お直し事業に特化した時点でホープインターナショナルの命運は尽きていたという話
2023年2月3日 企業研究 8
何を書こうかといろいろと悩んだが、前回にも取り上げたホープインターナショナルワークスの倒産と、お直しビジネスについて再度まとめてみようと思った。
実際、こんなにくどくどと書く必要はないのかもしれず、賢明な読者の方々ならとっくにご存知のことも多いかとは思うが、世の中、念には念を入れた方が良いこともあるのでご容赦いただきたい。
繰り返しになるが、概要は以下の通りである。
ホープインターナショナルワークス、自己破産申請へ | 繊研新聞 (senken.co.jp)
同社は10年6月設立。紳士服のOEM(相手先ブランドによる生産)企業としてスタートし、婦人・子供服など扱い製品を拡充するとともに、東京や大阪のアパレル、商社など取引先を開拓。16年に開始した衣料品リメイク事業が拡大し、19年5月期には売上高がピークとなる29億6841万円を計上した。
しかし、利益面は経費先行のため低調で、同期には同社従業員による不正が発覚し、その処理費用などから6534万円の赤字に転落していた。
以降、不採算取引の大幅縮小やコロナ禍の影響で売り上げを急激に減らし、21年5月期は7億8777万円まで落ち込むと、営業損益段階から2億円超の赤字で債務超過となり、厳しい経営に陥っていた。
22年7月にはOEM事業から撤退し、リメイク事業のみとなって事業再構築を進めていたが、先行きの見通しが立たなくなり今回の事態となった。
とのことである。
まず、衣料品OEM生産の事業というのは、それほど高い利益率ではないことが前提としてある。多少の製造加工やオリジナル製品の企画製造にかかわっておられる方なら常々体感しているのではないかと思う。例えば、店頭販売価格1万円の衣料品を製造するにあたって、ブランド側はだいたい良心的に見積もると3000円くらいの製造原価を想定している。今のご時世だと2000円とか1500円くらいの製造原価を想定しているだろうか?
このうち、OEM業者のマージンは業界相場としてはせいぜい数百円ではないかと思う。500円は越えないだろう。
一口にOEM屋と言っても、仕事を工場や業者に振るだけで終わる「振り屋」と、工場に対しての生産管理や資材集め、別工場の手配などまで行う「実務型」に大きく分かれる。
振るだけで200円・300円が稼げるなら楽な商売だが、生産管理や資材集めまでを行うとなると200円・300円程度の儲けでは割に合わない。
業界共通認識はざっくりとそんな感じである。
そして、コロナ禍以降の物流網の乱れによる物流コストアップ、原材料・燃料代・電気代の高騰によるコストアップなどが加味され、さらに収益性は悪化しているというのが、衣料品OEM(ODM含む)業界の大まかな構図といえる。
そのため、効率的に考えれば、OEM事業の撤退ということはある面で理には適っている部分がある。
だが、その代替案が洋服のリメイク・お直し・リフォーム事業というのでは、売上高という点においては全く穴埋めにもならない。
ホープインターナショナルの自己破産は今年1月末だが、その命運はお直し事業に特化した昨年7月の時点で尽きていたといえる。
ホープのお直し店は公式サイトによると1月末の時点で8店舗である。この8店舗で例えば21年5月期の7億87000万円の売上高を稼げるかというとそれは無理だろう。なぜなら、この7億8700万円の売上高にはOEM事業の売上高が相当数含まれているからだ。
昨年11月末~12月頭にかけて、インテックス大阪で開催された縫製機器などの総合展示会JIAMで、ホープインターナショナル社長の講演が行われていたというが、その講演で配布された同社の資料には、お直し事業の売上高が1億円弱と記されていたという報告を知人からいただいた。そして22年5月期で微増して1億円となっている。
ということは、企業維持のためには少なくとも4億円程度は増収させなければならないと考えられる。21年5月期の売上高まで回復させるためには6億8700万円の増収が必要ということになるが、それほどの増収を短期間のうちに既存のお直し店舗だけで実現することは不可能である。
理由は、お直しにそれほどの大量の需要が無いからだ。またお直しの料金もそれほど高額ではない。
売上高というのは、どんなに崇高な理想を掲げたところで、単価×数量でしか実現できないから、どちらかを伸ばすか、両方を伸ばすかでしか増収することはできない。
OEM事業の利益率は確かに低いかもしれないが、受け付ける数量がお直しとは段違いである。1型100枚を標準として考えて、1ブランドあたり30型を受注すればそれだけで3000枚の受注量となる。これが5ブランドなら1万5000枚、10ブランドなら3万枚ということになり、これが最低でも年に2回、多ければ年に6回くらい発生すると年間の取り扱い枚数は最低でも3万枚、最高だと18万枚くらいということになる。
一方、お直しはどうだろうか。当方はここ10年間、洋服のお直しを利用したことがない。
仮に利用したとして、年に1度あるかないかである。恐らく多くの人も年に1回か2回、最大利用しても年に3回か5回程度だろう。
そして、わざわざお直しするという服(和服も含む)は
1、高い値段で買って捨てるのが惜しい服
2、何らかの思い出のある服
3、よほどデザインや色柄が気に入っている服
くらいに限られてくる。
例えば、当方が普段買っているようなユニクロの値下げ品、ジーユーの値下げ品ならお直しするより買いなおした方がはるかに安く済む。
そして、多くの人がそんなにたくさん何枚も1~3のような服を所有してはいないだろう。そうすると畢竟、お直し店の受け付ける枚数というのは少なくなる。増収するならよほど広範囲から客を集める必要があるが、それこそわざわざ交通費(ガソリン代も含む)まで支払って服を1枚・2枚直したいという人などそんなに存在しないだろうから、広範囲に商圏を広げても効果は薄いだろう。
お直し店での大手の1つというと、フォルムアイという会社になると思うが、フォルムアイは自社サイトによると全国245店舗となっている。
会社概要 | 裾上げ・洋服のお直し・リフォームならフォルムアイ (form-i.co.jp)
肝心の年商は非公表なのだが、このサイトによると
株式会社フォルムアイのキャリア・企業情報 | Indeed (インディード)
27億~110億円となっている。
27億~110億円というのはちょっと誤差がありすぎるが、245店舗で考えると、1店舗当たりの年間売上高の範囲が見えてくる。
売上高27億円の場合だと1店舗あたりの年間売上高は1100万円しかないということになる。110億円の場合だと1店舗あたりの売上高は年間5000万円強ということになる。
お直し店1店舗の年間売上高の相場は1000万~5000万円ということになり、ちょうどホープのお直し店も8店舗で1億円なのだから1店舗あたりの年間売上高は1200万円ほどということになりちょうど符号が合う。
お直し店1店舗あたりが劇的に売上高を2倍・3倍に伸ばすことは不可能なので、増収するためには新規出店を繰り返す必要性がある。しかし、すでに債務超過に陥っていたホープには新規出店を積極的にできる資金的余裕はなかっただろうし、融資する金融もなかっただろう。
そうすると、お直し事業に特化して企業再建を図るというのは、現有店舗数のままで売上高を維持し黒字化を図るという超スモールビジネスを目指さざるを得ないということになる。
前回のブログでは多数の業界関係者からご意見・情報を頂戴したが、その中に
「エスディージーズ云々で、お直し・リフォーム事業にバラ色の未来があるみたいな風潮が一部のメディアにあるが、それは危険ではないか」
という主旨のものがあった。
当方も同感である。
くだくだと述べてきたように、お直し店1店舗あたりの年間売上高の相場は1000万円程度なので、店舗数が少ないと全社売上高は数億円程度のスモールビジネスに終わらざるを得ない。ある程度のスケールを実現したければそれこそフォルムアイのように200店舗体制が必要ということになるが、200店舗体制はおいそれとは構築できない。
数ある事業の中の1つとしてお直し事業を取り組むことはありだが、それに全集中してしまうというのは、少人数体制のスモールビジネスでないと不可能ということである。
お直し事業への特化を決めた際、ホープインターナショナルの社長はスモールビジネス構想を持っておられたのだろうか。
その辺りはいずれ機会があるのなら(なさそうだが)尋ねてみたいとは思っている。
仕事のご依頼はこちらからお願いします~↓
comment
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南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/02/03(金) 4:17 PM
モッタイナイECOなんちゃら思想と新業態を
強引に結びつければ、集客はできますただし、その集客とはセミナーの集客であってww
実店舗の集客ではないもう100億回ぐらい言い古されていますが
「市場規模にあった業態の商いを」という事ですなぁオール国内で完結するOEM屋ODM屋の必要量は
日本国内にはせいぜい3社で十分ですそして、今のセレクトで売ってるものは
JKTはもちろんパンツの丈直しすら不要なように
設計したスタイルの物が大半ですこうした事実を踏まえた上で、
百貨店やセレクトに出店したのでしょうかね?南サンの秀逸な分析であるカジュアルのルーズフィット化
実はそれが高額ゾーンの服でも確実に浸透しています
ただ、見かけがルーズでないから気づかない人が多いだけアンコン仕立てのJKTで、わざと袖を折り返して
着れるようになっている物などがその典型です -
南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/02/03(金) 4:51 PM
>「次世代の洋服のお直し屋」をコンセプトに掲げ
>併設カフェでこだわりのスペシャルティーコーヒーを飲みながら
>ライブ感覚でミシンワークが楽しめるショップなんだそうです。どうします?このカン違いっぷりwww
利益率が極めて低く、市場がこれまた薄い世界では
以下のコピーが正しい展開図だと思います・その場で3分!衣服用接着剤を使った即席リフォーム!
・価格は丈詰め裾上げ300円から!!
・押し売り屋経由のウォーターサーバーの水飲み放題!!そして、店舗は最大3坪。スタッフはバイト1人
ただ、これでも薄い商いだから成り立つかどうか
甚だ疑問ですカケハギ?ナニその日本語? というのが今の若者
ボタンが外れたら捨てるというのが
今どきのスタンダードですあ、それ以前にコートはファスナー主体だし
JTKのボタンは今や飾りですもんねぇw当たり前ですが、潰れる会社は潰れる事しか
やっていませんな・・・ -
南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/02/03(金) 5:15 PM
>アパレルに勤務している人間はオサレ好きなので
>電灯に引き寄せられる蛾のように
>オサレな業者に引き寄せられてしまうという習性がある。>アパレル社員は平均的な通常の製造業者やOEM業者を
>「こんなダサい人に任せて大丈夫なの?」と思ってしまいがちだこのあたりをきちんと踏まえてOEM事業をスタートさせたのは
本当にかしこいただ、与信の事は考えなかったのかな?
業者間の価格差はたかが知れてますから
メンドクセーから、糸ちう様にぜんぶ頼んじゃえー
となって然るべきですしかし、すけすけガラス張りの向こうで
スペシャリテ-コーヒーを飲みながら優雅に雑談~
するのに負けたんでしょうなぁ・・・接待の1変形だと思います
「OEM屋がアパレルを接待して受注を得るには
オフィスを洗練させてオイシイコーヒーを出せ!」これが今回の重要な教訓だと思われます
ただね、OEMとはいえ、少しずつでも工業生産品としての
衣服の実用性・品質を向上させる事はできるはずですしかしこういう地道な努力をしている会社を私は1社しか
しりません。そう、ウニクロです -
読者 より: 2023/02/03(金) 7:17 PM
高級お直しだと銀座のサルトが老舗で今もあるのかとググったら伊勢丹メンズ館と取引しててビビったw
サルトは昔でも有楽町阪急メンズの外資ハイブランド直営店が
難易度高いお直しで困ったらここへ持ち込むくらいスキルが高い。
自分も過去数万かけてJKお直しを頼んだが、
わざわざパターン作成しバラしたJKを裁断し仕立て直すという
そこまでするなら安くない?というような凄技だった。
伊勢丹メンズが取引するのも当然のレベル。
ここまでやると高単価だけど、それは富裕層か服マニアでパターンの価値を理解できる層に限られる。
自分も服飾専門行ってJKのパターンは書いたことあるから価値は理解できた。
一般にはバカが金をドブ行為でしょうwこういうのはマーケット小さいから小規模にやるものであって、
お直しで高単価というのは南さんの言う通りで夢物語だと思う。
リペアはビジネスにするのが難しい。
バッグのお直しとかも出来ないこと多くて気軽に受けると仕上がりでトラブルなるからね。 -
大阪のオバチャン より: 2023/02/03(金) 9:46 PM
私がホープインターナショナルに面接に行ったのは2019年。
一番儲かっていた頃なんですね。
その頃、私は仕事を探していて、他の会社の社長に紹介してもらって、ホープさんの所に行ったんです。
面接では、英語が出来る人材を探しているとのことで、私はマッチングしませんでした。
ビジネスを外国に展開しようと思っていたのでしょうかね?
お直しはスーパーの片隅で、オバチャン一人でやってるぐらいじゃなと、利益はでなさそう。 -
BOCONON より: 2023/02/03(金) 11:09 PM
男で洋服お直しの店を利用する人はそんなに多くない…いや,ご婦人方でもそう多くはないから,僕の住んでいる地方都市だと次々閉店している。昔池袋西武の紳士服売り場にあったリフォーム専門コーナーなどもとっくになくなった。いくら全国展開と言っても “お直し専業” の会社なんて,どう見ても新しく始めるような事業じゃありませんね。
お直しと言えば,おばさんばかりでやっているようなお店は紳士ものの直しは技術的に難があるので,僕は近所のもともと背広の仕立て屋さんだったところ(が小遣い稼ぎ的にやっているような)に頼むようにしています。でもそういうところはどこももう店主が高齢なので,いつまで頼めるものやら。そもそも紳士服で “お直し” と言ってもできる事は限られている気がする。僕の経験だと成功例は――
▷スーツ,ジャケットのズボンの適正な丈は案外むつかしくて,販売員に言われるままにしていたら,気が付くと大方は長すぎるので一時まとめて直しに出した。
▷古いネクタイが今のスーツやシャツの襟幅に合わなくなったので,幅をつめてもらった。ああいうものは10年周期くらいで広くなったり狭くなったりする。でも体格からして大体いつの時代のスーツやシャツにも合うようにできた気がする。
▷僕は腕が短いけれど,百貨店ならまだしもユニクロや無印良品でシャツの袖詰めを頼むのは気が引けるので,自分で直しに出す。本格的に直すと手間もお金もかかるので,単に短くするだけの雑な詰め方でまあ良しとする。失敗したのは,スーツやテイラード・ジャケットの肩幅を詰めたり,胴の絞り具合を変えたとき。何だか全体のバランスがおかしくなってしまった。こういうのは “南ミツヒロ的合理主義者” 氏の言う通り,いったんバラバラにして仕立て治すくらいでないとダメですね。これまたそこまでして古いジャケットなど着たがる人は大都市でもそんなにはおるまい,ですが。
かくしていろんな意味で――南さんの言う通り――こんな仕事がお金になるとはとても思えませんね。
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通りすがり より: 2023/02/16(木) 5:53 PM
OEM屋の利益が薄いのは、ロスが大量に発生する点がある。
チャーハンを1杯作るのに、米30kg・塩5kg・タマネギ50個とか、必要な全ての材料を業販単位で買うわけです。
表地の反単位で受注をもらったとしても、スレキや接着芯が20m残るとか、1000個単位で仕入れたボタンが400個残るとか、目に見えないロスが薄利をさらに圧迫する。
アウトドアのような、配色や資材が多い商品はロスはさらに倍々で増加する。
A品しか引き取ってもらえないので、洗い加工のあるものはB品のリスクも少なくない。
営業担当者はロス率数%を機械的に入れただけの見積りを作って、ちゃんと利益出してまっせと胸を張るも、最終的に利益がどれだけ残ったかは誰も知る由もない。
そうして、注文が多いOEM屋ほど、小ロットを引き受けるほど、気付かぬうちに資金が枯れ、倒産する。
天神橋のフォルムアイ本社に行ったとき
おそらく中国からの実習生らしい2人がエレベータ内で
自国の言葉で会話していたら
人事部長が「日本語で話しなさい」
とキツく指導していましたね
そりゃ 謀反の計画しているかもしれませんから
それぐらいやってもいいと思いますが
と 今回もコラムと全く関係ない内容を書いてしましました