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南充浩 オフィシャルブログ

技術コンテストをやっているのではない

2014年6月12日 未分類 0

 繊研新聞社のニュースサイトにメーカーズシャツ鎌倉の貞末会長のロングインタビューが掲載されている。
全文が知りたい方は原文を読んでいただきたい。
ここでは個人的に業界にとって参考になると思われる部分を抜粋して編集したい。

http://www.senken.co.jp/news/kamakura-shirts-ny-madeinjapan-yoshio-sadasue/

冒頭のニューヨーク出店の感想は個人的に興味がないので読み飛ばした。
その中にも一節だけ興味深い部分がある。

だけど、イタリア製は300-500ドルと超高級。チャイナだと19ドルからあるがそれでは満足できない。そこにうちが79ドルで出した。

とある。1ドル=100円と考えると、イタリア製が3万~5万円、中国製1900円というのは、日本国内の価格とほぼ同じといえる。そこへ7900円が登場したからアメリカ人にも受けたといえる。
これは欧米輸出を考えるブランドの価格設定の一つの目安になるのではないか?
ジーンズ業界が画策している輸出価格5万~7万円なんて商品は、よほどブランドのステイタス性が認知されていないと、たとえ欧米市場でも売ることは難しいことがわかる。

メードインジャパンの品質云々はありますが、地方の工場経営者としては雇用が大事。それは良くわかります。でも、会社に希望が持てないと新しい人は入ってきません。雇用を守るというけれど、その工場がマーケットを支配できる製品づくりが出来ているのか、というと疑問です。我々のビジネスモデルのように、強力な販売力を持ったリテイラーと組まないとなかなか難しい。

 工場そのものだけで生き延びるのはもはや難しい。紡績から紡織、縫製,アパレル、小売りと流通が多段階に分かれ、需要がいっぱいある時は、それぞれのパーツ,パーツで役割を果たすことで生き残ることができた。川上の事も川下の事情も知らなくても注文が来て、自分のところだけやっとけば良かったからです。 しかし、気付いたらその川上と川下がへたっちゃったから、縫製工場はどうしていいか分からない。それが今の実情です。

とある。まさしく実情である。
続けて

メードインジャパンを守れと言っても、私から見れば能書きばかり言ってなにも進んでいない。「生き延びるために何をやっているの」と聞いても、「技術では負けないんです」と。そんなこと誰も聞いてませんよ。

ともある。これも正論である。

縫製工場に限らず、生地メーカーだって染色加工場だって整理加工場だって「技術では負けないんです」というが、技術コンテストをやっているわけではない。
いかに売るかが問われているわけである。

それに工場は高いものをつくっても工賃はほとんど同じ。だったら、数をつくらないと売り上げは増えないでしょう。同じ発注元の商品をコンスタントに大量に作れば生産性をあげることも出来ますしね。

とあるが、ここもその通りだといえる。
ただ、工場の工賃体系が現状のままで良いのかどうかは今後業界全体が真面目に議論する必要がある。
これ以上引き下げるのは論外として、日本人の縫製工を育てるためには賃金の引き上げが必要となる。
そんなもの育てる必要がないというなら話は簡単で、外国人研修生をどんどん引き込むしかない。
それで良いかどうかを業界全体が考えねばならない。

それと工場側からすれば数を作らないと経営が成り立たない。
それは洋服が工業製品だからである。オートクチュールを除いた洋服は文化遺産でも芸術品でも作品でもない。工業製品である。
工業製品なら大量に作ることでコストの引き下げができ、製品の品質が安定する。
だから工場側は数量が必要なのである。

最近、どこかの小国の大統領のスローライフ的な言葉だとか、モノヅクリ系の小規模デザイナーの自給自足論だとかがクローズアップされることがあるが、それはあくまでもアンチテーゼとして読むのがふさわしいだろう。
メインストリームにはなりえない。

現在の世界全体を覆う経済システムはそんなことでは翻らないし、仮にそのシステムがすべて失われたとして、生活が中世時代へ戻ることを良しとする人間が70億人中どれほど存在するだろうか。筆者はひどく少数派だと考える。

さて、貞末会長のロングインタビューの後半は自社の組織についてである。
明確な組織図を持たず、それぞれが得意な分野で力を発揮し、一人が何役も兼務するという体制だという。

これは勢いのある会社ならではであろう。
またカリスマ創業者が第一線で活躍されているからこそであろう。

会社規模がさらに大きくなり、カリスマ創業者が引退するころになると、明確な組織図という物が必要となる。
勢いとマンパワーと個々の人間の善意・熱意だけでは立ち行かなくなる。
そのころにどのような組織になるのか興味深いところである。逆に最後まで組織化することを否定するのであれば、カリスマ創業者の引退とともに会社は終焉を迎えるのではないかと思う。

いずれにせよ、このロングインタビューは読む価値が十分にある。少し長いがご一読いただきたい。

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