床革を使用したドライビングシューズに見るワークマンの巧妙さ
2023年3月23日 素材 3
各分野には昔から使われてきた「専門用語」が存在する。
ごく細かい差異で使う専門用語が異なることは普通にある。専門外の人間からすれば「使い分けなんてめんどくせーな。同じでええやんけ」となるが、わざわざ呼び名を変えているのはそれなりの存在意義があるからである。
ゆとり教育とか言われ始めたころの一時期、円周率3・14を3にして教えるとかいう意味のわからない取り組みがあったが、あれはもうなくなったのだろうか?まだ存続しているならさっさと無くすべきである。
たったの0・14しか違わないから同じで良いと考えがちなのだろうが、10倍すると1・4、100倍すると14もの差が生じる。円周率はそのままで単体だけで使用することはなく必ず掛け算や割り算で組み合わせて使うため、0・14の差は実際の事物では大きな差になってしまう。
細かい専門用語を一緒くたにするのはこれとほぼ同じことだと感じてしまう。
先日、ぼんやりとYouTubeを眺めていたら、ワークマンの「レザードライビングシューズ」が紹介されていた。
白と茶色の2種類があるが、白はアディダススタンスミスのパク、いや、そっくりに見えてしまう。価格は3500円である。
RL460 レザードライビングシューズ | ワークマン公式オンラインストア (workman.jp)
ドライビングシューズというと、我々世代だと「トッズ」のようなローファータイプで、ソールの接地面に凹凸があるものを想像してしまう。ワークマンのこの商品は明らかにスニーカーを意識していて、スタンスミスと大きく異なる点はかかと部分にまでソールが付いている点である。YouTube解説を聞いていると、かかとを付けたままアクセル操作をするためではないか、とのことだったが、個人的には通常のスニーカータイプのソールにすると、アディダスからナンヤラカンヤラと言われてしまうため、それを予防するためのデザイン変化なのではないかと見ている。
で、この商品を検討するために「説明文」を読んでみたが、恐ろしく情報量が少ない。今のネット通販ではこれでもか、と言うくらいに説明文を書くことが主流となっている中で、この簡素さはかなり珍しい。商品の特徴なんて箇条書きでたったの3行である。
・柔らかい床革(牛)を使用
・車の運転もしやすいかかと巻き上げソール
・細身シルエットでしっかりフィット!
である。偉い人の挨拶スピーチもこれくらい簡素ならさぞ喜ばれることだろう。
で、気になるのは「(牛)床革」という素材名である。
衣類の原料と言ったところで、繊維と革では大きく異なるから、その両方に精通している人はなかなかいない。当方は革についてはほぼど素人で、幾分か革専門業者から聞きかじったに過ぎない。
その乏しい知識と経験に照らし合わせると、素材名にわざわざ「床革」と表記することは珍しい。では床革とは何か?革に詳しくない人のために解説ページからコピペする。
「本革」と「床革」の違いとは?革の種類と特徴を徹底解説 (transic.jp)
床革は、革の2層目にあたる部位です。
表皮から1~2層目が削られている床面は、繊維が荒く薄いため、耐久性に欠けます。
そこで、ポリウレタンなど樹脂を表面に塗布し、耐久性を高める加工がプラスされる場合が多いです。床革は、本革レベルの深みや味わいを出すことは難しいものの、柔らかく加工しやすい素材。
とある。
皮の1層目と2層目を一緒になめした物が「革」であり「本革」と呼ばれる。表皮とその下の真皮が革であり、床革とは真皮のさらに下にある層をなめしたものということになる。
こちらでもほぼ同様の説明が語句を変えてなされている。
本来の革の丈夫さは多少損なわれることになりますし、素材としての価値は通常の革と比べて大きく劣ることになります。 また、床革は革を漉いた後の副産物であることから安定供給ができないことも特徴の一つです。
とある。
また、用途としては
床革の用途としては、一番は芯材かなと思います。(中略)試作する際の革の替わりとして使われていたりします。 本番と同じ(もしくは近しい、似た)厚みや硬さの床革で試作することができれば本番のイメージがより鮮明になりますよね。
あとは、粉砕した物を樹脂で固めて「再生レザー」(リサクルレザー、レザーボードなど)として様々な用途に使われていたりします。
ともある。
革業界では、本革と床革は同じ動物の個体から取れるが、完全に別物として扱っているということが分かる。
こちらのYouTubeチャンネルは普段かなり参考になると感じているのだが、今回の商品に関しては意図的なのか無意識なのかはわからないが、床革と言いながらも本革と混同して説明を続けている。
この混同は、革に詳しくない消費者からすればわかりやすいのかもしれないが、それが広まると業界的には有害となってしまう。なぜなら、消費者は床革も本革も同じ物だと思い込んでしまいかねないからだ。
この動画の中では、今回のスタンスミス風味のドライビングシューズのアッパーは樹脂加工が施されていると述べているが、上の説明文でもあったように床革だからこそ表面をコーティング加工しないと耐久性が担保できないからであり、床革をアッパー素材として使用するための不可欠な工程だということになる。
ただ、床革を「本革」と表記して販売している有象無象のネット通販も多々あり、低価格レザー品の多くは床革が使用されている可能性が高いことを指摘している専門サイトも多かったことを考えると、ワークマンがわざわざ「床革」と表記したことはかなり良心的だといえる。さすがは上場企業である。
ただ、床革とまで表記したのであるなら、床革とは何ぞやという説明があった方がさらに良心的だったのではないかと感じる。
二つ目に引用したサイトにはこんな一文がある。
床革は漉き加工によって派生する余分な網状層のこと。
厚みさえあればそれなりに丈夫だけど革としての価値はない、その分安価で手に入るけど安定供給は叶わない。
革から派生した副産物で元を辿れば革の一部だけど、革と床革は別物として扱わなければならない。
これが床革です。
とのことである。
今回のワークマンのスタンスミス風味のこの靴は、実にうまく安値で販売できるように思想設計がなされている。
まず、安値の床革を使用していること。そして、表面を樹脂コーティングすることで耐久性を高くしていることである。さらに「床革」とはいえ合皮ではないため、革に詳しくない人からすると「本革」の仲間と感じられることで3500円という販売価格が割安に見えるという効果もある。
さらにいえば、有象無象の怪しいサイトが「本革」と偽って売っていることとは一線を画して、床革の詳細な説明は無いものの、きちんと床革と素材明記して販売している点も上手いといえる。
今回はたまたま床革が気になってつらつらと書いてきたが、このような誤魔化しや説明省略、果ては「嘘の神話の構築」などは革に限らず、アパレル・繊維製品にも多々あり、メディアもその片棒を担ぐことが少なくない。
やはり、用語は適正に使用し、良心的な業界人はそれを徹底し世間に広く発信する必要がある。
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トッズのドライビングシューズをどうぞ~
comment
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読者 より: 2023/03/23(木) 9:34 PM
ワークマンの実物見てないので憶測だけど、
バッグでトコ革っつーと合成皮革の原料に天然皮の素材を使ったよみたいな感覚。
南さん説明の後者の方です。
だからすごく丈夫です!みたいな接客をバッグ屋はする。
よーは合成皮革ですと内心思いながら。南さんの説明文の前者での商品への使用例はないんじゃないかなぁ?
おそらく耐久性がなくて商品クレーム来るんじゃないかと思う。
靴の中敷に使うなら他の部材の方が良いような気がするけど
自分は靴は詳しくないので実際には使用例あるのかも知れない。
またコーティングするよりも粉末にして樹脂に混ぜた方が安上がりで使い勝手も良いように自分は思う。
ワークマンの最新技術でトコ革にコーティングするハイテクなんかも知れんけどねwとりあえずバッグ業界ではトコ革はリアルレザーとは区別してますな。
でないと牛革の接客の時困るので。
安物売るより高単価のモノ売る方が大切です。
偶に男性客でトコ革って何?としつこく迫るお客さんいたのが印象に残ってます。
ここの矛盾をハッキリさせたいんだろうけど、そんなに拘るなら高い牛革買えと思うわな内心wこのワークマンの例は実際苦し紛れの宣伝文句のようにしか思えませんなぁ。
エコレザー表記で良いと思うけどありきたりになっちゃって訴求力が低いと判断したのかな思った。
でも南さんはよく調べていて流石。ワークマンの担当者よりトコ革理解してそうw -
南ミツヒロ的テキトー主義者 より: 2023/03/24(金) 10:25 AM
南サンがいろいろ調べて書いてるらしーけど
めんどくせーのでどうでもいーやwwwそれよかフィーリングwで
茶のほうはオンオフ両用で使えそうただ色味が重いからな~
かといってシロは汚れが目立ちすぎ
ちう訳で、シーズン落ちした頃に
茶を1足お試し購入で決定スペックよか見かけと値段
それが重要ですw実売5千円以下のオール革なズックって
まずない訳で・・・その点、この商品は貴重です
スタンスミスやAF1に使われるような革は表面に樹脂と顔料がこってり乗っていてそこにエンボスで型押しして柄をつけているので質感は案外スプリットレザー(床革)と大差ありません
ただスプリットは主にPUでコーティングするので耐用年数は大違いですが。