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南充浩 オフィシャルブログ

アパレル受注生産をやればやるほど残糸と残布は増え続けるという話

2022年12月7日 製造加工業 1

我が国の生活環境はかなり快適に清潔に保たれている。それには日々、業務として下支えをしてくれている人たちがいるおかげである。とはいえ、彼らもまた生活者だからその恩恵を生活面では享受しているといえる。

両親が死んでから毎月、要らない物を不燃物ゴミとして出しているが、めちゃくちゃにボロボロになった物なんかも放り込んでいるわけだが、処理してくれる人は大変だろうなあと苦労をしのびつつ、家の中が片付いていく様を見ると清々しい気分になる。まあ、人間なんてそんなもんだ。

当方はそんなに肉を好んで食べるわけではないが、世の中にはやたらと肉好きな人間がいる。彼らが美味い美味いと肉を食えているのは、家畜をぶち殺して解体してくれている人たちがいるからである。

 

衣料品の製造も同じである。

机上の正論と現場の正論。 | ulcloworks

これはぜひともお読みいただきたい。

サステナブルとかSDGsとかで、受注生産こそが解決するという論調が強いが、生地、そのさらに原料になる糸は受注生産では対応できないということは、常々このブログでも書いてきた。

在りものの糸で生地を一から作ると、だいたい早くても3カ月はかかる。糸から作るとなると半年くらいは優にかかると言われている。

となると、洋服を受注生産するためには、その何か月も前から生地を揃えておく必要があるということになり、受注前に生地の適正量がわかるはずもないから、ある程度は多めに作っておく必要があるということになる。そうでないと、いざ受注が終わってから生地が足りないとなると、製品の納品は最低でも3カ月は遅れることになってしまうからだ。3カ月も遅れると季節が終わってしまっている。

 

今回の山本晴邦さんのブログはそのあたりの事情が背景にある。

受注分(増減産不可)との戦いは、生産時に起こりうる想定できるロスを含んだ資材発注で仕掛かりつつ、できる限り生産側に負担がないように依頼していたつもりだった。

ロスを含んだ、ということはつまり、うまいこといくと、無駄な材料が残って現場が溢れかえるということにもなりうる。

もう何年間もの付き合いになっているので、山本さんが製造現場に無理な負担を押し付ける人ではないことは良く知っている。

だが、その山本さんを持ってしても、生地・糸に関しては製造現場に余らせてしまうことになっているのが現状であり事実である。

 

「アルクロさんの残糸(生産後に残る糸)すごいよー」と、現場の方に言われたので「すみません、もしかして糸代お見積もりに入れてくれてなかったですか?」とお伺いしたら「いや、コストには入れてるからお金で困ってるんじゃなくてさ、まぁ他さんも今すごく細かいから御社だけじゃないんだけどね、場所もいるからさ」と、昨今の少量生産の結果、糸買った分使い切り(編み切り)のオーダーはほとんどなく、確実に残糸が溜まっていく状況なのだそう。

一時期は残糸が増えすぎて倉庫を借りていたくらいで、家賃もすごいから結局半分以上廃棄して自社倉庫内に収まる程度の物だけ保管しているらしい。

 

アルクロさんというのは山本さんの会社である。残糸分も含めた代金を綺麗に支払っていても、糸は余り続ける。理由は冒頭に述べたように、洋服の受注生産をするには生地の作り置きが必要になるからで、もし足りなくなるとダメなので、あらかじめ多めに用意しておくからだ。

 

パーツごとに編み出して使い分けていく企画が多いので、裁断していいような仕事であれば、大きめのパーツを作って裁断することで編み側の負担を減らす方法など色々あるが、やはり色糸が基本的に使用される部分だったりするので、企画を変えられない場合はパーツ毎に編むしかないし、数量的に渋ければ糸だって残る。

どうやったってゴミは出る。パーツで裁断して裁断ゴミが増えるよりは、糸で残っていた方が後々の潰しは効きやすいだろうから、糸で置いておく方が良い気もする。

しかし糸は溜まり続けていき、誰かが引き取ってくれる様子もない。今回、自社分は全てSADOBASEに引き上げることにしたが、だからと言って自分たちで作りたいものがあって選んだ糸ではないので、具体的な使用方法は思い立っているわけではない。

これが洋服の受注生産を支える生地・糸の製造現場の現実である。
これを解決しようとしてイシキタカイ系の人たちが「残糸を使った〇〇」「残布を使った〇〇」ビジネスを立ち上げておられるが、ハッキリ言って根本的解決にはならない。
製品化した時点で売れる物と売れない物が発生し、売れない物は値下げして販売するか廃棄するしかない。また製品化した時点で追加補充をどうするかという問題が発生する。追加補充するなら、その生地は安定的に供給される必要が発生するから残糸や残布では対応しきれなくなり、量産が求められることとなり、当初の意図からは全くかけ離れてしまうことになる。
売り切り御免の場合は、その都度、生地や糸を見ながらの企画立案から始まることとなり、企画担当者にとっては相当な負担になる。その上にそれほど売れるわけではないから、労力に比して実入りは少ないということが起きる。さらに突き詰めると販売員や営業マンの実入りはそれで賄えるのかという問題も生じる。
かと言って廃棄問題になるから課題解決のために意識高い人たちが再利用プロジェクト立ち上げても、欲しい色とか素材が必ずその中から選べるわけじゃないし、なんなら全部使えるわけじゃないから数も中途半端だしと、いざ『売る』となると決定的に要素が足りない状態になるらしく、付属工場様曰く「なんでも良いからモノにしようってのも、売れないモン作っても余計なお金と労力かけることになるから、やらん方が良いよねって流れになる」のはその通り
ということである。
結局は「エネルギー保存の法則」と「質量保存の法則」から現在の科学技術力では脱却することはできないので、分子から物を作りだして不要物は分子に分解するという技術が開発されない限りは、この問題は解決しない。
だから取り組みをヤメロと言いたいわけではない。できることからやって行って技術開発を待つしかないと言いたいわけである。逆に、今すぐにでも夢の技術で解決できるかのような打ち出しやアピールは却って現実をわからなくするから有害でしかない。
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 comment
  • kta より: 2022/12/07(水) 1:09 PM

    イシキタカイ系だろうが結局は一発逆転ホームランみたいな事に縋る点において、今までのアパレルの人らと何ら変わりないと思う。大手と取引だとか、海外旅行客需要だとか、ネットで売上倍だとか。置き換わってるだけじゃんて。
    本当にこのブログは地に足のついたアパレル指南書だと思います。

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