換して地面に返すことしかないだろう。
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comment
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離宮 より: 2023/04/11(火) 10:26 PM
>洗浄する程度の作業で済み、再加工しなくても済む
このやり方はナントカ還元水…もとい、ウォーターサーバーの水ボトル以外では(本邦では)ほぼ無いはずです。
(そもそもボトルは「つぶして」回収ボックスへ、って指導されるでしょ?)破砕するのと化学分解するのとあるようですが、結局は再生PETのペレットになって、
それが融かされて押し出される先が繊維かフィルムかボトルか、の違いなので、ボトルtoボトルがほかと比べて特段エコだ、という話にはならないかと。>新品のペットボトルをわざわざ仕入れてから砕いて
業界人ではないのでボトルの製造歩留まりまでは知りませんけど、想像すればお分かりの通り食品用途ですから目視できないレベルのコンタミ(異物)でもNGでハジかれるわけで、それをリサイクルに回している(のをセンセーショナルに書き立てている)だけの可能性……は?
上述の通り、ペレットで置いとけば原理的には行先はどうにでもなるわけで。他サイトでこのエントリを根拠にしたと思われるカキコミを目にしたので、思わずコメントを。
10年以上前にどこかで「リサイクルするより燃やして熱回収したほうがよい」との主張を読んだ記憶もありますけどね……
「合繊メーカーは海外でのボトル調達に乗り出した。」
海外なんてペットボトルの分別回収とかしてないっしょ?と、ググってみたら、
PETボトルリサイクル推進協議会のデータだと、ペットボトルのリサイクル率は
日本:85%前後
欧州:40%前後
米国:20%前後
って感じでした。
多分、アジア各国はもっと低いんじゃないかと思いますが、
「海外でのボトル調達」ってリサイクルじゃなく新品の可能性も高そうですねw
ホント、エネルギーをムダにするのは止めてほしいですわ。
ちなみに、弊社の以前の部長が受けた仕事で、うちは間に入って単純に横流しするだけで
何の付加価値も付けないのがありました。年間でせいぜい数万円の利益しかないので、
上司に許可も取らずに相手の会社に頼んで直接取引に変えてもらいました。
コレで弊社の利益は減るけど、無駄な輸送エネルギーが減ってとってもエコ。
わたしってばイシキタカイ(・∀・)