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南充浩 オフィシャルブログ

心証を良くするために「キャッチ―な事柄」を盛りすぎて実態が分からなくなるという話

2022年10月28日 トレンド 5

販促や広報という観点でいうと「キャッチ―」な言葉でブチ上げてメディアや消費者からの注目を集めるという手法は効果的である。

だが、行き過ぎると「嘘の神話」を作り上げることとなり、消費者をミスリードするばかりでなく、産業界すらミスリードすることとなり甚だ有害といえる。

今年に入って、当方はこのブログで2度ワールドを非難した。そのことに対して何ら後悔も反省も感じていない。逆にワールドに反省してもらいたいくらいである。

非難したのは

1、「百貨店向け商品の9割」を国産化するという発言

2、これまで以上に生産リードタイムを短縮したいという発言

この2つである。

理由はどちらも実現不可能に近いからだ。

まず、百貨店向けを国産9割にするという発言だが、ワールドは自社縫製工場をいまだに所有している。そのため、完全外注のアパレルと比べると国内生産を増やしやすい。

しかし、いくら百貨店内の店舗数を縮小しているとはいえ、ワールドの現在の規模の生産を全て自社工場には吸収できない。これはワールド内部の人からの意見でもあり、それらを集約すると「最大70~75%程度までは可能」ということになる。(余談だが会議の席では50%目標と決定されていたとも内部から聞く)あと20%内外はどうするのか?絵空事を公式発表してるんじゃねえぞ、という話になる。

 

もう一つは、生産リードタイムのこれまで以上の短縮である。これも国内工場のキャパオーバーに加えて、海外工場は電力不足などで2019年までよりも生産スペースも確保しにくくなっている上に物流網の混乱も起きている。生産リードタイムの現状維持ならまだしも短縮できる要素はどこにもない。

これが非上場の零細小規模メーカーの発言なら「ふーん、そうなんだ」で済むが、上場しており(再上場だけど)、規模はピーク時より縮小したとはいえ国内最大級のアパレルメーカーが盛り過ぎた発言を公式発表することは有害である。

 

これに対して「心証を良くしようとする行動は当然でしょう」という異論をいただいたが、心証を良くしようとするのは当然だが、盛りに盛って心証を良くすることは百害あって一利なしだ。

 

最近発表された無印良品の綿保温肌着にも似たようなことが感じられる。

 

「無印良品」、衣料品改革で機能性インナーをリニューアル 綿本来の吸湿発熱性に着目

綿に着目。「通常の綿よりも汗や湿気と結合する分子を増やす特殊な技術」によって、吸湿発熱性を高めた。

 

という商品説明がなされている。

これは他の媒体でもほとんど同じ文言だから無印良品側の公式発表ということになる。

しかし、当方は綿で吸湿発熱性を高める特殊な後加工というものがあることを知らない。もちろん、当方の知識は狭くて浅いし、技術開発は日進月歩だからそういう加工技術が開発された可能性はゼロではない。もし、そういう新技術が開発されていたとしたら浅学菲才な当方にお教えいただきたい。

実際にどのような商品なのか見てみると、「あったか綿」通常版の素材組成にはレーヨンが相当含まれている。

メンズだと綿82%・レーヨン11%・ポリウレタン7%となっており、

レディースだと綿53%・レーヨン41%・ポリウレタン7%となっている。

「あったか綿」というよりは「あったか綿レーヨン」と言った方がふさわしい素材組成であることがわかる。まだメンズは綿が多めだが、レディースだと実に4割強はレーヨンである。

 

各業界メディアでも触れられているが、これまで無印良品は「綿であったか」という肌着を展開し続けてきた。

 

昨年までは類似する商品として“綿であったか”インナーを販売していた

 

とこの記事でも触れられている。

で、この旧製品である「綿であったか」シリーズの素材組成は記憶している限りにおいては綿90%以上だった。

この2020年12月の記事では

素材組成は綿93%・ポリウレタン7%となっている。またAmazonでまだ販売されているメンズのVネック長袖製品は綿95%・ポリウレタン5%である。

 

何が言いたいのかというと、当方は「綿の特殊加工」という公式発表の文言を疑っている。吸湿発熱機能はたしかに綿にもある。その昔、東洋紡からそんなレクチャーを受けたこともある。

だが、実際問題としてこれまでマス製品に対して使用された事案は知る限りにおいては無い。

それよりも手っ取り早い吸湿発熱素材はレーヨンである。

保温肌着の国民服となってしまったユニクロのヒートテックはどのシーズンの商品でもかならずレーヨンが含まれている。

ちなみに今秋冬のメンズのヒートテックVネック半袖はレーヨン21%混であり、レディースの8分袖Uネックインナーはレーヨン20%混である。

 

当方の乏しい知識と照らし合わせると、無印良品の「あったか綿」シリーズの吸湿発熱機能は綿の特殊加工(そんなものが本当にあるのかどうか当方は存在すら疑っている)によるものではなく、レーヨン混によるものではないのだろうか。なにせレディースなんて41%もレーヨンが含まれているのだから。

「レーヨン混の吸湿発熱肌着」と銘打っても、ヒートテックを始めとする各社の低価格インナーと何ら変わらないから新規性に乏しい。そこで「綿の吸湿発熱肌着」という「キャッチ―」な打ち出しを考案したのではないのだろうか。心証を良くするために。

 

ここでふと思い当たるのが、ワールド、良品計画ともに現在のトップが金融・コンサル出身だという事実である。「心証を良くする」ためにキャッチ―な言葉で盛るという手法が似通っていても何ら不思議ではない。逆に言うと金融やコンサルはこういう「キャッチ―さ」が好みだということが透けて見えてくる。

だが、こういう盛り方をすることで、アパレル生産の実態や素材効能などが業界外の人間からはわかりにくくなり、意味の分からない議論を誘発してしまうことになる。

金融やコンサル好みの「盛ったキャッチ―さ」を採用することは極力控えてもらいたいと強く願っている。

 

仕事のご依頼はこちらからお願いします~↓

SERVICE

 

無印良品の旧「綿であったか」インナーをどうぞ~

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2022/10/28(金) 12:00 PM

    「当社の信用を毀損しているため信用毀損で損害賠償2200万円を請求する」とか訴えられないか心配っ!(・.・;)
    しかし、なんで世の中には変なコンサルとかが蔓延ってるんだろう?
    大学卒業してすぐにコンサルファームに入ったりする若者までいるようですし。

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/10/28(金) 2:18 PM

    今回の無印の天然繊維を異常に訴求したコピーは
    「公正取引委員会から怒られるレベル」です

    それも誰がみても、です
    無印の人たちは分かっているのでしょうか?

    軽工業製品の製造・販売に係る人間なら
    すぐに気づく次元なのにね・・・

    こういう表示を何千万人に触れる場所でやるのは
    コンサルの感覚です。アパレルの人間の感覚ではない

    広報の人間や上役がアホなのはよく解りました
    しかし、それ以上にアホなのは企画の人間です

    無印がやたら綿混にやこだわる理由は色だしでしょう

    アースカラーもどきが大好き
    しかも外から見えないインナーでもwww

    その結果、売場がねんじゅうビンボー人の弁当みたいな
    しょうゆ色・みりん色になる

    レーヨンポリオンリーでいけば、アースカラーでも
    ハニーズみたいな鮮やかさが出る筈

    もしくは上代を上げて綿花の質をよくすれば
    本物のアースカラーが出せる筈

    ワールドと同じく、多店舗展開をやり続けて
    それと同時に原価率を削り続けて、はや30年

    しかも原材料の天然繊維は高騰中

    ますます商品の内容が悪くなる
    すなわち色味が悪くなって当然です

    無印のシャツを
    バブル前のものと半世紀後の今のを比べると
    原価が3割以上削られていると思います

    84年ごろかな、セレクト扱いのシャツより
    やや物は悪いけど、値段は50%も安いから
    業界の人間は無印に飛びついたものです

    もっとも青山の無印の半径5㎞での流行でしたが

    それと比べると、今の無印は売場全体がボソボソです
    いうなれば、着ふるした安手の綿製品の感じです

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/10/28(金) 2:37 PM

    無印アパレルの人間は「アテクシたちわぁ・アパレル業界の
    リーディングカンパニーだぁ」と思っているフシがあります

    ・ナチュラル系リンネル系の祖先はアタクシたち無印
    ・無印は地球で音楽でエコロジ~な会社をはじめ
     いろんな会社にパクられた偉大な存在

    というふうに間違いなく思っています。そして

    ・無印はエライ会社だから何1つ路線を変えちゃダメ!

    となる訳です。もっともその裏には

    「カリスマ不在だからこれ以上何も思いつかないww」

    という悲しい現実が見え隠れします

    ワンポイントやステッチのような装飾が何もないシャツ
    がスキマ商品だった時代があったんですよ

    同様に色を乗せてないカラーボックスやコート紙を
    使わない紙製品をどの会社も出していなかった時代がね

    ただし、しょせん軽工業製品ですから
    商売人が売れると思うとあっという間にパクられます
    そして、パクり品のほうが品質が良くなるのが通常です

    無印がブランド品ならばネーム代が取れるのでしょうが・・・

    ただ、ブランドを否定したのが無印だし
    今では低価格・やすもの品としてのイメージが定着してますから

    最終的にはコンサル業をメインにしたいのでは?
    具体的な物作りをともなわないリフォームなどです

  • BOCONON より: 2022/10/30(日) 3:42 PM

    僕はケミカルな素材は好きでないので・・・というのは以前書きましたが,ちょっと前何かで知った「”無印良品が綿=天然素材で暖かいインナーを今期発売する” というのは耳よりな話だな」と思っていたので,今回の記事やコメントを読んでちょっとがっかりしてしまった。
    「ノーアイロン加工だって最初は綿混紡しかなかったのだから,綿100%でも暖かい素材というのはあながちまったく不可能でもあるまい」と思っていたのですが・・・。

    まぁ僕としては無印良品の暖かいインナー買うとすればウールと綿の混紡の肌着にしますね。ちょっぴりお高くなるけれど,どうせユニクロのヒートテックも無印良品のあったかインナーも,ケミカルなものはそんなに効果は長持ちしそうもないし,昔は綿とウールの混紡 ≒ いいとこどりの生地:viyella はとんでもなく高価でカジュアルシャツ1枚2万円くらい普通だった事を思えば,MUJIのインナーなんて安いもんだ,と思うし。
    お若い人たちはそんな事情は知らないだろうから,こんな事を書いてもまったく有難がりもしないでしょうが。

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/10/31(月) 8:57 AM

    投稿タイトルに関係する話です

    「綿に永続的な機能を付加できる特殊加工は存在しない」

    こんな事、服地に関わる人間ならだれでも知っています

    したがって、綿に機能を付加したと訴求すると
    JAROに訴えられるぞ~wwというのが暗黙の了解です

    むかし「シワにならないシャツ」「アイロンがいらないシャツ」
    というのが流行ったでしょう?

    しかし、今は誰もそんな宣伝文句を使いません

    シャツ生地としての質感を出すなら、綿かシルク50%以上が必須
    という事は化繊はせいぜい40%が限界です

    この構成で繊維の機能性を訴求すると
    綿に防シワ機能の後加工をしたと宣伝せざる得ません

    しかし、実態としては化繊のしなやかさのおかげで
    アイロンフリーになっているだけです

    ま~それにしても無印はとことん天然繊維=なちゅらる~
    が大好き!なんですね

    無印コットン製品にはふつうのコットンにはない機能が
    備わっているとウソをつくほど好きなんだからww

    出来ることなら、元来の機能性が高いウールかカシミアで
    こういう商品を作ってほしかったですねぇ

    もっとも低価格アパレルになった今の無印には
    不可能でしょうがw

    注)そのむかしは無印も5せんえんカシミアとか
    やってましたけどね・・・

    今の販管費がかかりすぎている体制だと
    8千円以上になってしまうだろうな・・・

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