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南充浩 オフィシャルブログ

どの業界にも一発で逆転できる必殺技なんて存在しないという話

2023年3月27日 トレンド 1

先日、業界の先輩である大手合繊メーカーの社員グループと久しぶりにお会いした。

自分よりも年長の方が2人、同年輩が1人というグループだったが、その席上で、電気自動車の話題となった。当方は全世界の自動車を電気自動車に置き換えることは現時点の技術力では不可能だと思っている。一方、先輩お二人はEUと中国が電気自動車を推進しているのだから、電気自動車に代わるという考えだった。

しかし、冷静に考えれば自動車単体を電気で動かすことはできても、全世界の自動車を電気に置き換えるには、自動車だけの問題ではなくなる。まず、第一に考えなくてはならないのは必要とされる発電量が今よりも増えるだろうということである。ウクライナ侵略やコロナ禍などで天然ガスなど火力発電に必要な燃料が手に入りにくくなって電気代が急騰していることは皆さんも日々の生活で身につまされていることだろう。

電気代の急騰は我が国だけでなく、世界的にも起きており、何なら我が国以上の高騰を見せる欧州諸国も少なくない。

この段階で発電量の増加を見込めないことは普通に考えればわかるはずである。

次に、それを太陽光発電や風力発電などの増加で乗り切ろうとする考え方だが、これも現時点では確立できていない。確立できているなら、我が国や欧米諸国での電気代急騰は起きていない。さらにいえば、太陽光発電の発電パネルの問題もある。自宅にセールスに来た太陽光発電業者から詳しく説明を受けたが、だいたい設置から20年くらいでパネルの寿命を迎えて発電量が落ちるという。しかし、一戸の家庭用ならそれでも使用可能だとのことだが、工業用途や広い地域を賄うことは難しいといえるだろう。さらに寿命を迎えた莫大な量の太陽光パネルの処分問題も起きるが、この処分問題を報じる大手メディアはほとんど無い。

 

発電量の問題に加えて、今度は補給問題がある。自動車は目的地に行くまでに補給をする必要に迫られることがある。現在のガソリン車ならガソリンスタンドがまあ道路沿いには点在している。じゃあ電気自動車の場合は「電気スタンド」がそれほどあるかというとない。まず、このスタンドを多数出店するという莫大な初期投資が必要になる。

さらに補給時間の問題もある。ガソリンの場合、満タン入れても所要時間は10数分程度だろう。しかし、電気の場合、充電時間に何時間もかかってしまう。仮に莫大な投資で「電気スタンド」を林立させたとしても、そのスタンドで1日に充電できる自動車の数は、ガソリン車と比べて桁違いに少なくなり、スタンドの採算は合わなくなる。

実際に電気スタンドでの充電時間がかかりすぎてとんでもない渋滞が中国で起きたことがあり、これを解決する充電時間の圧倒的短縮の方法はまだ確立されていない。

例えばこの報道である。2021年12月のニュースである。

中国、EV充電待ちで高速渋滞 新エネ車急速普及、追いつかぬ整備|【西日本新聞me】 (nishinippon.co.jp)

 

こういうことを考えると、国内の一部の企業や個人が全面的に電気自動車に刷新することはできても、全世界を挙げて電気自動車に置き換えるということは、現時点で不可能だということである。

 

そうすると、ええかっこしいのEUもようやく誤りを認めたといえる。つい数日前の報道である。

ガソリン車販売を事実上禁止する方針だったEU、2035年以降も条件付きで容認 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会は25日、ガソリン車の販売を2035年以降に禁止する方針を転換し、条件付きで認めることを明らかにした。

 

とのことである。

電気代の高騰、風力発電などの自然エネルギーの低調などを考えると、目先の建前のかっこよさだけに固執するわけにはいかなくなることは当たり前といえる。

今後はさらになし崩し的に内燃機関自動車の承認をさらに緩めるだろうと個人的には見ている。欧米人のいつものやり口である。

 

ここまでつらつらとこのブログの趣旨に反して電気自動車のことを書いてきたが、同じことは衣料品のエコ問題にも通じるといえる。

いわく「全員が古着を着れば解決」とか、いわく「衣料品市場をシュリンクさせれば解決」とか、それこそ目先の建前のかっこよさだけしか見ていない寝言だといえる。

世の中に出回る衣服がすべて古着になれば、新品衣服は作られなくなるので、いずれ古着も出回らなくなるということを理解していない。

そして古着といえどもいつかは汚れて破れて着用不可能になるので、いずれは捨てることになる。出回っている古着を全て使い果たせば、もう着る物は無くなる。そんな生活を望んでいるのだろうか。

さらにいえば、新品の服が作られなくなるということは糸の製造も生地の製造も無くなる。糸や生地を使うのは何も衣服だけではなく、布団やシーツなどの寝具、バッグ類、スニーカー類なども作られなくなる。

ポリウレタンを塗布するタイプの合皮だって基布が無くなるので生産できなくなる。

 

また市場規模のシュリンクだが、国内だけでもアパレル小売市場はコロナ禍で縮小したといえども7兆円前後ある。全世界だとさらに大きいことは言うまでもない。そして、糸・生地の生産、染色加工、縫製と何百万人、何千万人という労働従事者もいるし、小売店やネット通販業者にも多数の従業員がいる。これらの雇用は一体どうするつもりなのか。

 

自動車にしろ衣料品にしろ、理想を掲げることは必要だが、目の前にある製品単独だけで解決できることではない。その背景や根幹にかかわる仕組みをどのようにソフトランディングさせて刷新できるかまでを考えないと全く実現性に乏しく、今回ガソリン自動車販売全面禁止を撤回したEUのようなことになってしまう。

技術開発を地道に続け、コツコツとした取り組みを続けるほかはない。この世の中に一発逆転可能な秘密の必殺技なんていう物は存在しないということを再度噛みしめるべきである。

 

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 comment
  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/03/27(月) 4:00 PM

    時事評々の内容ですな

    市場をシュリンクぅといってるウマしか
    ちょっと出てこいwww

    まず、市場は誰もコントロールできません
    たとえ政府でもね

    あとね、英語の使い方がそもそも間違ってるよw

    それはさておき、服の場合、個人の趣向があるから
    よけい問題が複雑になっていると思います

    人民服でいーやとならないのはもちろんですが
    いっぽう、ちょう豪華タワマンwに住んでるから
    ブリオ~二かゼニヤの服しかきねーぜ、とはならない

    消費が高度化した二ホンでは、タワマンの住人が
    人民服だったり朝から晩まで伸びきったジャージ
    だったりしますから

    所得・階層ごとに最適化された制服を売るだけで
    いいなら、ムダも回収もよっぽど楽です

    けど、日本は良い意味で
    「消費者100面相の国」ですから

    所得・階層別に消費種別がはっきりしているのは
    自動車ぐらいじゃないですかね?

    裏かえすと、全身分層・全所得層を相手にしている
    ウニクロGUが回収を徹底してくれれば良い
    リサイクルなんざ、それだけの問題です

    あ~ウニクロGUを投入初日に上代で
    大人買いできる身分になりたいなぁ~w

    好きな時に・好きなだけウニクロGUを
    買える人間を「21世紀の御大尽」といいますw

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