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南充浩 オフィシャルブログ

工場発のDtoCに「無敵の必殺技」は存在しません

2023年2月10日 ファッションテック 1

すっかり、洋服販売の一手段として定着した感があるDtoCだが、大きく2つに分類できると当方は見ている。

1、芸能人やタレントも含めたインフルエンサーのネット直販ブランド

2、工場や製造業者によるオリジナルネット直販ブランド

である。

どちらも一括りにされるが、内情は大きく異なる。

 

DtoCという言葉がメディアに登場した際、当方が期待したのは2のブランドだった。インフルエンサーのオリジナルブランドなんてすでにSNS普及以前から「読モブランド」「タレントブランド」の乱立で腐るほど見飽きている。

しかし、メディアが採りあげやすいのは1で、長続きするかどうかは別として瞬間的な売上高を稼ぎやすいのも1だったので、現在、本場のアメリカではどういう位置づけになっているのかはわからないが、日本でDtoCというとインフルエンサーのネット直販ブランドというふうに捉えられている確率の方が高いのではないだろうか。

最近ではインフルエンサーを目指す人(早い話が一般人)が「DtoCやりたいんすよ」とおっしゃるようなことが増え、当方も相談を受けたことがあるが「やらはったらええんとちゃいますか?」としか返事ができない。なぜならDtoCをやるのに何の資格も必要ない。カネと商品供給ルート(製造も含む)と販売力さえあれば誰でも明日から開始することができる。

当方に相談されたところでそれ以外に返す答えはない。

 

当方が当初期待していた2だが、こちらは急成長しにくい。おまけに地味である。

別段ネット直販に限らず、工場や製造関係者が立ち上げたファクトリーブランドはなかなか大規模には成長しづらい。この10年間でメディア上ではそこそこ著名になった企業でも実際の売上高はそんなに大きくないし、営業利益がどれほどあるのかは謎であるという場合は多い。また、業界の裏話をかき集めると、メディアに特集された某製造系企業が、工賃の支払いを一方的にジャンプしたとかそんな噂も掃いて捨てるほどある。羽振りが良さそうに外野からは見えても内情は火の車というのが珍しくないのが、繊維・アパレル業界である。

先日倒産となったホープインターナショナルなんかもその一例だといえる。

 

そういう状態なのでいざDtoCを立ち上げたはよいものの、売上高は当初に期待していたほど伸びず、ウェブにまつわる様々な業務(ささげ、SNS対応など)が負担になってきて、DtoC活動を縮小したりやめてしまったりという工場や製造関係者をこれまで数多く見てきた。

そんな中、先ごろ掲載されたこの記事は、工場系DtoCブランドのリアルを伝えていると思うので高く評価したい。

 

創業90年以上 BtoB向けニット工場ノグチニットが自社ブランドを立ち上げたワケ (1/3)|ECzine(イーシージン)

 

創業当時より大手スポーツメーカーの下請け一本で経営を続けてきたが、2012年からはオリジナル商品を開発しECでの販売をスタートさせた。社員9人でBtoBとD2Cを運営する裏側とは。

とある。

スタッフは9人しかいないということはよく覚えておいていただきたい。

「初期投資する余裕がない状況で広告も出していなかったのですが、minneとCreemaで1シーズンに300万円の売上を立てることができました。ただ、最初はその結果がどの程度の位置なのかもわかりませんでした。そこで、楽天市場で成果を上げている靴下メーカーの方に直接話を聞いたところ、『広告なしで1シーズン300万円ならもっと伸びるはず。まずは通年販売をしたほうが良い』とアドバイスをもらいました」

とのことで、2つのサイトを使って1シーズンで300万円の売上高ができた。1つのサイトの売上高は単純に考えると1シーズン150万円ということになる。(実際は等分ではないだろうが)

この1シーズン300万円という「売上高」を多いと捉えるか少ないと捉えるかだが、記事中に靴下メーカーが話しているように「1シーズン300万円なら上出来」なのである。

後半を読むには無料会員登録が必要となっているが、良記事なのでご一読をお勧めする。

 

社員9人のブランドなので、売上高は急速に伸びることはない。製造業が急成長するためには必ず、機械設備の増設と人員増が必要となる。そこを投資するかしないかは大きな経営判断だが、当方なら絶対にしない。機械設備の増設も人員増もそれぞれ年間何千万円単位の投資が必要となり、国内のアパレル業界の環境を考えるとリスクが高すぎる。それだけのリターンは難しいだろう。今の設備と人員のままで売上高を増やせるだけ増やすと判断する。設備投資も人員増も検討するのはそうなってからである。

 

プロのカメラマンとモデルに依頼して行う追加撮影のコストは、1回あたり15万円から20万円程度だそう。この金額を売上で回収できる場合は、投資に踏み切るといった具合だ。自社ECで販売する商品も、CtoC販売時に商機があると判断したものを展開している。

「アパレルは、過剰生産によって苦しくなった業界だと思います。商品がどれだけ売れていても、過剰な投資を行い、在庫を抱えすぎた際には容赦なくつぶれると身をもって感じました。このやりかたでは大きな飛躍は見込めませんが、少しずつ売上を上げていくことはできます。緩やかな上昇曲線を描くのが理想です」

とあり、この慎重な姿勢が10年間生き延びてこられた最大の要因だろうといえる。

また、ウェブ、SNSとの距離の置き方もかなり適切である。

この慎重さに加えて、小規模でECを運営していくには「裏側の整備と他社に影響されすぎないこと」が重要だと裕子さんは続ける。

「他社がメルマガ配信やSNS投稿を頻繁にしていると、『自社もやらなければ』と焦ってしまいがちですが、リソースや予算が少ない状態でのメルマガ配信やSNS投稿は大きな負担になります。そのため、当社ではすでにノグチニットを見つけてくれているお客様への対応と、スムーズなEC運営体制の構築を優先してきました。

 

とある。実際に小規模業者から相談を当方も受けることがあるが、彼らは決まって「WebやSNSに手間がかかって難しい」と言うのだが、自社のリソースに合った頻度でやれば良いと返しても、実行する業者は数少ない。記事中にあるように「大手他社と同じペースでやろうとして失敗する」か「まったくやらなさすぎて失敗する」か、ということが多かった。

表層的には景気の良いインフルエンサーDtoCブランドに目を奪われがちだが、工場・製造業系DtoCブランドはコツコツと地道に継続し続けるということ以外に成功への近道がない。波動砲やコロニーレーザーみたいな「無敵の必殺技」では決してないということを念頭において細く長く年越し蕎麦のように取り組んでもらいたいと思う。

 

 

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  • とおりすがりのオッサン より: 2023/02/10(金) 11:53 AM

    【プロのカメラマンとモデルに依頼して行う追加撮影のコストは、1回あたり15万円から20万円程度】

    これは、払い過ぎなんじゃないんすかね?
    今、趣味で素人カメラマンがモデルさんを撮影できる「撮影会」が結構盛んなので、そういうモデルさん(プロモデルじゃなく撮影会に出るだけのモデルさん)に衣装を提供すれば、無料でそこそこ綺麗な写真撮ってもらえると思いますよw
    ま、プロカメラマンじゃないですが、上手い人も多いので使える写真もあるんじゃないかなぁ?あとは、撮影会主催者と共同で衣装提供とかもありかもw

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