アパレルOEM業者の期待の新星だったホープインターナショナルの倒産に見る業界の問題点
2023年2月2日 倒産 13
OEM・洋服リフォームのホープインターナショナルワークスが倒産した。
数年前まで好調企業として業界内では噂されていたから驚きである。ただ、2020年以降はさっぱり噂を聞かなくなっていたから、今から思うと内情はかなり厳しかったと推測される。
各種の報道を見てみよう。
ホープインターナショナルワークス、自己破産申請へ | 繊研新聞 (senken.co.jp)
信用情報によると、ホープインターナショナルワークス(大阪市、高村三礼社長)は、1月31日で事業停止し、自己破産申請準備に入った。
同社は10年6月設立。紳士服のOEM(相手先ブランドによる生産)企業としてスタートし、婦人・子供服など扱い製品を拡充するとともに、東京や大阪のアパレル、商社など取引先を開拓。
16年に開始した衣料品リメイク事業が拡大し、19年5月期には売上高がピークとなる29億6841万円を計上した。
しかし、利益面は経費先行のため低調で、同期には同社従業員による不正が発覚し、その処理費用などから6534万円の赤字に転落していた。以降、不採算取引の大幅縮小やコロナ禍の影響で売り上げを急激に減らし、21年5月期は7億8777万円まで落ち込むと、営業損益段階から2億円超の赤字で債務超過となり、厳しい経営に陥っていた。22年7月にはOEM事業から撤退し、リメイク事業のみとなって事業再構築を進めていたが、先行きの見通しが立たなくなり今回の事態となった。
とのことで、別の報道では、
ホープインターナショナルワークス(株)(大阪)/自己破産へ 服リメイク 倒産要約版 – 倒産情報-政治経済・時事・倒産情報 | JC-NET(ジェイシーネット) (n-seikei.jp)
しかし、従業員による数億円の横領事件が発覚、同社は生産コスト増に採算性が悪化していたファッションのOEM供給を止め、お直し店舗の運営に絞った経営に移行していた。
ともあり、従業員の横領が数億円単位に上っていてそれによる赤字転落が直接的な倒産の最大要因の一つといえる。(複数の業界人から数億円という金額よりは少ないのでは?という指摘があったことを補足しておく)
さて、当方も1度、ホープインターナショナルワークスの社長と、たしか2017年秋の東京展示会でお会いさせていただいたことがあった。その後、全く親交は深まらなかった、当方のフェイスブック友達には、繊維製造業者や業界メディア記者が多くいて、彼らとは当方よりははるかに濃密な親交があったようだ。
なので、業界の外野が集めた噂、状況証拠、環境背景などから今回は考えてみたい。
繊研新聞の記事にもあるように、2010年設立なので、衣料品OEM業者としてはかなり後発である。
後発にもかかわらず、当方が長年お世話になった業界の先輩から「伸び盛りのOEM屋がある」と教えらえたのは2015年のことだったと記憶している。
飽和状態となって久しい衣料品OEM業界にわざわざ新規参入してわずか5年後に「伸び盛り」と噂されるまでになるというのは、IT関連ならいざ知らず、衣料品の製造関係ではかなり珍しいケースだといえ、本当に当時は破竹の勢いだったということがわかる。
その理由は、先輩によると
「社内にミシンを設置しており、サンプル製作(本生産ではない)やサンプル修正なら3日ほどでやってくれて、他のOEM業者やOEM商社に比べると圧倒的にスピーディーで、そこが重宝されている」
ということだった。(2015年当時)
そして2016年には、その社内のミシン設備を利用して、洋服のお直し・リメイク事業を開始した(先輩談)わけである。
これはかなり上手いところに目を付けたものだと当時感心した。今でもアイデア自体は素晴らしいといえる。
そして、ホープインターナショナルが閉塞感しかないOEM業界の希望の新星と衆目を集めたのが、百貨店内へのお直し店の出店である。倒産してもまだ自社サイトが閉じられていないのでリンクしておく。
https://hope-inter.co.jp/topics/hiw-interview003/
今回のテーマは弊社が運営している洋服お直し&リデザインのお店「Salon du reDESIGN Closet.net」の関東進出についてです。「2018年6月にオープンしたSDRC.net西武池袋店とそごう千葉店の魅力」を統括店長の谷に語ってもらいました!
とある。2018年8月の記事である。
今話題のそごう西武に2店舗出店したわけだが、今に始まったことではなく、そごう西武の業績は2000年代前半からずっと厳しかった。そのため、新規出店のハードルは低かったのだろうと考えられる。逆にそごう西武からすると、新規参入点を増やすことで他百貨店との差別化を果たせると考えていたはずである。
この百貨店への出店以外にもおひざ元である大阪・堀江にソーイングショップを構え、その後、東京にも出店。現在のサイトではアーバンリサーチ京都店内などにも出店していたことがまだ掲載されている。
https://hope-inter.co.jp/lab/
このソーイングラボの画像を見ていただいてもわかるように、ホープインターがアパレル界隈から急速に支持を集めた理由は「サンプルが速い」ということ以外に、「オシャレな見せ方」にもあったといえる。
2017年秋の東京展示会も拝見したが、展示会の陳列内装もオシャレであり、一見するとOEM屋とは分からない。そこそこイケている(めちゃくちゃイケているわけではないが)新進アパレルブランドの新作展示会という雰囲気だった。また自社サイト内で登場しているスタッフもオシャレ感があり、製造業・OEM屋のスタッフというよりもアパレルのショップスタッフという雰囲気を醸し出している。
基本的に、アパレルに勤務している人間は、オシャレが好きなので、まるで電灯に引き寄せられる蛾のように、オシャレ感のある業者に引き寄せられてしまうという習性がある。
通常の製造業者やOEM業者は、モサっとした風貌・服装の人間が多い。そのため、アパレル社員はともすると(決して全員ではないが)「こんなダサい人たちに任せて大丈夫なの?」と思ってしまいがちなのである。特に生産に詳しくない社員のほとんど、9割くらいはそう思っていると感じる。(実体験の上で)
だが、ホープインターの場合、経営者以下スタッフ全員がそこそこイケており、ソーイングラボもカッコヨクできている。だから、アパレル各社は誘蛾灯に引き寄せられる蛾のように、設立からたった数年のホープインターへの支持を厚くしたと考えられる。
ちなみに「ガイアの夜明け」にも19年7月に特集されている。
https://hope-inter.co.jp/topics/%e3%83%86%e3%83%ac%e3%83%93%e6%9d%b1%e4%ba%ac%e3%80%80%e3%80%8c%e3%82%ac%e3%82%a4%e3%82%a2%e3%81%ae%e5%a4%9c%e6%98%8e%e3%81%91%e3%80%8d/
ガイアの夜明けで特集された繊維関係の会社はけっこう倒産している。
共通しているのは自己演出が上手くキラキラ感を出せている点である。「厳しい繊維業界にこんなキラキラがある」という観点でテレビ局は特集放映する。しかし、そんな上手い話はこの世の中には存在しない。自己演出が上手い繊維業者も内情は火の車という場合が多く、せっかく放送されたのに倒産してしまうということになる。
根本的な問題もある。
先に紹介した倒産記事にもあるように、根幹事業である衣料品OEM生産の利益率が悪いという点である。これはこの会社に限ったことではなく、衣料品業界全体に共通した問題である。
横領によって債務超過となり、昨年7月には利益率の低いOEM事業から撤退しリメイク店に絞った、とあるが、洋服のお直し・リメイクでは単価と数量がたかがしれているため、売上高は稼げない。先行支出がほとんど不要なお直し・リメイク事業に絞ったとて業績が上向くはずもなく、お直し・リメイク事業に絞った時点で命運は尽きていたといえる。
生産に詳しくないアパレル社員に受けそうなスタイリッシュなスタッフと店構えで、OEMの注文を集めるという手法は上手いと感じさせられる。苦戦している縫製業者やOEM業者は真似てみてはどうか。
しかし、その一方でOEM事業の利益率は低いという業界全体の問題点があり、これは22年の原材料・燃料費・電気代の高騰以降さらに厳しさを増している。
安値だが大量生産品を手掛けているOEM大手商社ですら最早悲鳴を上げている状況にある。
OEMを飛ばして直接縫製工場とやれば良いという人がいるが、工場への指示業務をやったことがないスタッフがいきなり商社や専門業者と同等の指示・管理などできるはずもなく却って時間と労力と費用がかさんだというケースが後を絶たない。
新星のごとく現れ、流星のごとく一瞬で消え去ったホープインターナショナルワークスの軌跡に業界各社は学ぶ点が様々あるのではないかと当方は感じる。
仕事のご依頼はこちらからお願いします~↓
comment
-
-
南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/02/02(木) 12:19 PM
にしても、ですよ
「服にわヒトをしあわせにするチカラがある」
とか
「リフォームではない!リデザインだ!」
とヌカしたところで、若者ばっかりだから
従業員の手取りは大半が10万台でしょうそして、全店舗常時従業員を募集中www
お疲れ様です
-
キムゴンウ より: 2023/02/02(木) 12:33 PM
そもそもリメイクしたいようなクオリティの高いというか
残したい服ありますの?
デニムをスカートに変換して喜んでたリメイクですかね?
クラファンで谷町のメンズフォーマルの奴をいっちょかみしたけれど
期間満了後どうなったのかな?リメイク・リフォームですが 結局は腕のあるシニア職人しかあてにならんでしょ
そういう人の方が コミュニケーションも高いですよ
以前 シニアリメイク職人さんに
死んだアボジの礼服のリフォームをお願いしたところ
「まぁいいサージやね…」とすぐに見極めて そこから服道楽の話に膨らみ
楽しい時間になりましたよ谷原章介さんが ユニクロみたいな安物という 核心をついた発言に
噛みつくお馬鹿さんがいるけど
ユニクロは安物なのは サイゼリアが安物であるのと同様で
鏡に映る姿が醜いと言って 鏡に怒りをぶつけるに似て
むなしい作業ですわな本コラムを楽しみにしている人は
美しい嘘より 醜い真実を知りたい
人だろうけど
アパレルを取り巻く人々は 学生から老醜まで
醜い現実より 美しい嘘に生きたいんじゃ無いですか
今頃UFOをすすりながら 高級メゾンとやらの 某にあこがれつつね -
大阪のオバチャン より: 2023/02/02(木) 2:55 PM
ホープインターナショナル…
聞いたことある名前だと思っていたら、以前に面接に行ったことがあったんです。
いつでも募集されていましたね。 -
南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/02/02(木) 5:13 PM
あ〜合点>スカートをパンツにリメイク
7、8年前、近所の自称「ろっぽんぎに店を
持っていたお直し屋」が盛んに宣伝しとったなぁもっとも自分が縫える訳でもなく
実態はただのリフォーム振り屋でしたけどねwちなみにその数年後、松屋でバイトしていた店主
に出くわした事があります。もちろん閉店済です総SPA化とネット普及以降、嘘はうそでも
実態皆無の空想レベルの嘘が当たり前になりましたねそういう時代の5万10万する服よりも
実態100%のウニクロGUで十分ですなぁ・・・
けど服は虚飾性がある程度は必要だから
実態実需100%の服だと飽きちゃうんだよな・・・その点、そういう商品をドンドコ買い続ける
南サンは偉いと思いますよウニクロもGUも私は半年に1回いくだけで十分です
-
南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/02/03(金) 8:53 AM
ゴンウさん>UFOもといU.F.O.すすりながら
シャケ弁がバブル以前ならU.F.O.は90年代半ばまでかとw
今どきこの業界にいる人をみていると
美しいウソもとい美しい夢の世界すら描けてないんじゃ?通路の人通りはソコソコだが店内はガランガランなルミネや
バカデカイ声をはりあげて福袋を売るコロスカンパニ〜の
女の子をみるたびにそう思います -
独身者 より: 2023/02/03(金) 11:01 AM
昨今「心斎橋リフォーム」という業者がファッショニスタに人気の様ですね。
-
とおりすがりのオッサン より: 2023/02/03(金) 11:30 AM
「心斎橋リフォーム」は、YouTubeとかでも露出多くて、関西のおばちゃんの代表さんは面白い感じですね。YouTube見てると結構うまくお直ししてるのもあれば、ズボンとかだと尻ポケットの位置がさすがに変だろ~と思うようなやつもありましたがw
-
別のとおりすがり より: 2023/02/03(金) 11:39 AM
以前デニムのSDGsなんかも話題になってたが、最近聞かないな。
同じ道辿るんだろうか・・・。 -
あ より: 2023/02/09(木) 10:09 AM
毎回自分の記事を正当化したいが為に自作自演のコメントお疲れ様ですw南構文ですぐわかりますw
-
バブルを生きました より: 2023/02/15(水) 4:47 PM
本当、人間って馬鹿ですから…
散々おカネを突っ込んだ後でしか
そこが「ドブだった」って気付かないんですよねで、気付いた後もそれを認めたくないから
なんだかんだと理由をつけて更に突っ込む…
いろんな業界でそんな人を見てきました -
南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/02/17(金) 5:38 PM
泡期経験者さま:
>ハマった後でないとそこがドブだときづかない月並みですが
・事業を始める前に、利益が発生しだすであろう
時間軸を定めておく
・上記ポイントに来ても利益が発生しないなら
即座に撤退する
・その後は、自分に事業をやる才覚がないと
認識を改め、どこかにやとわれて一生を終えるwとすればいいだけなんですけどねぇ・・・
事業をたちあげるだけなら、だれでも出来ますよ
-
がんばれ より: 2023/03/01(水) 7:50 PM
応援してます。本当に応援してます。匿名ですが、、知り合いの1人です。
秀逸な分析でした
ガラス張りのミシン部屋を作ろうが、
カコイイところに店舗を構えようが、
仕事の単価は一緒です
それがOEM業界でありリフォーム業界です
だからいかに低コストで現場を回すかが
重要なのに、カネがかかるところに
これまた無意味な広さで出店を繰り返したでしょう?
早晩行き詰まるのは目に見えていました
しかもコレクション物やムツカシイ素材や
パターンを縫える技術は皆無です
それとね、従業員の横領うんぬんは
本当ですかね?
億単位だとさすがに警察も無視はしません
実態としては数百万レベルじゃないのかなぁ
そして民事再生にいかないのは、
業界の誰しもがOEMやリフォームが有望な事業
だと思っていないからです