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南充浩 オフィシャルブログ

衣料品業界人の嗜好と一般大衆の嗜好は大きくかけ離れている

2022年12月26日 売り場探訪 4

人間の数だけ考え方がそれぞれあることは当然で、それこそ本当の意味(左側通行の人たちの主張する意味ではなく)で「多様性」なのだが、いくら多様性といったところで、最大公約数的な部分が存在する。

ある程度の客数や売上高を確保したいのであれば、その「最大公約数」的な部分にフォーカスした物販やサービスが必要となる。

もちろん、最大公約数から外れる人もいるが、それはそれとして割り切るしかない。

 

例えば、各地の観光施策として、昨年で終了した神戸ルミナリエのようなイルミネーション点灯は人気がある。多くの見物人が訪れるが、当方はあれの何が楽しいのかさっぱりわからない。

ゆっくりと人口密度が少ない中で見物するならまだしも人ごみに揉まれながら見ることの何が楽しいのか皆目わからない。花火大会しかり、有名なお祭りしかりである。

とはいえ、毎年大勢の人が押し寄せるわけだから、それが最大公約数であり、当方の嗜好はそこから外れているといえる。イベント主催者は当方をターゲットから外しておくのが正解である。

 

衣料品ブランドや飲食店も同様だといえる。

最近は、業界人が考える「最大公約数」と、一般消費者の「最大公約数」に大きなズレが生じているのではないかと感じる。

衣料品の話をすると、業界人は洋服やブランドが好きだからすごく多くのブランド名を知っている。自分で買うかどうかは別としても。

〇〇テイストならあのブランド、××テイストならあのブランドという具合にその得意ジャンルも何となく把握している。商業施設のリーシング担当者ならもっと詳細にブランドごとにカテゴライズされているだろう。

 

今年、ユニクロの新コラボブランドとしてマルニがある。

12月9日にはユニクロマルニの冬物が店頭投入された。しかし、結果は店頭投入後10日余り後の12月20日にはダウン類とニット類は大幅値下げされてしまった。

店頭投入開始の12月9日には、多くの衣料品業界人、メディア人がユニクロマルニお商品を見るために、店頭に足を運び、試着し、場合によっては購入しており、それを各SNSにアップしていた。

当然、彼らは定価で買っている。まあ、ギフティングと称して無料でもらっている人もいたかもしれないが。

だが、その11日後には最もSNSでアップされていたダウン類が大幅値下げとなってしまった。ついでにニット類(いわゆるセーター類)も値下がりして、通常のユニクロ商品の定価と同等レベルとなっている。ダウンジャケットでいうと定価から5000円の値下がりである。

そして、おまけにネット通販でも実店舗の店頭でも、現時点では品切れしていない。

 

定価で買った彼らは当方よりもお金持ちなので定価で買ったところで痛くも痒くもないのかもしれないが、当方からすると無駄な出費でしかない。当方が定価で買っていたらショックのあまり暫くの間は立ち直れなかっただろう。

要するにユニクロマルニの商品は業界人がワクテカしたほどには売れておらず、そのため最速で値下がりしたものの、それでも完売とは程遠い状況にある、とまとめることができる。

一般的にメンズはファッション感度が低い人が多く、レディースの方が衣料品に対するこだわりは強いと言われているが、ユニクロマルニの商品は、オーバーサイズなので男性も着用できるが、基本的にはすべてレディースなのである。完全に女性をターゲットとしたにもかかわらずユニクロマルニの商品は動きが悪いということになる。

 

なぜだろうか。

1つにはマルニの派手な色使い・柄使いが一般大衆からすると敬遠対象になったと考えられるだろう。

平たく大阪弁でいうと

 

「あんな派手でけったいな服、着られへんわ~」

 

というところだろう。

 

もう1つの要因としては、マルニというブランドが一般大衆には業界人の想像以上に知名度が低いということが実は考えられる。

2020年に復活した+Jには転売ヤーも含めて多くの人が長時間の行列を作った。+Jが2009年から一度展開された経験があるため、ユニクロを利用する大衆層にも知名度があったと考えられる。また、ジル・サンダー氏自身の知名度が少なくともマルニよりは高かったということも考えられる。

 

ほんのつい先日、このブログでも何度か登場していただいた深地雅也さんと懇談した(要するに当方が酒を飲んでいた)。すっかり売れっ子となってしまった彼なので、底辺で一酸化炭素を排出し続けている当方はたまにお会いする程度になってしまっている。

で、その席上、「教えている東京のファッション専門学校生でもマルニのブランド名を知らない生徒が結構いますよ」という話題が出た。

ファッション専門学校生ですらマルニを知らないのなら、ユニクロで買い物をする洋服にさほど強い興味の無い大衆なら完全に知らないだろう。

彼らからすると

 

「何じゃ?あの派手でけったいな服は?しかも通常商品よりもちょっと高いし」

 

という具合になる。

だから、ユニクロマルニは最速で値下げせざるを得ないほどに売れなかったのだろうと考えられる。

 

この辺りは、ユニクロも含めた業界人が一般大衆の「最大公約数」を完全に読み違えたといえるだろう。

大衆からするとユニクロの通常ラインで十分だし、ブランドコラボなら、長年継続され、値下がりしやすいユニクロUで十分だし、新コラボなら+Jくらいの圧倒的知名度が無ければさして必要とも感じないというところだろう。

 

買おうとは全く思わない当方ですら、業界にいればマルニというブランド名くらいは知っているが、一般大衆はほとんど知らない。マルニよりもマロニーちゃんの方が知名度は圧倒的に高いだろう。

しかし、通常の業界人ほどには最新ファッションに興味が無い当方からすると、毎日続々と誕生する小規模零細の有象無象のブランド群なんて全く興味の対象外だし、どれもこれも似たり寄ったりにしか見えない。イキったショップで導入されたとしても「ふーん。そうなんや」と言ってしまえばお終いの存在である。

 

ファーストリテイリングの経営陣も含めて、業界人はとかく「尖った物」を提案したがるが、小規模零細ブランドならそれでも自社に必要な客数は確保できるだろうが、中価格帯から低価格帯において、100億円単位以上の売上高を獲得しようとするなら、そんな「尖った物」はほとんど必要ない。逆に「尖った物」にとらわれすぎると、大衆の最大公約数から乖離が激しくなり、却って業績を悪化させてしまうことになる。

そしてそういう「尖った物」への大衆の興味は、20年前・30年前と比べて格段に薄れていると感じる。

何百億円、何千億円という売上高が必要な大手国内アパレル企業こそ「尖った物」への過度なこだわりは捨て去る必要があり、尖った物への執着は個々の社員や経営者の個人の趣味の範囲でとどめておくべきだろう。小規模零細ブランドは好きにやったら良いんじゃないかと思う。巨大化することは決して無いだろうけど。

 

 

久しぶりにNOTEの有料記事を更新しました。↓

テレビに出演してみて感じたシーインへの薄気味悪さ(個人的体験と個人的感想と)|南充浩|note

 

知名度抜群のマロニーちゃんをどうぞ~

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 comment
  • キムゴンウ より: 2022/12/26(月) 1:56 PM

    12/25 なんばCITYのUQに行きましたが
    確かにマルニコラボ 相当数残っていました
    ダウンもセーターもフロシキスカーフも
    夏の時も結構残っていましたから
    マルニとのコラボは思ったほどには成功しなかったという結果ですかね
    アンダーソンとのコラボなら 投げ売りなら購入しましたが
    マルニのは投げ売りでもクセツヨグランプリなので
    それでも買われないでしょうね
    今後は 着れたらなんでもいいおじさんが 奥さんに
    「あんた これでいいやん」
    とマルニのダウンをあてがわれ
    あの派手なデザインのダウンを着た しょぼいおっちゃんを見かけるのかもしれませんね 

  • のえ より: 2022/12/26(月) 3:35 PM

    最大公約数的コラボでないのは織り込み済みだと思う。
    通常のインラインが不振だから目新しさの為にあんなマイナー派手派手コラボやったんだと思います。企業体力のあるユニクロだからこそ出来るお祭りみたいなものでしょね。このまま何もしなくても売上は下降してたんですから。
    国民服を提供するというインフラ事業は落ち着いたという事でしょうね。

  • BOCONON より: 2022/12/26(月) 5:52 PM

    +J は黒を多用していたからゴマ化しが効いたようだけれど,鮮やかな色が売りのマルニはユニクロとは相性がまったく悪いですね。

    ・ただでさえ一般に発色が良くないユニクロ製品だもの,派手な色だとあんまり見られたもんじゃない。マルニコラボでなくてもこの夏,ピンクやブルーの襟の白いポロシャツなんて「誰が着るねんな」だったし。マルニの自社製品はまあ好きな人もいるだろうと思いますが。

    ・派手な色の服は素材が良くないと安っぽく見えるけれど,ユニクロ製品の素材にそんな高級感なんて望むべくもない。実際今回の記事の画像のダウンジャケットも,言わなきゃスーパーの服の売れ残りにしか見えませんね。

    ・最近街を歩いていても派手,と言うよりキレイな色の服を着ている人をほとんど見ない。全身真っ黒のオジサンや白のトレーナーに黒ズボンなんて葬式ルックのお若い人はよく見るけど(これはこれでかなりどぎつい感じはするけれど,まあ “派手” というのとは違うな)。つまりまったく時代の空気に逆行している感じで,一体誰がこんなマルニにもユニクロにも何の得にもならない企画を通してしまったのやら。今夏のダサいデザインだらけのTシャツと言い,柳井マジックにも少々翳りが見えて来たか。柳井氏の後継者問題はユニクロにとって今後重大な問題になりそうな気がする。

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/01/06(金) 10:47 AM

    キムさん>ウニクロ売れ残りは、着れたら何でもいいオジサンにあてがわれる

    ここ1・2年で、よく見かけるようになった光景です

    明らかにレディスの色・フォルムのウニクロを
    定年後のオッサンが着ている

    近年のスポーツウェア化・オーバーサイズ化の
    もう1つの功罪ですなぁ

    中には息子・娘が飽きた残骸を
    親が着ちゃってるケースすらありますよ

    こうなってくるとまさに国民服で
    それを後押ししているのが天下の三菱

    トヨタは海外がメインになるいっぽうで
    国内の基幹産業はウニクロ=三菱の
    ラインになるのでしょうな・・・

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