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南充浩 オフィシャルブログ

高額な衣料品が丈夫で長持ちするとは限らないという話

2022年11月15日 洗濯表示 2

家族がいたころには感じたことがなかったが、1人暮らしになると、物の修理を丸投げすることができなくて全て自分で手配するようになるため、どんな頑丈そうな物も何年かおきに修理したり買い替えたりしなくてはならないと痛切に感じるようになった。

自転車しかり、家電しかり、住居しかり、である。

年を取ると時間の経過が速いため、故障を発見すると

「え?この前修理したところなのにまた?」

なんて思ってしまうわけだが、当方の「この前」というのが5年前とか7年前とか10年前とかだったりする。

改めて永遠不変の物は存在しないのだと痛感する。

 

軽工業製品である衣料品も当然同じで、同じどころか、重工業製品に比べるとはるかに脆くて儚い物なのは一目瞭然である。しかし、その一方で「高い物を長く使おう」とか「一生物の服」とかそういう啓蒙主義的な商品やブランドがあるのも事実である。

ただ、厳密な意味での「一生物の服」というのは存在しない。

日本の世間一般的には「高い服だから長持ちする」という信仰が存在するが、高い服が必ずしも長持ちするとは限らないというのが事実で、綿やウールなどは細番手の細い糸を使えば使うほど高級にはなるが同時に脆弱にもなる。

例外的に、高額な「ガチ」アウトドアのギア衣料品や、高額な「ガチ」ミリタリー服などは丈夫で長持ちする。これは悪天候と戦闘という究極の状況下で人間の身体を守るために生まれた服だから当然である。

だが、細番手の綿糸やウール糸を使ったワイシャツやらスーツやらワンピースやらは、そういうことは想定して作られていない。当然、糸は細くなればなるほど脆くなるから、細番手の糸で織られた生地も脆くなる。当たり前である。

綿やウール、麻といった天然繊維は、細く滑らかな糸を紡ぐことが難しい。難しい物というのはたくさん作ることができないから希少性が高くなる。希少性が高くなると当然値段も高くなる。

ひどく大雑把にいうと、脆くて壊れやすい細い糸で作られた繊細な生地が高額なのはそういう理由である。耐久性を含めた機能性とは全く違う観点から価格が決まっている。

 

ここを理解しておかないと、高額なドレス衣料、フォーマル衣料の理由がわからなくなる。ドレス衣料、フォーマル衣料というのは丈夫で長持ちするから高額なのではない。

丈夫で長持ちする衣料品が欲しいなら作業服を買えばいい。もしくは高額なガチアウトドア衣料か高額なガチミリタリー衣料を買えばいい。

 

前回、月に一度のUS君が寄稿をしてくれた。

服の寿命や耐久性に規定はあるのか?という話【1】

第2回は来月に寄稿である。

今回の主眼はどちらかというと「撥水加工の寿命」に焦点が当てられているが、衣料品そのものについても

 

●服自体の耐久性も特に規定はないが、洗濯表示が判読できる間は耐用年数だと考えることができる

 

と一部言及されている。

洗濯を繰り返して洗濯表示の文字が消えたら、通常の衣料品は耐用年数が過ぎたと考えるというのは一つの目安となるだろう。

 

30何年間、自分で洋服を買って洗濯をして保管をしてきてわかったことは

通常の洋服(ガチアウトドアやガチミリタリーは除く)の傷み具合は

 

1、着用回数が少なければ少ないほど傷みにくい

2、洗濯回数が少なければ少ないほど傷みにくい

3、保管方法を厳重にすれば傷みにくい

 

ということである。

まあ、識者からすれば「何を当たり前のことを」と思われるかもしれないが、当方ごときの凡人からするとこの程度を理解するまで30年とは言わないが15年くらいはかかってしまったのである。

通常のカジュアルやフォーマルは着用回数が多ければ多いほど傷みやすく生地は劣化する。洗濯も同様である。

要するに、一度も着用も洗濯もしないのが最も美しく長期間衣料品を持たせるコツといえる。

とはいえ、そんなことは不可能なのだから、一般的に気を付けるべきは「保管を厳重にする」という点だろう。

 

着用した後は必ず洗濯をしないといけないし、洗濯の際、襟元や袖先の皮脂は必ず落とすようにしないといけない。またウールやシルクは、虫に食われないように防虫剤を入れておかないといけない。これをさぼって虫に食われて穴が開いたセーター類はこれまでに7~8枚くらいある。返す返すも口惜しい。

また、白いシルク品、綿製品は洗濯をしてから保管していても黄茶色に変色することが多い。これも防がねばならないし、シルクが黄変したら業者に頼んで補修しなくてはならない。素人の家庭洗濯では到底手におえない。

綿の白シャツくらいなら、皮脂で黄変した部分には、カラー漂白剤と中性洗剤を浸み込ませてから水で濡らして1日か2日放置してから通常の洗濯機に放り込んで回すとだいたいほとんど落ちる。

また、直射日光や電球の光が四六時中当たることは日焼けにつながるので避けねばならない。

この着用回数を減らす、洗濯回数を減らす、保管方法に気を付けるという3点は衣料品の値段の高低にかかわらず共通といえる。

 

最近、低価格衣料品との差別化を狙ってなのか「一生物の服」という売り方をするブランドが散見されるように感じるのだが、アウトドアやミリタリー、一部カジュアルを除くと、大部分のカジュアルやフォーマル、ドレスというのは高かろうが安かろうが耐久性自体はあまり変わらない。寿命を延ばすためには、洗濯も含めた保管メンテナンスが不可欠である。保管メンテナンスが不十分なら、高額衣料品の方が傷みやすい。

極端にいうと、スーパー120のウールのスーツよりもワークマンかAOKIのアクティブワークスーツの方が、ノーメンテナンスではるかに長持ちするし、何なら洗濯方法も簡単である。

となると、「長く使えますよ」という売り方で差別化したい高額ブランドは洗濯やメンテナンス方法もレクチャーした方が安全だということになる。

逆に、「洗濯とか保管メンテナンスとかめんどくせーよ」という人は、合繊主体の低価格品を着用する方がはるかに丈夫で長持ちする場合が多いということになる。

 

個人的には「一生物の服」という売り方や見せ方にはちょっと危惧してしまう。洗濯や保管メンテナンス方法も同時に強く伝えているのでなければ、「高い服は自動的に長持ちする」と考えてしまう消費者も相当数生まれてしまうのではないかと感じられてならない。ひいてはそれが、高額衣料品をさらに売りにくくしてしまう可能性が高いのではないか。杞憂に過ぎないかもしれないが、そんな危険性を感じている。

 

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 comment
  • BOCONON より: 2022/11/15(火) 12:36 PM

    「一生もの」の服や靴,というのは確かにあやうい言い方ですね。

    ▶”一生モノ” と言える服も靴も腕時計も確かにあるけれど,それはメインテナンスの費用や手間を覚悟した上のでの話ですね。僕もたとえばアンティークの機械式腕時計に憧れはあるけれど,ぜんまいを毎日巻くだけでも面倒くさい気がして手が出ない。まして故障した時のことを考えるとね・・・別にアンティークでなくても所謂ハイブランドの腕時計なんて,日本の気候向きに作ってないから狂うし故障しやすいし,修理費もびっくらするくらい高くつきますからね。その上ソーラー電波時計に慣れちゃうとねえ ...

    ▶「それが一生使えるようなモノか否か」なんて事が分かる人がそんなにたくさんいる筈はあるまい,と思う。
    「エヴァグリーンでエレガントの極みな若い頃のチャールズ王のスーツやシャツ,ネクタイ,あるいは靴」なんて言ってもたいていの人は「なに言ってんの,この人?」てなものでしょう。昨今トラッド系がみな衰退しているから尚更ですね。

    ▶「”一生” ったって,そもそもオマエは一生体形が変わらないと思っているのかよ?」というもんだいもありますね。隠しようもない中年太りだった僕は「靴も太ると履けなくなるのかよ…」と嘆いていましたがが,最近なぜか痩せてきた。けれどもどうやら「だから若い頃買ったものがまた着られるようになった」とも限らないようです。痩せたって「引き締まった体つき」になった訳じゃないから,まぁ当たり前みたいなもんですが。
    むかしは「健康でいたけれぼ男は1日3,000キロカロリー以下にせい」と言われていた気がするけれど,僕のかかりつけの女医さんに言わせれば今は「1,800キロカロリー以下でなきゃ」と言われているらしい。
    やれやれ・・・。

  • BOCONON より: 2022/11/15(火) 2:42 PM

    ところで以下はいかにも長い事洋服に関わってきた人でないと言えない類の話ですね。

    > 綿製品は洗濯をしてから保管していても黄茶色に変色することが多い

    そうそう,クリーニングに出したからって,白シャツは「後はずっと放りっぱなしっでOK」じゃないですよね。

    > 綿の白シャツくらいなら、皮脂で黄変した部分には、カラー漂白剤と中性洗剤を浸み込ませてから水で濡らして1日か2日放置してから通常の洗濯機に放り込んで回すとだいたいほとんど落ちる

    これも実はヒジョーに重要な指摘ですね。「へたな “襟汚れ落とし専用洗剤” なんか使うより(泡式・・・でなくてもいいが)台所洗剤をしばらくしみこませた後で洗濯機で洗う」方がずっと効果的,というのは僕も気がつくまで20年くらいかかりましたからねw

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