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南充浩 オフィシャルブログ

繊維関連の製造加工業の国内回帰が激増できない理由

2022年11月16日 製造加工業 0

最近の円高傾向から、「製造加工業の国内回帰を」という風潮が生まれてきたが、繊維関連に関してはそれはなかなか難しいのではないかと思っている。

現在、円高は止まり、139円前後をうろうろとしていて、20何年間「1ドル500円になる」と言い続けて外し続けている伝説のナンチャラとか、10数年間「1ドル50円時代が来る」と言い続けて外し続けている紫の人とか、そういう雑音はやはり雑音でしかなかったと思う今日この頃である。

他の業界分野については知見が無いので製造加工業の国内回帰が進むのかどうか皆目わからないが、繊維関連については、幾何かは戻るものの完全に戻ることはないだろうと考えている。

理由は、戻ろうとしても受け入れる工場が減少し続けているからであり、今後新しく工場を創業する人はほぼゼロに近いからである。

注文があったとしても、それを引き受ける工場数が減り続けるので、完全には戻りようがないというところが実状といえる。

繊維関連の国内製造加工業の現状は以下のようになっている。

 

国内テキスタイル産地で強まる逼迫感 人手不足、供給網の弱体化が深刻に | 繊研新聞 (senken.co.jp)

国内テキスタイル産地で、生産の逼迫(ひっぱく)感が強まっている。コロナ禍がやや落ち着き、店頭も少しずつ動き始めたため、生産を抑えていたアパレル企業が再び作り込みだした。産地では生産量が戻っていないにもかかわらず、納期が遅れるなどコロナ禍で傷んだサプライチェーンが置き去りにされる状況が浮かび上がる。

とある。

そして最後尾には

織り工程や染色の生産能力不足は以前から言われてきたが、最近よく指摘されるのが準備工程の不足だ。家内工業で撚糸を受けてきたような小規模事業者が後継者難・高齢化で廃業するなどし、産地の受け皿が小さくなっている。織布の能力に対するサイジング規模の大きさにも不足感があり、分業体制の弱点が出ている。

 

ともある。

また、繊維ニュースでは

 

奈良靴下産地 セット工場減少続く | THE SEN-I-NEWS 日刊繊維総合紙 繊維ニュース

奈良靴下産地では独自ブランドで成長する工場が年々増える一方で、産地の一貫したサプライチェーンを脅かす課題もある。商品として最終的な靴下の形を決めるセット工程の先細りだ。

 

とある。

 

繊維の製造加工業に関して詳しい方には当たり前のことだが、詳しくない人は全く知らないことの1つに、国内の製造加工業のほとんどが完全分業制で成り立っているということである。

例えば、縫製にしても大雑把に分けると、服を縫う「縫製」という工程の前には、型紙通りに生地からパーツを切り出す「裁断」という工程がある。また縫製後にはボタンホールを開ける工程もある。

縫製工場によっては裁断もボタンホールも同じ工場内や子会社工場として内製化している場合もあるが、縫製工場と裁断工場とボタンホール工場が完全に別人による独立経営ということも国内では少なくない。

別人による独立経営となると、裁断工場だけが倒産したり、ボタンホール工場が廃業したりというケースが2000年以降頻繁に起きている。そうなると、縫製工場だけが残ってもどうしようもない。

 

同じことは生地の生産にもいえることで、大雑把に分けて

 

紡績 ⇨ 撚糸 ⇨ 染色 ⇨ 織布 ⇨ 整理加工

 

という具合に各工程があるが、これが完全に分業化している生地産地が多い。というか、知る範囲ではほとんどの生地産地が各工程がそれぞれ別企業として独立経営している。一貫生産できる工場などほとんどない。

繊研新聞の記事では、糸と糸を撚り合わせる工程の「撚糸工程」で廃業や倒産が進んでいることが伝えられているわけである。

いくら、織布工場が「本物の〇〇生地ガー」と気炎を上げたところで、撚糸工場が無くなったり、染色加工場が無くなったりすれば思うような生地は織れない。

また10年前くらいは整理加工場の倒産や廃業、営業譲渡なども相次いだ。

一例として挙げるなら、これだろう。

兵庫の染色加工「ダイイチ」が破産開始決定受け倒産 国内倒産 – 不景気.com (fukeiki.com)

染色加工や織布も手掛けていたが、業界を震撼させたのは、ここが整理加工場としても大手の一角だったからである。ちょうど10年前のことだ。

整理加工というのは地味な工程だが、生地作りには無くてはならない工程で、この工程で生地の表面感や密度などが調整され、織ってすぐの状態だと「すだれ」みたいなガサガサの生地も存在しており、それが整理加工の工程を経て我々が普段目にするような生地に整えられる。

 

縫製や織布、染色という工程は地味な製造加工業の中にあって素人にも比較的わかりやすい・イメージしやすいため「花形」ともいえるが、撚糸や整理加工、靴下のセットなどは地味な工程なので、注目度も低い。おまけに技術を転用してオリジナル製品を作ろうにも、その技術が局所的すぎてオリジナル製品を作りにくいという不利さがある。必然的に工場の経営は上向かず、倒産するか廃業するかということになる。現社長の息子や孫もおいそれと「継ぎます」とは言えない。確率論的に言えば、そんな地味な工場を経営するより異業種の企業に雇用された方が生活は成り立ちやすいから当然である。自分が工場オーナーだったとしても息子や孫に「継げ」とは言えない。

これと同様なのがセーターのリンキング工場である。編み上がったセーターのパーツを編み合わせるという地味な工程だが、リンキングすることがセーターの定義の一つなので不可欠な工程である。しかし、地味で儲けも少ないことから国内リンキング工場は廃業や倒産で減少し続けている。リンキング工場の減少を解決する方策の一つが、島精機製作所が20年くらい前に開発した一体成型編みができるホールガーメント編み機なのである。

 

じゃあ、残存する工場が消えゆく工場を買収すればいいじゃないかという声も聞こえてきそうだが、実現はかなり難しい。工場を買収するということは土地建物、機械設備、人員を含めると軽く数千万円は越えるだろう。億単位の投入も珍しくないが、それほどの投資が可能な国内残存工場が一体何軒あるだろうか。ほとんどないだろう。そして買収して統合したところで今後業績が上向く保証もないし、円高傾向がこのまま続くとも限らない。円高が解消されれば国内回帰ムードは無くなる。

残存工場にとってはあまりにもハイリスクハイリターンである。

 

今後、国内の製造加工業はゼロにはならないだろうが、徐々に工場数を減らして行き、どこかで底打ちするのではないかと当方は考えている。その時には、残存した工場同士で連動して国内全体が一つの産地となって製造加工を可能な範囲でこなすというのが最も確実な現実ではないだろうか。

 

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