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南充浩 オフィシャルブログ

百貨店にファミリー客が戻ってこないのは当たり前という話

2023年3月28日 百貨店 4

もう長いこと百貨店の改革プランというのを断続的に眺めているがイマイチピンと来ない。

多くの場合は

1、品揃え強化(要するにもっとイケてる洋服ブランドを集める)

2、接客サービスの向上

あたりに集約されると感じる。

2020年以降に出てきたのが

3、イシキタカイ系の売り場を導入する(イキった売り場の導入。売らない店とか)

4、外商の強化

だとまとめられると思うが、これらの施策でかつての「国民的憩いの場」に返り咲くことはあり得ないといえる。

 

理由は、その4つをやったところで大して革新性も先進性も利便性も無いからである。

百貨店シンパの方々は「文化的云々が」とかそういうことを挙げられるが、イケてる洋服のブランドが集積していることが「特筆すべき」文化なのだろうかと疑問しか感じない。

なぜなら、現在は2000年代半ばまでとは異なり「ファッションブーム」はとっくの昔に終了しているからである。衣料品自体への関心はそれなりにあるだろうが、かつてのような「イケてるブランドを是が非でも買いたい」という謎のブームは起きていない。そして今後もよみがえることは無いだろう。

次に「接客云々」だが、個人的にはあれこれ他人と触れ合いたいとは思わない。もちろん、女性で化粧品初心者などは百貨店の接客はありがたいだろうが、洋服などなどでことさら丁寧に接客されてもそれが特筆すべき美点にはならない。せいぜい数ある買い場の中の1つである。

3の代表格のような「売らない店」とか、その他イシキタカイ系施策だが、これもさほど売れるとは思わない。またマス層はそういうイシキタカイ系取り組みにはあまり興味が無い。イシキタカイ系は吸引できるだろうが、それは少数派であり「国民的な憩いの場」への復帰には全く役立たない。

そして4の外商強化だが、これは当方も賛成である。どうせ「国民的な存在」には復帰できないなら金持ちに絞り込むことは得策だ。当方がアホらしく思うのは、金持ちへの絞り込みを奨励しながら「マス層の支持回復」を求める輩だ。そんな虫のいい話はこの世に存在しない。

 

さて、その外商だが、百貨店の売上高のどれくらいを占めるのだろうか。各店舗によっても大きく比率は異なるだろうし、会社間でも格差はあるだろう。

概して電鉄系(近鉄、阪神、阪急など)は外商が弱く、呉服系(三越、大丸、高島屋など)は強いとされている。

 

外商の次 | コンサルタント | 生地 雅之 | アパログ | ファッション、アパレル業界のブログポータルサイト (apparel-web.com)

長らく百貨店アパレルで勤められた生地雅之さんは「百貨店は売上の20%程度しかない外商」と指摘されている。

当方の聞きかじった数字でも外商売上比率は平均的に20%前後と聞いている。

2割あるだけでも大きいといえるが、これが3割、4割へ伸ばすことができるのかというとそれは難しいだろうと言わざるを得ない。3割は達成できても2倍の4割まで伸ばすことは不可能だろう。

 

もう5年くらい前になるが、現在は引退されている某大手アパレル小売の専務に阪急梅田の外商サロンに連れて行ってもらったことがある。

その当時は年間200万円以上を買い物するとこの外商扱いになり、サロンへ入れるようになるとのことだった。この基準は今は変わっているのかもしれないが。

200万円ということで話を進めると、これを400万円とか500万円にまで伸ばすことはなかなか難しいだろう。こう言っては何だが、アパレルの専務で服好きだからこの人からは伸ばせる可能性はあるが、そうではない人がたかが洋服に400万円も支出するようになるはずがない。

そういえば、新庄剛志氏は日本ハムの監督になる前は年間600万円くらい服を買っていたとかつてテレビのトーク番組で語っていたが、そういう人間はそんなにいない。

とすると、外商を強化したところで百貨店としては延命可能だが、国民的支持の回復には何の役にも立たないことは明白で、百貨店はどちらかを選ぶしかないということになる。

 

そもそも百貨店が明治以降、バブル期終焉まで大衆に支持された理由は、すごい洋服ブランドを集めていたからではない。

まず、江戸時代後期に三越の前身が現金掛け値無しで売るという売り方革命を起こしたからである。良い物が割安感が感じられる値段で買えて、しかもすぐに持ち帰れるという利便性と経済合理性があったからだ。

また明治以降も国内で初めてエレベーター、エスカレーターを導入したことで機能面での先進性や進歩性が感じられたから衆目を集めることができた。

戦後は、何度も書いているように大食堂と屋上遊園地で家族連れが来やすい利便性を備えた。大食堂と屋上遊園地無しではいくらイケてる洋服ブランドを集積したところで、家族連れの来客は増えなかっただろう。

なぜなら、子供にとって洋服ショッピングというのはクソつまらない退屈極まりない時間だからだ。大食堂と屋上遊園地があるから子供も百貨店くんだりまで付いてくるのである。

現在の百貨店はそれが無いからいくら上の4つの施策をやったところで家族連れ客は増えない。

 

逆に百貨店の代わりの受け皿となったのがイオンモールなどの大型ショッピングモールである。

フードコートあり、ゲームなどのアミューズメント施設あり、おもちゃ屋あり、本屋あり、なんなら映画館まであるから、子供連れ客が来店しやすい。

さらに地方・郊外だと自動車移動がメインだから広い駐車場を完備できているショッピングモールへ行くのは利便性が高い。駐車場が狭い・無い地方郊外の小型百貨店はますます子連れ客から見放されることになる。都心店だって子連れ客は敬遠する。

 

百貨店が本当にかつてのような国民的支持を集めたいのなら、子連れ客が来やすい施策をすべきでそれは、パウダールームを広くするとかそういうことだけではない。

かつての大食堂、屋上遊園地のような子供も来たがるような集客装置を考えるべきだろう。さらにいうなら現在に則した先進性や進歩性の感じられる設備や取り組み(明治・大正のころのようなエレベーターの導入など)が必要不可欠である。

かつてZOZOのスキャンを嫌がり、ネット通販への進出にも後れを取った百貨店は先取の気風を完全になくし、業界内でも最も保守硬化しているといえる。これでは現在の若いファミリー客が寄り付くはずもない。

 

繰り返すが、かつての国民支持を回復させたいなら今の施策では全く効果が無い。しかし、百貨店が「分かる奴にだけわかってもらうマニアな場所」として縮小均衡を目指すなら今の4つの施策を推し進めればイイ。そのどちらを選択するのかは百貨店自身が決めることである。それだけのことである。両方を手に入れることはできないからその覚悟が求められる。

 

 

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 comment
  • キムゴンウ より: 2023/03/28(火) 12:35 PM

    もうそろそろ
    百貨店オワコンの内容は終了してはどうでしょうか?
    サザエさんの運動会あるあるみたいになってきましたよ
    このコラムは あなたの斬新な視点であって
    再放送ではないと思います

  • 個人の感想 より: 2023/03/28(火) 8:22 PM

    そもそも百貨店はもう「国民的憩いの場」を目指していないと思います
    ファミリー層もメインターゲットではなく、世代別にターゲットを設定することも過去のものになっています

  • 読者 より: 2023/03/28(火) 9:29 PM

    異なる視点から考えると
    少子高齢化の国の人口動態を先取りしているのが今の百貨店とも言える。
    人口減少傾向のファミリー世帯向けを縮小し高齢者向けの物産展催事に注力。
    ファミリー向けのSCは子供の人口減ってるのだからそこは年々売上減で普通だろう。
    客単価を上げないと前比は厳しいハズ。
    なんだかんだ言って今の都市部百貨店の状態は現状に最適化されているようにも思う。
    理想論ではなるほど設備投資して需要喚起するのが正しい。
    でもこのシュリンクし続けるマーケットで投資するのは無謀。
    茹でガエル状態をなるべく持続するのがベターとなるのでは?

    おそらくは2030年以降東南海地震の発生が予想されるので、
    それまでは大規模投資は避けるのが賢いのではないか?
    などとキムゴンウさんの意見読んで妄想してみた。
    自分は南さんの分析無駄とは思わんけど。
    以前より微妙にアップデートしとるし。もはや買取品やバイヤー論みたいなの言わんくなったしw
    そこは論外になったからだけどさw

    ただ百貨店は文化とか言うマスコミはアホだと思う。
    海外ハイブランドが文化とかって資本主義そのものであって全然文化ではない。
    成金とか高級というというのが正しい表現。
    それを文化とか言ってるヤツは精神的に貧しい。南さんみたいに等身大のほうがよっぽど文化だろう。
    百貨店は文化というのは高島屋みたいに博物館事業やってる組織のことを言う。
    美術館廃止した池西は文化ではない。堤清二が売却した時点で西武百貨店は文化を捨てている。

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/03/29(水) 12:05 PM

    キムさん>コラムはあなたの再放送ではない

    辛辣なご意見。ただ結論は一緒でも、結論に至る
    論証過程と具体例が少しずつ変わっているので
    タダ文章の中では読む価値があるかなと思います

    それはさておき・・・

    年1回年2回の買い物を全年齢・全性別でこなそう
    としていた百貨店もありました。そう西武の池袋店

    想定するのは、大企業だが、さほど年収が高くない層
    今でいうなら手取35万ぐらい+奥さん専門職パートで
    世帯月手取45~50万ぐらいとしましょう

    ・パパの仕事着、ママの仕事着とおしゃれ着
    ・パパの趣味はパソコン売り場とオーディオ売場へ
    ・高校生の参考書は西武ブックセンターへ
    ・中学生はおもちゃ売り場でラジコンと鉄道模型
    ・おともだちへのプレゼントはロフトで調達
    ・各自の好きな音楽CDはWAVEで

    とまぁこんな感じで、ごく普通の勤め人のお買い物を
    世帯丸ごと引き受けていたのが95年頃までの池袋西武でした

    もちろん全ての売場テナントではなく
    西武の社員が物を仕入れて売場に立っています

    堤さんや池袋西武となると
    すぐ美術館だの無印だのPARCOという人がいますが
    まぁ表面的な分析ですね。というのもどれも全年齢
    全階層を対象とした商売ではない上、売上になりません

    ところがパソコンも家電もおもちゃ売り場も
    いわゆる家電量販店が台頭してきた90年代に
    すべてクローズしてしまいます

    そしてWAVEもロフトもリブロ(旧西武ブックセンター)
    も無くなってしまいました

    水野さんが嘆いておられたけど
    ここ30年、西武を含め百貨店は何1つ従来にない
    新しい取組みをしていない

    その点、フロアまる貸しに早い段階から踏み切った
    東武がある意味一番新しい取組みをしたといえます

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