販売数量の少ないアパレルブランドが差別化素材を手に入れることは難しいという話
2022年12月2日 製造加工業 3
既製服というのは基本的に自動車やパソコン、スマホと同じく工業製品である。もちろん、重工業品と軽工業品の違いはあるが、量産の基本的な仕組みは同じである。
その基本的な仕組みとは何かというと、量産するには「多ければ多いほど良い」ということである。
生産数量が多ければ多いほど1枚当たりの製造コストは下がるし、使用する素材のクオリティを上げても製造コストに吸収しやすくなる。
今回は、山本晴邦氏の久しぶりの更新をご紹介したい。
相変わらず、見出しが短すぎて内容が皆目想像できないのだが(笑)、
繊維製造界では、この地獄絵図が日々展開されている。これは本当に不思議で、差別化を価値と感じて用いてくれる相手が不在の現場でこのような議論がなされているところだ。
餅は餅屋とはよく言ったもので、やはり素材のプロではない人たちが、いくら開発に前向きになったとしても、結局はサプライヤー頼りになる。そのサプライヤーに向かって「独自素材で差別化したいねん!」と鼻息荒く伝えたところで、サプライヤーはその方々の顧客像まで把握できていない状態では、アイデアの出しようもない。
そして差別化したい彼らもまた、意外と直接エンドユーザーの嗜好を把握するための努力をしているかと言われると、そうでもなかったりする。
とある。
これは衣料品業界をよくご存知の方ならお分かりだろうが、当方の知る限りにおいて、アパレル不況になってからもう15年間くらい「差別化」を叫び続ける人々が川上から川下まで相当数存在し続けて、現在に至っている。
要するに同質化から脱却するためには「差別化」が必要ということになるが、川上から川下まで各分野で差別化が叫ばれ続けており、ある意味で「差別化の負のスパイラル」に陥っている側面もある。
単なる差別化では勝てないので、差別化の差別化を目指して、さらにその差別化の差別化の差別化を目指すという具合である。
ただし、商品デザインや売り方を極度に差別化すると、特定の少数な人にしか響かなくなるので、売れなくなる。そういえば、10年くらい前に話題だった「歌って盛り付けてくれるアイスクリーム」なんていつの間にか消えていた。売り方としてはかなり差別化されているといえるが、注文するたびに店頭で歌われても恥ずかしいだけであるから廃れるのも当然だろう。これなんかは悪しき差別化スパイラルの象徴と言えるのではないかと思う。
洋服のデザインも差別化しすぎるとチンドン屋の衣装みたいな服が出来上がるので販売数量は見込めなくなる。
それを解消するためには「川上段階で素材から差別化する必要がある」という結論に行き着くこともまた当然といえるが、名案は必ずしも実行可能ではない。それが現実である。
とりあえず動機としては「なんかええもん、よそと違うもん」がベースであり、その飛び道具があれば、群雄割拠を制することができると考えている可能性が高いような雰囲気を感じる。
まさにこれが差別化の差別化の差別化を生んでいる。
で、冒頭の話に戻ると、素材段階からの差別化を果たすには、莫大な生産数量が求められる。なぜなら、紡績、合繊メーカー、織布工場、編み工場というところを動かさねばならないのだが、彼らの日々の商いはイキリ川下アパレルが扱っている数量よりも規模が何倍も大きい。零細イキリアパレルからすると20枚も服が売れないが、彼らは何千メートル、何万メートル、少なくとも何百メートルという単位の糸や生地を日々扱っているのである。生地1反が50メートルなので、少なくとも200~300メートル(4反~6反)くらいないと話にならない。
標準的な用尺2メートルの服を作るとして1反だと25枚の服が出来上がる。4反だと100枚である。イキリ零細アパレルに100枚の服を売り切るだけの販売力と顧客数があるだろうか。それがあるならとっくに零細規模から脱却できているだろう。
そうなると、素材段階からの「差別化」を果たそうとすると、必然的にそれに見合う生産数量が求められることになる。「1型25枚も作れないし売れないけど、差別化素材が欲しい」なんていう寝言は通用しない。
素材段階の差別化を果たすには糸段階からの開発費・研究費も必要になるが、1反も潰せないような零細アパレルの依頼で、開発研究したところで、その費用すら回収できない。
だから、紡績・合繊メーカーは相手にしないし、織布工場と編み工場も相手にしない。
現在の国内アパレル業界の中で、最も素材段階からの差別化に成功しているのは、ユニクロだといえる。理由は生産数量が1型当たり数十万枚から100万枚と莫大だからだ。店頭販売価格の割には程良い素材を使用できるのは莫大な販売数量の賜物だといえる。
先日、産地系の仕事を長年続けている人と久しぶりにお会いした。この人は数年前から奈良の靴下産地の仕事も手掛けているのだが、
「奈良の靴下工場の某オッサンが『安くて良い」と言ってユニクロの靴下を愛用している」
と話していた。またユニクロほどの数量はないが、無印良品の靴下も産地内で評価は高い。
結局のところ「アパレルにおいては数量は力」なのである。そして、素材からの差別化を真に果たしたいなら生産・販売数量をブランド側が増やさねばならない。それができないのであれば、川上は動かないし動けない。
まあ、素材に限らず、服なんていう軽工業品は差別化し続けても自ずと限界がある。差別化スパイラルはほどほどで切り上げて、顧客満足度や顧客利便性などをブランド側は考慮した方が賢明なのではないかと思う。
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comment
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kta より: 2022/12/02(金) 12:36 PM
最後の顧客満足度が真理かと思います。
自分らが企画に飽きてきて、ただ作る・提案するが顧客に対する貢献だと勘違いしがちですよねえ
支持された商品が本当に差別化されたものなのか、
なら何故定番を売れとう動きが定石なのか。
根本的に自分らが何をやっていきたくて、何を売っていきたいのかって軸がない事が多いですよね。
顧客満足に対してこちらの訴えているものは何なのかを理解しないと情報に右往左往するだけかと。 -
南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/12/02(金) 2:53 PM
販売数量の少ないアパレルブランドが
差別化素材を手に入れることは難しいこれを読み換えて
販売数量が多いアパレルブランドは
単一色柄巨大用尺モノしか使えないとなります。そしてこの構図、いーですか
「販売数量が多いアパレル」ですよ???
が当てはまるのが、なんと「オーダースーツの世界」だったりします
EO各社やイオンさんはひと巻単位で服地を
持って・・・いや、それどころか全量買い取り前提で
服地を織らせるところもあるくらいですしたがって、服地が被りまくるんですな・・・
それも、同業他社間で、です
つまりウニクロとセブンとイオンの肌着が
ぜんぶ共通の生地を使っているようなものですしたがってオーダーと称していながら
服地が人と被りまくるという
恐ろしい事態が発生していますちがいは・・・ボタンの色だけwww
縫製仕様もどこも一緒です
なぜなら縫製工賃が一緒だからついでにパターンも一緒です
なぜなら、でどこが一緒だから吊るしの服とのゆいいつの違いは
「オーダー」というネームのみwwwネームを変えただけでオネダン4割増ですから
こういうのを「マーケティングによる成功例」
というのでしょうwwwもっとも専用の売場が必要だし、
長時間の接客が絶対に必要な業態です
ざっとみ、販管費は吊るし売場の2倍、
坪あたりの売上効率を比較すると半分以下です人と同じモノを名前を変えて売るだけでは
儲かる金額なぞ、たかがしれています
しかもマーケティングするためにお金がかかるしね
>顧客満足度や顧客利便性などをブランド側は考慮した方が賢明なのでは?
顧客満足度が何を意味しているのか、あいまいですが
「対価格」という意味では、ウニクロGUより
満足度を与えられる会社はないと思います
顧客利便性も同じ。日本中どこにでもあるのが
ウニクロGU。すなわち日本中どこでも同じ物が
手に入る。これで十分でしょう
中小零細アパレルにとって元気の出る話が
どっかに転がってませんかねぇ・・・