どの分野にもほぼ「残存者メリット」は存在するという話
2023年1月27日 企業研究 0
国内の繊維業の製造加工業者にはそれなりに知り合いがいる。
決して「多い」とは言えない。世の中、どの分野にも上には上がいて当方程度ではあらゆる分野で下層に居続けるのがせいぜいである。
とはいえ、当方の知り合い周りの雰囲気だけを総合すると
「何とかがんばって業務を続けて、何とか国内の製造加工業を再振興したい」
という雰囲気である。
しかし、繊維の国内生産が劇的に増えて、80年代の水準に戻ることはあり得ないと当方は見ている。
一方、メディアやコンサル、イキリ経済学界隈などでは
・「製造業なんてさっさと脱却して高付加価値産業(ITや金融など)にシフトするべき」
・「ゾンビ企業を永らえさせる意味はない」
という論調が主流となっている。
しかし、繊維の製造加工業の国内需要はゼロになることはないから、各業者が生き残ろうとするのは何の不思議もなく、逆に当然だといえる。
例えば、草鞋やフロッピーディスクのような完全に世の中から無くなってしまうような商品はともかくとして、衣料品でいうなら、国内生産の需要はゼロにはならない。
そうするとその時まで生き残った業者には残存者メリットが生まれる。
ただ、それがどれくらいの規模で、いつそうなるのかはちょっと予測できない。人間ができることといえば、それを信じてやり続けるか、早々に見切りをつけて成長産業(笑)へ転身するかの二択しかない。
小島衣料 海外工場オーダー活況、フル稼働続く | 繊研新聞 (senken.co.jp)
アジア各国に縫製工場をもつ小島衣料(岐阜市、石黒崇社長)は、「今年いっぱいは活況が続く」(石黒社長)と受注が回復している。同社は中国のほか、バングラデシュ、ミャンマー、フィリピンに自社縫製工場がある。オールアイテム生産が可能なことから、ロット数や納期、工賃に応じて工場を使い分けているが、「どの工場もフル稼働している」。
中でも、ブラックフォーマルはコロナ禍以降、各社が作り込みを抑え、流通在庫が減少していることから、引き合いが強い。現状では新規工場の立ち上げなどは予定していないものの、どこの工場も余裕があるため、必要に応じて縫製ライン数を増やしたり、効率を高めるなどで増産に対応していく。
例えば、今朝のこのニュースなんかは残存者メリットの典型だろう。国内事業ではないが。
コロナ禍によって冠婚葬祭が激減し、フォーマルウェアの需要は大きく減ったが、フォーマルウェアの需要と着用シーンはゼロではない。
そうすると今残っているメーカーに注文が集中することになる。
実際、当方の父はコロナ禍が始まった2020年の7月に亡くなった。従来型の葬儀はできなかったが、親戚や亡父の友人を集めて小さな葬儀を行った。
もちろん、当方が喪主である。
その際、いくら身内ばかりだからと言っても、Tシャツにジーパンスタイルで葬儀を開催するわけにはいかない。フォーマルを着用せざるを得ない。まあ、簡素化・カジュアル化できたとしてもせいぜいがワークマンやアオキのアクティブワークスーツの黒を着用する程度である。もちろん白シャツに黒ネクタイは締めている。
となると、フォーマルウェアの需要はゼロには今後もならない。
人間は必ず死ぬから各人の身内は今後必ず死ぬ。また当方も含めて本人も必ず死ぬ。その際、葬儀だけは必ず行われる。
その際、残っていたフォーマルウェア製造業は恩恵を被ることになる。
これは国内の製造加工業も同じである。
しかし、その残存者メリットがいつ生まれるのかは神ならぬ人間には全く見通せない。
20年後に残存者メリットが生まれますよとわかっていればそれに向けて着々と準備ができるが、そうではないから難しい。
10年後に訪れるかもしれないし一生訪れないかもしれない。
だから諦めて転身するというのも賢明な方法の1つだといえる。
昨年末で大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が終了した。当方はかなり面白く見ていたが、この中で前半の主役は源頼朝だった。
頼朝が平家を打倒して鎌倉幕府を開いたことはよく知られているが、頼朝が13歳で伊豆に流されて挙兵するまで20年間あった。
歴史の事実を知っている我々からすると、20年後の挙兵を目指して着々と準備をしてきたと思いがちだが、それは違う。平家の世の中は20年後以降もまだ続いている可能性もあったし、その当時は20年後に終結するとは到底思えないほどの権勢があった。
とすると、実際の頼朝は半ばあきらめながら成人し、その後、たまたま起きた動乱のきっかけで一気に走り出したと考える方が正しいだろう。
今年の大河ドラマ「徳川家康」も同様で、秀吉配下のころ、天下が自分の元に転がり込んでくるかもとは考えられなった。秀吉がいつ死ぬかもわからないし、秀吉よりも先に自分が死ぬ可能性も高い。人間の寿命がいつ尽きるのかは全く予想できない。
今では多くの学者が「家康が天下を意識し始めたのは秀吉が危篤に陥ったあたりからだろう」と唱えている。
来るか来ないかもわからないチャンスにかけてとりあえず準備し続けるというのはなかなかに精神力が必要となる。
残存者メリットを狙う業者は精神力を強く持って、来るか来ないかわからないチャンスを待つしかない。
当方とて、残存者メリットではないが、来るか来ないか分からないチャンスを待って暮らすしかなく、チャンスが来なければこのまま死ぬだけだということを最近は強く認識するようになった次第だ。
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