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南充浩 オフィシャルブログ

工場は素人にも分かりやすい効能で技術を説明してみてはどうか?

2023年4月6日 製造加工業 1

久しぶりに1泊で岡山・児島の産地企業を回らせてもらった。

2019年に東京出張をして以来の宿泊出張なので、4年ぶりになる。この4年間で身体のジジイ化が一層進行してひどく疲れてしまたった。児島は「デニムの街」と言われるが織布はショーワの1社しかない。生地染め染色工場は堀江染工だけになっていて、あとは洗い加工場とか整理加工場なので、実際のところは児島は「デニムの街」というより「デニム洗い加工場の街」と言った方が適正といえる。

 

そんなわけで数々の工場内部も見学させていただいたのだが、繊維は奥が深く、当方ごときの浅い知識では全てを理解することは不可能である。また、工場を見学すると、繊維や生地というのが化学と工業で成り立っていることがわかる。センスとか感覚というのは、この化学と工業が下支えしているのである。キラキラした人らもぜひ工場内部は通り一遍でも構わないので見学させてもらうべきだろう。

 

さて、工場側の話を聞いてみると、展示会などに出展してアパレルブランドの企画担当者と話すことも増えてきたが、工場の持つ技術力というのが若い企画担当者やキラキラ業界人にはさっぱり理解してもらえないことも多いそうで、なかなか噛み合わないとのことだった。

しかし、それは無理からぬことで、キラキラファッソニスタよりは少しは工場のことを理解しているつもりの当方でさえ、実際のところ工場の説明では3割~4割は「???」という理解できないワードがある。

ただ、当方の場合は無駄に業界歴が長いので前後の文脈や現物を見ることでその補足がある程度(完全にではなく)できているに過ぎない。

工場を生業としていない業界人にとって、工場側の説明を100%理解するのはかなり難易度が高いといえる。キラキラ業界人に理解させるためには、工場側が説明ポイントを変えた方が即効性があるのではないかと思う。

 

今回は、大きなお世話ながら、実例を挙げてみたいと思う。

業界歴だけ無駄に長いながら、初めてニッセンファクトリーにお邪魔することができた。前身は洗い加工のニッセンという工場で、2011年にニッセンを引き継ぐ形でニッセンファクトリーとして再スタートした。

ニッセンファクトリー株式会社 (nissen-factory.com)

 

ジーンズの洗い加工だけではなく、カットソーやトップス類の染色なんかも今は手掛けている。

その中で、インクジェットプリント機による1枚ずつの小ロットも可能なプリントがある。かなり複雑な柄、模様でもきちんとトレースして製品にプリントを施すことができる。

はやい話、Tシャツに1枚ずつプリントもできるというわけである。

業界的に言えばインクジェットプリントなんてありふれていて、それを使える染色工場やプリント工場は珍しくない。

個人的にはどんな図柄を開発できるかというところが、インクジェットプリント屋のキモではないかと考えている。

 

今回見せていただいた図柄で個人的に興味を持ったのは

1、ペンキ吹付け加工風プリント柄

 

 

 

2、パッチワーク風、リメイク風プリント柄

 

 

 

である。

「ホンマモン」が大好きなこだわり業界人からすれば、どちらもプリントしただけの似非という具合に映ることだろう。ましてやホンマモン志向のビンテージ風カジュアルブランドの中の人からすればとりわけそんな思いが強くなることは仕方がない。

しかし、当方にはこの2つはけっこう売りやすいセールスポイントがあると思っている。

例えば「ペンキ吹付け加工」だが、たしかに見た目は面白い。ワークな雰囲気もある。だが、実際は長年着用し続けているとペンキは剥離してしまうことがある。また、洗濯をするときにも剥離の心配もあり、気楽に洗濯機に放り込むことができにくい。

だが、これがプリント柄だったらどうだろうか。まず剥離の心配はないし、洗濯機にも気軽に放り込める。

「ペンキの吹付け」自体に思い入れが無い人なら、「ペンキの吹付け柄」が欲しいだけで、実際にペンキを吹き付けていない方がメンテナンスは圧倒的に楽なのである。

そして、ペンキの吹付けに思い入れの無い人の方がマスだし、ホンマモン志向ではないブランドの方が数も多いから、この図柄を「剥離しないし洗濯するのも楽ですよ」というふうに説明すれば「ホンマモン志向ではないブランド」には響くのではないかと思う。

 

また、パッチワーク風、リメイク風プリントも同様だ。

パッチワークや当て布をしたリメイク品は確かに雰囲気はある。しかし、当方も昔、ヤマトインターナショナルのファミリーセールでデニムとコーデュロイのパッチワークシャツを2000円くらいで買ったのだが、カッコイイがとにかく通常のシャツより重いのである。下手をするとGジャンより重量があったのではないかと思った。

リメイクも同様で当て布を当てれば当てるほど重量は増加して重くなるし、洗濯をするときにも一抹の不安が漂う。これがプリント柄ならどうだろうか。重量は格段に軽くなる。この「軽さ」というのはセールスポイントになる。

 

ジーンズなどに多い、穴をあけたクラッシュ加工も同様だ。カッコイイが穿きにくい。当方はかならず裂け目に爪先をひっかけて穴を広げてしまう。

さらにいえば、穴が開いているとそこから体温が放出され、夏は涼しいが冬は寒い。ときどき、真冬に膝や太ももに穴があいて肌が見えている女性を見かけるがあれは寒くないのだろうか?寒いとか言いながら使い捨てカイロを持っていたりするから意味不明である。寒いなら穴を塞げよ。

となると、クラッシュ加工風のプリントなら穴も開いていないから、冬は寒くないし着用する時に裂け目に引っかけて穴を拡大する心配が無い。当方のような人間なら実際に職人が熟練の技とやらで穴を開けた不便なジーンズよりもクラッシュ加工風のプリント柄が施された似非だが便利なジーンズの方がはるかに好ましい。

リメイク風プリントもこのように説明すれば、業界でも多数派の「ホンマモンではないブランド」には響きやすいだろうし、逆にブランド側からも店頭でのセールスポイントとして使いやすい。

 

結局、世の中の多数派は便利で楽な物の方を支持しやすい。となると、工場側もその視点で自社の技術を「ホンマモン志向ではないブランド」に説明してみてはどうか。

 

 

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 comment
  • 忍者猫 より: 2023/04/07(金) 8:40 AM

    アパレル業界で仕事をする人のうち、何割かは服飾専門学校を出ているのではないかと憶測するのですが、そうであれば、専門学校では量産における製造工程も教えているのではないでしょうか???? 

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