
一部の好調さでは業界全体の退勢を覆せないという話
2023年4月5日 百貨店 2
百貨店の衰退が叫ばれながら、特定店舗の好調も報じられる。
業界関係者以外、いや、業界関係者でも百貨店に詳しい人以外はこの矛盾する報道が実は正しいのだということが理解できないのではないかと思う。
三越伊勢丹は3日、国内百貨店事業の3月度売上高速報を発表した。23年3月期通期では速報値ではあるものの、伊勢丹新宿本店の売上高が1991年度に記録した年間の過去最高実績を更新した。
同社によると、91年度の伊勢丹新宿本店の売上高は「3000億円超」。同年は国内百貨店業界全体の売上高が9.7兆円となりピークを迎えた時期でもあったが、当時の数値を上回ったことになる。
要するに、23年3月期通期の伊勢丹新宿本店だけの売上高が3000億円を越えたらしい(速報値であるため)ということである。
この報道だけを読むと、多くの人は「百貨店は危機だとか言われているが、実は売れているじゃん」と思ってしまうだろう。こう
だが、それは間違いである。伊勢丹新宿本店の売上高が増えても、百貨店全体の売上高は下がっているというのが正しい実態である。
だから、伊勢丹新宿本店の売上高が増えるということと、百貨店全体が衰退しているということは、矛盾しているように思えるが実際は両立している。
ではどうしてそうなるかというと、地方・郊外にある小規模百貨店はどんどん売上高が低下し、あまつさえ閉店しているからである。一方、伊勢丹新宿本店や他の都心大規模百貨店の一部店舗は売上高を伸ばし続けている。
それが今の百貨店業界の現状であり、伊勢丹新宿本店や一部の都心大規模百貨店の好調は百貨店業界全体を上向かせるものではないといえる。
ひどい言い方をすると、地方・郊外の小型百貨店の売上高を伊勢丹新宿本店と一部の都心大規模百貨店が吸収し続けているともいえる。
ではどうしてコロナ禍が完全収束していないにもかかわらず、伊勢丹新宿本店と一部の都心大規模百貨店の売上高が伸びたのかというと、記事中にもあるように「外商政策の強化」があるが、生地雅之さんがかねてより指摘しておられるように、海外に渡航しにくい富裕層が代替消費先として伊勢丹新宿を始めとする一部の都心大規模百貨店を選んだからという理由もあるようだ。
3月に入ってから、如実にコロナ収束ムードが漂い、大阪市内でも梅田、心斎橋、難波、天王寺という都心エリアはコロナ禍前に匹敵するような人出が続いている。電車の混雑具合も戻ってきている。
恐らく、4月以降も大阪市内の大規模百貨店はそこそこの賑わいを見せ、売上高も伸ばすだろうと予想できる。
しかし、百貨店業界全体が売上高を23年以降回復できるかというとそれは無理だろう。
地i方・郊外にある小型百貨店にわざわざ買い物に行こうという人は増えていない。むしろコロナ対策が緩和されたので、買い物をするなら都心大規模百貨店まで足を伸ばす人が増えるだろうから、ますます地方・郊外の小型百貨店は衰退することになるだろう。
報道はこの辺りの全体像をもっと世間一般に伝えるべきではないか。
この百貨店と似たような傾向にあるのが、日本酒ではないかと当方は感じている。
最近では、日本酒が欧米で人気だとか、欧米のナンタラ賞を受賞したとか、そういう景気の良い話がよく報道されている。これらだけを見ていたら、日本酒業界はさぞ盛り上がっているのだろうと、関係者ではない人はそう思ってしまう。
しかし、よく調べてみると日本酒の消費量は年々減り続けており、いまだに底打ちしていない。
なぜ日本酒は斜陽産業になったのか 個性をなくした「国酒」の末路:日経クロストレンド (nikkei.com)
日本酒の課税移出数量(=出荷量)は、1973年度の176万6000キロリットルをピークに下降の一途をたどり、2020年には41万4000キロリットルと、実に76.6%減、4分の1以下になっているのだ。
というのが正しい日本酒業界の姿である。
ちなみにこれは2022年8月の記事だから、ほぼ最新データといえる。恐らくは23年度も減少することになるだろうと当方は見ている。
要するに、欧米や国内で評価される一部の酒造メーカーはあるが、その他大勢の酒造メーカーはジリ貧となっているというのが、ひどく簡略化した日本酒業界の構図だといえる。
だから、話題となる酒造メーカーがあるにもかかわらず、日本酒全体の消費量は年々減少し続けているということになってしまう。
百貨店業界と同じだ。
伊勢丹新宿本店やその他一部の都心大規模百貨店は景気の良い話題が出ているが、それら以外の百貨店店舗は前年割れが続いており、百貨店業界内で業績の二極化が一層進んでいる状態にある。
百貨店しかり、日本酒しかり、その他商材しかり、好調店舗や好調商品もあるが、全般的には厳しいという両方をメディアは報道すべきである。そうでなければ、よほどその業界の話題に興味のある人以外は実態が見えないという状態になってしまうし、その業界の危機的状況というものが一般大衆に伝わりにくくなってしまう。
伊勢丹新宿本店がいくら過去最高の売上高をたたき出したところで、百貨店全体の縮小は一向に止まらないというのが実態である。
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comment
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南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/04/06(木) 8:48 AM
「ザギンで葉巻が売れてるからたばこ市場は好調だ!」
「あのサッカーのナカタも絡んだポン酒が好調だから
酒類は上向きだ!」バカでもひっかかりません
けど服飾アパレルぎょーかいは上記の言説にひっかかる
バカが10人ちゅう9人ですwwwなぜならひっかかる彼ら彼女らは、いつの日か
ザギンで葉巻ふかしたり、こうきゅうポン酒を
賞味期限が切れたナカタと飲みたいからですこれから売上が確実にうわむくのは火葬場だけです
そんな市況の中で、ムリに元気だそうとするのは
いい加減やめたほうがいいと思うぞwあ、そういえば、都内の火葬場は
すべて中華企業に押さえられてしまいましたこれから死ぬならイナカのほうがよさそうです
たまに土日に新宿伊勢丹の近くを通ると、駐車場へ入るのを待っている高級車が延々と列を作ってますわ。
ホント、お金持ちは羨ましいです。つか、車じゃなく電車で来れば待たなくてよいのに、とビンボー人は思っちゃいますがw
何十万もする服とか靴とかは、やっぱり店舗で在庫があるほうが強いんでしょうし、新宿伊勢丹みたいに1か所で色んなブランドが見られる場所はお金持ちが集まるんでしょうね。でも、同じことを別の場所でやるのは、ほとんど無理という普遍性の無さw