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南充浩 オフィシャルブログ

製造原価率の高低だけが衣料品の評価基準にはならないという話

2023年3月8日 製造加工業 0

先日、久しぶりにアパレルの原価率が云々という話題をSNSで見た。

個人的には衣料品に限らず粗悪な安物を高く売ることはどうかと思う部分もある。しかし、できるだけ安く作ったものをできるだけ高く売るというのも商売の鉄則であり、その商品やサービスが購入者から喜ばれて役立っていれば何の問題も無いこともまた事実である。

 

2月10日にユニクロUの春夏物が店頭入荷した。

その数日後に今シーズンの商品を見に店頭に出かけた。原材料費や燃料代・電気代の高騰の影響もあって販売価格は昨年物と同様にやや高めとなっている。

一方、使用素材を見てみると、やや品質は低下していると感じられる。春夏物というカテゴリーの中でも特に夏向けを意識されているという点もあるのだろうが、全般的に生地は薄めで軽い。また長袖は少なく半袖が多い。

夏向けに薄く軽い生地を多めに使用しているのかもしれないが、昨年春夏物や一昨年春夏物に比べると、安いと思われる空紡糸が多用されていたり、生地の織り密度が低いと感じられるため、生地品質は低下しているのではないかと感じられる。

だが、販売価格の割には現状を加味すると頑張っているとも捉えられるし、そういう生地感が好きだという消費者も多数おられるだろう。

また何度か着用や洗濯をしてみてもさほどに色落ちしなかったり、シルエットが大きく崩れたりしなければ満足感を覚える消費者も多いだろう。

要するに生地の品質なんて消費者にとってはそういう物である。

 

一時期、アパレルの原価率自慢みたいなことが流行った。

原価率50%をまるでコンセプトのように打ち出していたブランドもあった。まあ、そのブランドは今でも打ち出しているようだが。

だが、衣料品の原価率は一律に決められるものではないし、絶対的な価値でもない。

一口に原価率というが、原価率には製造原価率と仕入れ原価率がある。

製造原価率で言えば、大量に効率よく作ることができれば、上質な素材を使い縫製に手間をかけようとも原価率を下げることが可能である。逆に少量で非効率的な生産をするなら、粗悪な素材を使って縫製仕様を粗雑にしても原価率は上昇する。

ユニクロは1型何十万枚という大量生産によって、使用素材と縫製仕様の割には1枚当たりの製造原価を安く抑えて販売することができる。

逆に、良く分からないイキったブランドが意外に高い理由は少量生産であるが故という場合が多々ある。

 

以前にも書いたことだが、少量で非効率な物作りをすればするほど、製造原価率は高くなってしまう。極端な話、3枚の商品をOEM屋とODM屋と振り屋を10社くらい使って製造すれば、原価率は異常に高くなってしまう。

それを店頭販売価格3万円くらいで売れば、製造原価率70%くらいの商品が出来上がるという理屈になる。では果たしてこの「原価率70%」の衣料品が高品質なのかと言われると甚だ疑問である。

 

一方で、ユニクロのように1型50万枚くらいを生産すれば、そこそこ良い素材を使ってそこそこ凝った縫製をしても製造原価率は30%とか40%に抑えることが可能になる。

 

製造した物を仕入れて販売するわけだから、小売店には仕入れ原価と言うものも存在する。SPA型のブランドだと、製造原価と仕入れ原価は原則一致するはずだが、世の中はそう単純ではない。SPA型ブランドでも製造原価と仕入れ原価が異なる(仕入れ原価の方が高くなる)ということは珍しくない。

 

食品も含めて世の中の製品はだいたいがこの理屈で生産されている。特に工業製品は大量に作れば作るほど1個あたりの生産コストが下がり、安く売れるようになる。

農作物であっても豊作が続けば1個当たりの価格は安くすることができる。逆に不作なら1個当たりの価格は高くなってしまう。

どうでもよい話だが、ガンダムのプラモデルも如実に価格に反映されている。

たくさん売れるだろうと見込まれている主役ガンダム機は大量生産されているから、他のわき役機体よりも価格が安い。144分の1シリーズの主役ガンダムなんて店頭販売価格1000円を下回ることも珍しくない。

あとは主役機の価格を意図的に安めに設定して、他のわき役機体も合わせて買ってもらおうというマーケティング戦略も垣間見える。

 

とはいえ、物の価値は製造原価だけで決まる物ではない。

例えば自動車でいうと、ドイツ車は高性能だから高価格でも売れているが、それほど高性能ではない国の自動車でも高値で売れている者もある。とすると、そういう自動車は性能以外の何かを評価して高値で購入する物好きファンがいるということになる。

原価。 | ulcloworks

まあ、いつものようにタイトルだけでは分かりにくい山本晴邦さんのブログである。

 

一方でさ、なんでもないTシャツだって、やるやつがやりゃ1万でも喜んで買う人がいる。これを安く作れたものでも高く売れる的な言い方しちゃうとまた「奴らはぼったくり」みたいなのも出てきちゃう。

そうじゃなくて、価値を認めてくれる市場を開拓していると思えば、それは然るべき努力と諦めない才能を認めざるをえないんじゃないかなと思う。

 

衣料品の場合、製造原価は工業製品よりもわかりにくい側面が大きい。そうなると、例えば自動車や機械製品よりも価値がわかりにくい。当方なんて衣料品の付加価値なんてさっぱりわからない部類の人間だから、金持ちになっても高額ブランドを欲しいとは思わないし、ユニクロやジーユーあたりの製品でまあまあええんちゃうの?と思ってしまうわけである。

厳密に製造原価を追求するよりも衣料品においては、高値で売りたいなら、そういう「付加価値づくり」が重要ということになる。この付加価値づくりが上手いのが、欧州のラグジュアリーブランドだろう。

 

 

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